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第10話 竜人 1 <リタヴィス・ケルト>

レナトス暦 7017年


異世界召喚 305日目


城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領191日目

ロムニア国建国宣言より190日目

スタンツァ・ガリア占領183日目

鉄門砦陥落146日目

協定会議・敵討ちより124日目


スタンツア・ガリアを出発し、107日目


ティムリヤン国を出発し27日目


聖都ギイスを出発し…8日目

港町スフーレを出発し…2日目

湾岸都市セヴァン…2日目


聖都ギイスを出発し、8日目(湾岸都市セヴァン・2日目)


午後3時頃…


湾岸都市セヴァン内…




「消えた? ……消えただと!」


システィナ、チェルは黒騎士が立っていた場所へ駆け寄り、周りを…天井を見上げる。


「イナイ…イナイ。ドコニ?」


チェルは、目の前の大きな魔石(湾岸都市セヴァンのコア)に近づき、右手を置いた。

ひんやりとした魔石は、所々小さく発光しているが、ただ静かに台座の上に佇んでいた。



………



薄暗い大きな聖堂…


上下に黒い魔法陣が現れ、その間の空間が揺らぎ、竜人リタヴィス・ケルトと黒騎士が現れた。


「ここは?…」


「湾岸都市セヴァンの後方の大地にあるセヴァン湖…その大きな湖に突き出ている小さな島、セヴァン島です。

といっても、今は水位が下がり陸続きになっていますけどね。

そして、ここはその島にある教会の中です」


竜人リタヴィスが天井を指差す…


「これは?」


黒騎士は、天井を仰ぎ見た。若干色あせているが…天井一面に壁画が描かれている。


「どうです、見事なものでしょう」


竜人リタヴィスは、目を細める。


「あれは…竜?」


天井の壁画の中心には、黒い大きな竜が描かれている。そして、その周りには付き従うような一回り小さい3頭の竜…

そして、端に1頭…4頭の竜とは異なる方向を見ている竜…深い深海のような青い竜…おそらく水竜テテス・ネーレイス…


「あれは…人?…竜人?」


黒騎士の見上げる先の壁画には、聖職者のような2人の人物が描かれている。先頭に立つ者には翼はないが、付き従うように見える一人には、黒い翼があった。


「ふふっ、この壁画のモチーフは、竜に挑む者…その先頭の聖職者の様な出で立ちの者は、竜に挑んだ召喚者、ファフニール・ベルンです」


竜人リタヴィスは、黒騎士の問いとは異なる事を答え、そして、さらに目を細め愛おしそうに壁画を見つめた。


竜人リタヴィスに促され、その古めかしい教会の大きな扉を開け外へ出る。

2人の周りに広がる大きな湖の水面は、鏡のように澄み、波一つなく、周りの魔物の森の木々が水面に映りこみ深い青い色の水面に緑の色彩を添えていた。

そして、魔物の森の木々が開けた先の眼下には、海と、湾岸都市が見えた。


「湾岸都市セヴァン?」


「えぇ、湾岸都市セヴァンです。まぁ、本当は、アルメニア国王都、アルメニアと3千年前呼ばれていた都市なのですけどね」


竜人リタヴィスは、教会から森へ続いている小さな石畳の上に立つと、術袋よりドラゴンソードを引き抜いた。


「これは、黒龍リグ・ヴリトラ様から与えられしドラゴンソードです。固さだけなら、あなたの黒い剣に勝るとも劣らない剣です」


竜人リタヴィスは、ドラゴンソードを両手で持ち大きく振りかぶると…石畳を粉砕するかのような勢いで踏み込み、黒騎士へ渾身の一撃を振り下ろした。


ガキンッ


両手で受け止めた黒騎士の全身を衝撃が貫く。


「教皇、どういうつもりだ?」


黒騎士は、受け止めたドラゴンソードを払いのけると黒い剣を引き抜き構える。


「どういうつもり? こういうつもりです」


再び大きく、ゆっくりドラゴンソードを振りかぶったリタヴィスは、黒騎士の頭部へ目掛け振り下ろす。


ガキッ


黒騎士は、黒い剣で受け止めるが、再び大きな衝撃を受ける。


…くっ、手がしびれる。黒い剣、甲冑越しでこの衝撃とは…


「さぁ、いつまでこの状況を理解せずに、手加減しているつもりですか? これは、殺し合いですよ。

さっさと魔法陣を出しなさい。私も全力であなたを殺します」


黒騎士は、足元に淡く光る魔法陣を出現させる。黒騎士から魔力を与えられた魔法陣は、周囲の魔力を吸い取り何倍もの魔力を黒い武具へ与えていく。


「ふふっ、本当に不思議な魔法陣ですね」


竜人リタヴィスは、数m後方へ飛ぶ。右手を黒騎士へ突き出し、その手の先へ黒い魔法陣を出現させた。


「普通、魔法陣とはこのように黒いもので、そして…」


黒い魔法陣の中が僅かに輝き、次の瞬間…うねるようないく筋かの雷光が黒騎士に襲い掛かった。


その雷光は、黒騎士の体と周りの大気を真っ白に包み込む。緩やかな風が、白いもやを流していく‥


「ほう、さすがですね。雷の属性を持つ、私の魔法陣の攻撃を受け無傷とは」


竜人リタヴィスの声が、心なしか上ずっていた。


「教皇、この殺し合いの理由を聞かせる時間もないのか?」


「んっ、言われる通りですね。あまりにも、気が急いていました。まぁ、しばらく邪魔は入らないでしょうし…」


左手で握り、切っ先を黒騎士へ向けていたドラゴンソードを下ろすと…


「私は、黒龍リグ・ヴリトラ様の従者竜人リタヴィス・ケルトであり、調整者です。そして、あなたは、今までの召喚者と大きく異なり非常に異端な力を与えられている。

もしくは、異端な力に目覚めてしまった。

私は、あなたの力は、この世界の均衡を揺るがすと判断しました。

よって、排除します」


「勝手な! 無理矢理この世界に召喚しておきながら、殺すと?」


「えぇ、そうです。そして、私があなたを召喚したわけではありませんよ」


「召喚された者から見れば、同じ事だ。異世界召喚とは、竜の力の元で行うと聞いた。そして、貴様は竜側の者だ」


「ふむ、なるほど人間からみればそうなるかもしれませんね。まぁ、私は、人を一人殺そうが、10万人殺そうがそれが世界の調整の為必要であれば、躊躇しませんし、何の感情もわきません。

そして、この世界の調整の為に、あなたを殺した後、あなたと共に召喚されたというあなたの娘も殺しに行きます。

あなたと同じ力に目覚める可能性がありますからね」


「貴様!」


黒騎士の鬼気迫る気迫を感じ、竜人リタヴィスは僅かに笑みがこぼれた。


「あなたのその感情、とても心地よいですよ。この世界では、そういう人の感情を見る事は娯楽の一つですから。

あぁ~、あなたを私が殺したと、あなたの切り刻まれた体を見せた時のあなたの娘…沙耶は、どのようになるのでしょうか?

泣き叫び絶望に崩れる? いやいや、覚醒しあなた以上の力を見せてくれるかもしれませんね」


「リタヴィス!」


黒騎士は、激しくリタヴィスへ踏み込むと黒い剣をリタヴィスの首目掛けて振り下ろした。

その剣を、ドラゴンソードでなんなく受け止めると…


「私が対応を遅れるほどの今の踏み込み、教皇の間で私の力を上回ったあなたを見た時、もしやと思っていましたが…

あなた、無意識に身体強化を使えるようになってきていますね」


竜人リタヴィスは、受け止めたドラゴンソードで黒騎士の黒い剣を跳ね飛ばすと、すかさず黒騎士へ斬りつける。

お互い足を止め、全力で剣を振るう。


黒騎士は、黒い防具でリタヴィスのドラゴンソードを受け、すかさず黒い剣でリタヴィスの首を狙う。

魔法陣から膨大な魔力を注がれている黒い防具は、竜人リタヴィスの大地をも割るような一撃をも黒い術袋がコントロールしている亜空間へ逃がす。

黒騎士は、先ほどと異なりまったくダメージを受けていないが、リタヴィスの重い一撃を受けるたびに、魔力を喪失していく。


リタヴィスも又、威嚇や牽制の剣は無意味と考え、右手に握るドラゴンソードで一撃一撃を全力で振るい、黒騎士の黒い剣を左手の爪で受け流す。

出来れば、両手でドラゴンソードを握り全身の力で打ち込みたいところであったが、黒騎士のカウンターを無防備な状態で喰らえば、竜人といえどその肉体は容易に切断されるだろう。



青空が、厚い雲に覆われてきている。光を隠し、灰色の空に変え重苦しい空気を漂わせる。



ガキン、ガキッッ…キーン



黒騎士と竜人リタヴィスは、息つく間もなく1時間ほど全力で斬りあっていた。


黒騎士は、大きく肩を上下させ苦しそうに息を吐く。

そして、目にかかった血を指で拭う。黒い防具の隙間からは、少し血が滲み出している。


相対する竜人リタヴィスは…全身から血をにじませていた。足元には、僅かに血だまりが出来ている。


「ふふっ、黒騎士さすがです。これほど全力の一撃を見舞ってもなお、あなたの魔力は尽きないのですか…ふうぅぅぅ、それならば…」


竜人リタヴィスは、ドラゴンソードを両手で強く握りしめると背を屈め、3回転程し勢いをつけると黒騎士の胴へ剣を叩きこんだ。

しかし、その剣は黒騎士の胴を切断するかのように叩きこまずに、剣を斜めにし刃で斬るように流していく。


黒騎士は、リタヴィスが回転しながら空きとなった背中へ黒い剣を振り下ろす…が、視界の端からリタヴィスの太い尾が黒騎士に打ち込まれた。


「ぐっ…」


大きな衝撃が、脇腹を貫いた。


「少しは、応えてくれましたか? いや、これでも無理ですか…」


リタヴィスの尾は、まるで全体に大きな衝撃を受けたかのようにあちこちから血が大量に滲み出してきた。

リタヴィスは、魔力を尾へ流し、止血と修復を行う。

しかし、完全に修復されたわけではない、再び武器のように使うことは出来ないだろう。


「本当に化け物ですね」


そういうリタヴィスの口調は、怒りや恐れではなく、期待の感情が含まれている。


「となると、私に残された事は、少ないですね。黒騎士、もう一撃付き合ってもらいましょうか!」


そう言い放つとリタヴィスは、背中の翼を広げ、羽ばたかせ空へ舞った。ぽつぽつと雨が降り出す中、リタヴィスは、空高く舞い上がっていく。


息を整えた黒騎士は、みるみる上空へ舞い上がり小さくなっていくリタヴィスを見上げながら…


「上空から、落下の勢いを利用して打ち込んでくる気か…」


竜人リタヴィスの一撃は重い。聖騎士の一撃とは比べ物にならない程の重さであり、その一撃一撃をすべて受けた黒騎士は、かなり魔力を削られていた。


気力を振り絞り、さらに魔法陣へ魔力を注ぐ、そして…リタヴィスから、身体強化を使えているようだ…と指摘されたことを思い出し…


「身体強化?…今まで何度か試したことはあったが、出来なかった。今の俺なら出来るのか…」


チェルは、首筋に小さな魔法陣を出現させ、全身に魔力を巡らせ身体強化を行っている。そのイメージで、魔力を全身に巡らせ、身体強化を図ろうとするが…

全身に魔力がめぐる感覚がない。


「それなら…」


黒騎士は、魔法陣から身体へ魔力を注ぐ…全身へ魔力がめぐる感覚はない‥さらに魔法陣へ集中し、魔法陣からあふれる魔力を、直接、無理矢理全身へ流す。

すると…全身に魔力がいきわたり、力がみなぎり、周囲の感覚が体に飛び込んできた。


…これなら…


黒騎士は、上空を仰ぎ見た。



上空では…


「ここらで良いでしょう」


リタヴィスは、眼下を見る。小さな島の中心に黒騎士が立っている。リタヴィスは、両手でドラゴンソードをきつく握りしめ…


「黒騎士、私の全身全霊を込めたこの一撃! 受けて貰いましょう」


リタヴィスの大きな黒い翼がたたまれ、その体はゆっくり落下する。徐々に加速がつく。羽を器用に使い体を回転させていく。



上空から、竜人リタヴィスが、剣を突きだしものすごい回転で向かってくる。


…これは、剣では受けられない…


大地に大きな衝撃が響き渡った。

その静かだった湖面は、大きく揺れ、大きな波しぶきが立つ。

湖畔の魔物の森の木々の数本は倒れ、付近の魔物や動物が騒ぎ立て逃げ惑った。


リタヴィスのドラゴンソードの切っ先は、黒騎士の胸にあった。黒騎士の足元の大地は大きく窪んでいる。

黒騎士は、甲冑の隙間から血を溢れださせながら、片膝をついた。

そして、黒騎士の胸へ全身全霊の一撃を打ちこんだ竜人リタヴィスは…ゆっくりと、地面へ倒れた。


地面がみるみる地で染まっていく。

その一撃は、まるで強固な岩に当たったかの如くびくともしなかった。その衝撃は、リタヴィスの体へ跳ね返り、その全身を粉々に打ち砕いていた。


地面の血が広がっていく。

その血だまりへ、意識を失った黒騎士も又、倒れこんだ。


そこへ、人影が近づいていく。


「満足したのか?」


2人の傍に、水竜テテス・ネーレイスが立っていた。



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