第4話 ロムニア王都 1 <伯爵の狼藉 1>
レナトス暦 7017年
異世界召喚 332日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領218日目
ロムニア国建国宣言より217日目
スタンツァ・ガリア占領210日目
鉄門砦陥落173日目
協定会議・敵討ちより151日目
ティムリヤン国を出発し54日目
アルメリア公国を出発して7日目
スタンツア・ガリアを王都へ向け出発して2日目
スタンツア・ガリアを王都へ向け出発して2日目
夜明けと同時に、宿場町カララシを出発する。
そして、午後5時…徐々に夕日に赤く染まっていくロムニア王都の城壁が遠くに見えてきた。
正門外には多くの商隊が並んでおり、又今日の入城を諦めた商隊が堀の外に多くの天幕を張っていた。
イリヤ達に護衛されたダペス家の馬車2台は、イリヤが門兵に顔を見せ、馬車に刻まれたダペス家の家紋を示し、そして鑑札を見せると特に調べられることもなく城内へ入れた。
午後6時…貴族・騎士エリアの門をくぐる。
そして、馬車を止めると先頭の馬車からテテス、ルルス、チェル、沙耶と白いローブを羽織り、フードを深く被った博影が降りる。
2台目の馬車からは、サラと女騎士シャーディが降りた。
博影は、イリヤ達鉄意騎士団騎士達に護衛のお礼を伝える。
「博影、俺達はダペス邸への報告などもあるから供は出来ないが、面倒を起こすなよ」
「心配性だな、イリヤ。10時までには戻る」
イリヤ達と馬車は王都・ダペス邸へ向かった。
そして、博影はサラに近づきながら…
「サラ、本当に夕食は市民街でいいのか?」
満面の笑みでサラは頷く。
「もちろん、明日からは会議や打ち合わせばかりで自由な時間はない。このロムニア王都の市民達の様子を知るためにも、夕食は市民街で取りたい」
楽しそうなサラを横目で見ながら、シャーディは軽くため息をつく。
「伯爵、そう言う事ですので、出来れば治安のよいエリアの食堂でお願いします」
博影は、苦笑いしながらシャーディに近づくと…
「シャーディ、その呼び名はアルメリア公国だけでお願いしたいな。ここでは、博影で」
「すっ、すいません…博影…様?」
いやいや、様もいらないから…と、シャーディに念を押しながら博影達は貴族・騎士エリアの門を再びくぐり、市民街へ歩いていく。
…2時間後(午後8時)…
あちこちの屋台を覗き、食べ歩きながら博影達は正門近くの市民広場の食堂に入った。
「もう食べられない…」
サラはそう言いながら、椅子の背に満足そうに寄り掛かる。
「わずか半年前に独立したばかりだというのに、かなり賑わっていますね」
シャーディもサラの隣に腰かける。
「そうだろ、そうだろ~!」
注文を取りにテーブルに来たウエイトレスが嬉しそうにシャーディへ話しかける。
「マリナ様、黒騎士様達によって帝国に勝利した後、黒騎士様が莫大な資金を提供し、そしてイシュ王国イムーレ王子、ダペス家カローイ様の指導の元、イシュ王国の騎士や文官達、そして元ロムニア公国の多くの騎士や文官達が頑張ってくれているんだ。
あたいたち市民も頑張らなくちゃね」
「それだけじゃねえよ。マリナ様の意向で、俺達市民エリアの民会(市民達の代表による話し合いの場)の意見も元老院(有力貴族達による国家運営・方針を決める場)できちんと話し合われるようになったし、身分差による理不尽な行為もなくなった。
この国は、良い国になる!」
「さぁ、お前達も飲め飲め~もうすぐマリナ様が南方の聖イリオス神殿から帰ってこられる、その前祝いだぁ~」
博影達が座るテーブルに、あっというまにワインやビールが並べられた。
そして、食堂の客全員でロムニア国に乾杯した。
博影の隣に座る沙耶は、ビールをちびちびと飲みながら…にが~ぃ…と顔をしかめている。
「沙耶、無理に飲まなくても、俺が飲むよ」
「いつまでも子ども扱いしないで、ビールぐらい飲める」
「いや、未成年は…」
「この世界では、15歳で成人! 17歳の私は、りっぱなおとなですぅ~い~っ!」
ちびちび飲みながら博影に…い~っ…として見せる沙耶は、十分子供のようであるが…と、テテスとルルスは思うが、注文した菓子を食べるのに忙しい。
チェルは、相変わらず博影の足元に座り肉を食べビールを飲んでいるが…
「コンナ…ニガイモノガオイシイノカ?…」
と、つぶやく。
博影は、足元のチェルの頭を撫でながら…
「良く冷えていれば、その苦さも美味しくなってくる」
「ほう、それなら冷やしてやろう」
テテスは、テーブルの下に魔法陣を出現させ博影達のビールを冷やす。
「わぁ、凄い! 本当に冷たい! すごいねテテス、さすが水竜の設定だね」
「沙耶……いやもういい」
テテスは、沙耶への説明を諦めビールを飲むが…
「冷やしても、苦いのぉ~沙耶、熱い紅茶を出してくれ」
「いいよ、でもテテス、せっかくロムニア王都に来たんだからここの紅茶を飲んでみようか? 目の前の市民広場に紅茶を出す屋台があったよ」
沙耶が立ち上がる。
「私も、食後の運動がてらついて行く。市民街の茶葉も買いたいしな」
と、サラも立ち上がる。そして、博影もついて行こうと立ち上がるが…
「貴様は座っておけ、貴様がついて行くと皆動く。我が護衛でついて行こう。ルルス、チェル、我の菓子に手を付けるなよ」
そう言うとテテスは、沙耶、サラと護衛のシャーディを連れ立って市民広場へ向かった。
しばらくすると、市民広場の方が騒がしくなる。
食堂に数名の客が慌てて入ってくる。
「またあいつだ…親父、ビールを頼む。みんな…が来たぞ。しばらく静かにしておけ」
そう言うと男たちはカウンター席に座る。そして、食堂は静かになった。
「市民広場に…誰が来たんだ?」
博影は気になり食堂のドアを開け、外を覗くと…
「サンドア・クザ伯爵のおなりである。市民達よひれ伏せ」
大声で怒鳴りながら軽装騎兵数騎が目の前を通っていく。
すると、屋台の者達や客、市民広場で酒を片手に談笑していた者達は、市民広場の中央を空けるようにその場にひれ伏した。
賑わっていた市民広場は、静まり返る。
そして、100騎程の軽装騎兵が現れ、ひれ伏す市民達の前に大きく間隔をあけ並ぶ。
しばらくすると、正門側より重装騎兵10騎を先頭に煌びやかな馬車がゆっくりと現れた。
その後方には、重装騎兵50騎、軽装騎兵100騎が続く。
市民広場を取り囲む建物の窓や、扉からはそっと市民達が覗いている。
その馬車は、ひれ伏す市民と、剣を掲げる騎兵達の間をゆっくりと進む。
「博影、貴様も飲むか! ここの紅茶もなかなかうまいぞ!」
向かい側の市民広場から、上機嫌のテテスが博影に大声で声をかける。そのテテスの腕を引っ張り後ろへ下げようとするサラとシャーディ、テテスの後ろに紅茶のポットと茶葉の袋を抱え上機嫌で立つ沙耶…。
「こわっぱ、クザ伯爵のおなりである、無礼だぞ!」
テテス達に軽装騎兵2騎が近づく。ひれ伏す市民達は、心配そうに離れていく。
しかし、テテスは騎兵を無視しゆっくり紅茶を飲む。
「こわっぱ、死にたいらしいな」
軽装騎兵は、テテスの足元へランスを突き立て脅しをかける。
…ひぃぃぃ…騎士様、お許しください…子供でございます…
ひれ伏す市民達は、小声で騎士に許しを請うが…
テテスは、右足でランスを踏むと…
バキッツ
「なっ? ランスが折れただと? こわっぱがぁ~」
もう1騎の軽装騎兵が馬上よりランスをテテスに突き立てる…が、テテスはランスを蹴り上げた。
ランスは、くるくると回りながら市民広場の脇の3階建ての建物の屋根を越えていく。
馬車が止まり、先頭の重装騎兵1騎が近づいてきた。
「何をしている!」
「はっ、アレク隊長。伯爵様に敬意を払わないこわっぱと女が居りましたので、教育をしておりました」
「ほう、女とな? まだ、王都には私の事を知らぬ者達がいるようだな」
馬車の扉から、ワインを片手にクザ伯爵が降りる。騎士達は、下馬しその場に跪く。
クザ子爵は、テテス、シャーディ、サラ、沙耶を見ると…
「ふむ、その女たちは、ロムニアの女と毛並みが異なるな。異国の女か? 楽しめそうだな…」
クザ伯爵は、ニヤッと口元を緩めるとサラと沙耶を指差し…
「その赤い髪と黒い髪の若い娘2人は、私自ら教育してやろう、アレク、馬車に連れてこい。
こわっぱと、年増女はいらん」
…年増…だとぅ…こいつ絶対に許さない…
思わず26歳女騎士:シャーディ・ルクのこめかみが震えた。
「はぁ、クザ伯爵、数日後、元老院会議が開かれます。女は我々が追い払っておきますので…」
「アレク、同じ事を言わせるな! 元老院会議が終わるまで、伯爵たる私自ら毎晩教育してやろうというのだ!」
…騎士アレクは、うんざりした様子で騎士数名を率いサラに近づいていく。
「姫様、沙耶、逃げてください。ここは私が…」
シャーディは、サラの前に出ると左腰の剣に手をかけた。
「シャーディ、大丈夫。私の騎士が来た」
少し酔っているのか、嬉しそうに笑うサラの視線の先には…
「騎士アレク、お久しぶりでございます」
白いローブのフードを取った博影は、馬車の前を横切り騎士アレクに声をかけた。
しかし、礼はとらずサラ、沙耶の前に立つ。
「ん? お前は…都市ガランで会った治癒師か?」
「はい、エリュトロンアルクダの討伐(第8章第6話~)や宿場町カフルへの帝国貴族護衛(第8章第11話)の任務を行いました」
博影は、そう笑顔で騎士アレクへ話しかけたが…エリュトロンアルクダの討伐は、建前上クザ伯爵の手の者が討伐したことになっている。
騎士アレクは、苦笑いしながら…
「うむ、あの時は良く尽力してくれたな」
「良かったです、私の事思い出していただけましたか。そして、そこの者達は、私の連れです。
何か失礼を働きましたか?」
「うむ、それが…な…」
「アレク、何をやっておる。さっさと娘を連れてこい!」
周りの騎士達がサラと沙耶を捕まえようと取り囲む。
「まて、お前達!」
アレクの制止が間に合わず騎士達は、2人を捕まえようと手を伸ばし…ルルス、シャーディに蹴られ吹き飛ぶ。
「あぁ~、私も蹴りたかった…」
少し酔っているサラは、残念そうにルルスに蹴り飛ばされ石畳に叩きつけられた騎士を見る。
「ほぉ、元気な女達だな。良いぞ良いぞ、手足を縛ってしつけてやろう。赤い髪と黒い髪の娘以外切り捨てて構わん、捕らえろ!」
ワインを飲みながら、クザ伯爵は騎士達に命令する。
「クザ伯爵、お待ちください! 王都で殺生など、又このような往来の真中では…」
必死に騎士アレクが止めようとするが、下馬している軽装騎兵騎士達は100人が、剣を抜き博影達を取り囲む。
他の下馬している重装騎兵騎士50人は、馬車の後方で控えている。
「クザ伯爵、正気ですか? ロムニア国建国の象徴たる司祭マリナ様より、貴族・騎士の立場を笠に着た乱暴・狼藉は、絶対に許さないとのお達しが出ているはずです」
「治癒師風情が、伯爵たる私に楯突くか、身の程を教えてやろう! まずは、その生意気な治癒師からだ。
簡単に殺すなよ、切り刻め!」
「クザ伯爵お待ちください、あの治癒師、黒騎士の手のものです。ご自重ください」
騎士アレクが、必死にクザ伯爵を止めるが、伯爵の苛立ちはさらに募る。
「黒騎士の配下だと、アレク、それがどうした私は伯爵である。貴様等、なにをしておるか、さっさと奴を切り刻め!」
博影は、テテスとシャーディにサラと沙耶を護衛させながら、市民広場の奥へ下がらせた。
そして、自分は沙耶たちから離れる為、数歩前へ進む。
博影の周りを100人のトーレスナイト(下級騎士)が、2重に取り囲み剣を構えた。
「さて、まずいことになったな」
博影は、術袋からテテスに以前貰ったドラゴンソードを引き抜いた。
こんにちは~
お立ち寄りいただきありがとうございます(*^^)v
又立ち寄ってもよいかな~とちょっと思われた方、ブクマや評価をぽちっとしていただけると、とても嬉しいです、大変励みになりますm(_ _)m




