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第30話 聖都ギイス 教皇の間 2

レナトス暦 7017年


異世界召喚 297日目


城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領183日目

ロムニア国建国宣言より182日目

スタンツァ・ガリア占領175日目

鉄門砦陥落138日目

協定会議・敵討ちより116日目


スタンツア・ガリアを出発し、99日目


ティムリヤン国を出発し19日目


港町スフーレを出発し…10日目



「システィナ…いや、あなたは、王都イシュの地下室の台座で眠っていた黒いミイラ…第6代イシュ王が召喚したという召喚者か?」


博影(黒騎士)は、その薄く赤色に染まったシスティナの瞳から視線を外さず尋ねた。


「えぇそうです、博影。イシュ王都ではそのような話にしていますが、私は5千年ほど前に黒竜リグ・ヴリトラによって召喚された人間です」


「あら? あなた、自分の事をまだ人間だと思っているのですか? 化け物ではなくて?」


「リタヴィス、うるさい! 博影と話す間くらい口をつぐんでおきなさい」


ファフニール・ベルン(システィナ)は、ジロッと教皇リタヴィス・ケルトを睨み…博影に笑顔を向けた。


「こほん。無理やり起こされたから良い気分ではないけれど、博影に心配かけるとこの子にストレスがかかるから、ひとしきりお話してから眠ります。

今、しゃべっている私は、博影が言った通りイシュ王都の地下の台座の中に眠っていた召喚者ファフニール・ベルンです。

あなた達の事は、システィナの右腕として今まで見させてもらってきましたよ」


「システィナは?」


「心配ないわ。システィナは、今、意識の深いところで眠っています。私を無理やり起こしたこの傲慢なリタヴィス・ケルトとも話が終わったら、システィナを呼び戻しますから」


「そうか、シスが何事もないならそれでいい。ファフニール・ベルン、あなたには、感謝してもしきれない程、恩を受けている。

黒い術袋に収納されていた黒い武具や聖石が付与された武具、国家予算数年分の金品、食料…生きる上で使わせてもらっている。

そして、鉄門砦では、私や他の者達の治療までしていただいた。

それと、私が切断したシスの右腕になってくれてありがとう」


博影(黒騎士)は、ファフニール・ベルン(システィナ)の左手に掌を合わせ深々と頭を下げた。


「ちょ、ちょっと距離が近いわね」


そういうとファフニール・ベルン(システィナ)は、慌てて自分の左手に添えられた博影の手を博影の膝の上に戻す。


「5千年も生きているおばあちゃんが、15歳の少年に手を握られて頬を染めるなんて、テテス様どう思われますか?」


「知らん、人間の感情などに興味はない」


テテスは、全く興味がない‥と視線も向けない。


「ところで、私も聞きたいことがあるのですが…」


おずおずとルーナが口を開く。


「博影様、沙耶は、イシュ王国・城塞都市ダペスの召喚の間で、私とチェルの血を床に彫られていた魔法陣へ流し、ティアナがその魔法陣に満たされた魔力を操作することによって召喚したはずですが、なぜ伝説の黒竜リグ・ヴリトラに召喚された…と考えるのでしょうか?」


ルーナの問いに教皇リタヴィス・ケルトが答える。


「各地に残る召喚の間は、約3千年前に黒竜リグ・ヴリトラ様が設置された物です。その召喚の間には、異世界召喚を行えるほどの回路(魔法陣)は組み込んでおりません。

まぁ、どれほど聖力が秀で魔石を操れるとしても人間のレベルでは、異世界召喚など出来るはずもありません。

黒竜リグ・ヴリトラ様でさえも、異世界召喚を行う為には、100年…いや、200年は魔力をためなければならないでしょう。

水竜テテス・ネーレイス様たち4竜であれば、300年…もしくは、400年は必要かと思います」


教皇リタヴィス・ケルトは、一旦言葉をきり…深く息を吐き、再び続ける。


「つまり、各地に残る召喚の間…とは、黒竜や他4竜へ、召喚の間の魔法陣を稼働させるほどの人間があらわれた、又、異世界召喚に希望を託す程、その地域の国々が乱れている事を知らせる役目なのです」


「そうか…つまり、召喚の間を使って魔法陣を発動させる可能性又は、取得している人間の炙り出しと、戦乱地域の確認と言う事か…」


博影(黒騎士)は教皇リタヴィス・ケルトを睨みながら話した。


「その通りですが、少々異なるところは…戦乱地域の確認ではなく、戦乱地域へ異世界召喚された者を調整者として送り込み、戦乱を大きく又は、長引かせ程よく人間を間引くためですね」


博影(黒騎士)は、その険しい視線を水竜テテス・ネーレイスに向ける。


「くっ、テテス! 以前話してくれた異世界召喚者の調整者としての役目とかなり異なるようだが?

以前、テテスは、破壊する事に疲れ、そして破壊し殺戮する方法しかないのか…迷いが生じた。

そこで、莫大な魔力を貯め、異世界召喚を行い、その異世界召喚者の価値観がこの世界にどのような影響を与えるのか…

その召喚者に力を与える事で、どのように世界を調整するのか…と言っていた」


「博影、その通りだ」


テテスは、飲みかけの紅茶のコップをテーブルに降ろし博影に視線を向け答えた。

しかし、テテスが再び口を開く前に、教皇リタヴィス・ケルトが口を開く。


「博影、勘違いしてはいけません。黒竜リグ・ヴリトラ様を含めた5竜の方々はそのような希望が、思いがあった…という事なのです。

しかし、結果、異世界召喚され力を与えられた召喚者たちは、国々の戦乱へ介入し人間を間引いた…いや、言葉を変えましょうか、竜と同じく人間を殺し人間の数を調整したのです」


「そ、それは…」


博影(黒騎士)の言葉が詰まる。


「そう、あなたも同じです。ギュラー砦での戦、ルピア公国戦、ロムニア国独立戦、そしてあろうことかカラデニス海、バザール海を航海しティムリヤン国にまで渡り戦をした。

1年に満たないこの月日で、何千人…いや何万人殺しましたか?

異世界召喚が行われるようになったこの5千年の中で、博影、あなたがもっとも優秀な調整者ですよ」


教皇リタヴィス・ケルトは、にっこりと博影に微笑んだ。どうやら、心からそう思っているようだ。


「勝手な事を言うな!」


サラは思わず教皇へ激しく食って掛かる。サラの頬は紅潮し、唇はワナワナと震えている。


「良く知りもしないくせに勝手な事を…言うな。博影は…博影は、我々に救いの手を差し伸べてくれた。

その事は、もちろん自分達の国・ロムニア国が帝国に勝利するために必要な事の一つだっただろう。

だが、その博影達の決死の戦いによって我々は救われた…ティムリヤン国は救われた。

空の上から、地べたを這いずる人間を眺めているそなた達から見れば、博影の介入によって死ぬ人間が増えただけに見えたかもしれない。

この世界を1000年単位で見る者達にとっては、博影の介入は意味のない事に映るかもしれない。

だが、我々…地べたを這いずる我々にも生きる意味はあるのだ。

70年ほどしか生きられない我々にとっては、1000年の世界の流れよりも、目の前の数年の都市の安寧が大切なのだ」


「ふむ、なるほど、悠久の時を生きる我々には、僅かな…刹那の時を生きる人間の気持ちは理解できないでしょうね。

サラ、申し訳ありません」


教皇リタヴィス・ケルトは、サラにわずかに頭を下げた。


「あなた達の価値観を否定するつもりはないのです。あくまで、異世界召喚者の務め…としての言葉でした」


「まぁ、この話はいつまでたっても平行線でしょうね」


ファフニール・ベルン(システィナ)は、紅茶を一口飲んだ。


「異世界召喚され力を与えられれば、自分を助けてくれた人、目の前の関わった人たちを救いたいと動く。結果、国の戦乱にも巻き込まれる。

そして、戦い、一人二人と人を殺していくと、自分の精神が壊れるか…」


「何も感じなくなるか…」


テテスは目を閉じたまま、言葉を被せた。


「ファフニール・ベルン(システィナ)、博影への助言はそこまでで良いのではないか? こ奴は、こ奴なりに考えて行かなければならないだろう」


「まぁ、水竜テテスがそう言うのであれば、私に異論はありません。博影…」


教皇リタヴィス・ケルトの言葉で、物思いにふけっていた博影は顔を上げ、横に座るファフニール・ベルン(システィナ)へ顔を向けた。

ファフニール・ベルン(システィナ)は、じっと博影を見ると…


「博影、この子…システィナの事、よろしく頼みますよ。この子を…」


ファフニール・ベルン(システィナ)は、言葉の続きを言いかけてやめる。


「いや、余計なお節介はやめておきましょう。システィナをよろしくお願いします」


ファフニールは、満面の笑みを博影に向ける。そして、教皇リタヴィス・ケルトへ、視線を移すと…


「リタヴィス! 強引に起こされたことは忌々しい事でしたが、あなたが私を起こす為に魔力都市のコアから魔力を注いでくれた事は感謝します。

鉄門砦戦での治療に使った魔力なども含めて、ほぼ回復させることが出来ました。

では、水竜テテス・ネーレイス、私はこの子の奥底に眠ります。

もう二度と、些細な事で起こさないでください」


「我が起こしたのではないのだが…」


と、テテスの言葉が終わらないうちにファフニール・ベルン(システィナ)は、両眼を閉じ力なく博影の膝元へ倒れこんだ。

博影は、少し離れたソファーへシスティナを横たえ、薄手の毛布を被せると元の席へ戻る。


「博影、今、他に聞いておきたいことはあるか?」


めずらしくテテスが、博影の意向を聞く。博影はしばらく考えたのち…


「いや、多くの事を聞きすぎたから、特に…今はない。だが、あえて言えば…聖騎士のことは?」


「聖騎士の事ですか? 聖ギイスの機密事項ですので、詳しくお話しするわけにはいきませんが、聖騎士は人間の体に定着しやすいように加工された魔石が、聖都には5つありました。

この100年ほどの実験で、その5つの魔石を使い、ようやく5人の聖騎士がつくられました。

元は、上級魔物の魔石を加工していますので、博影とその亜人の娘が闘技祭で聖騎士スピカ・オルレアンと聖騎士ディベリ・フィオーレに勝利したことは、大変驚きましたよ」


「アジンデハナイ…ライジュウダ…」


チェルは、肉を頬張りながら教皇を睨む。


「えっ? 雷獣ですか? 魔人化したということですか? それならなおの事、雷獣が魔人化して、そこの娘の様な細い体となるはずはないのですが…」


「チェルは、わけあって幼体の時に魔人化した」


「はぁ、幼体の時に魔人化ですか? 博影は、嘘は言わなさそうですが、たかだか50歳程度の幼体が魔人化するなどと、にわかには信じがたいですね」


「俺は、その時気絶していたから見てはいないが、チェルの話だと黒い術袋から人の頭ほどある魔石が出てきて、地面に流れ出た俺とチェルの血と混ざりあい、チェルの魔人化を起こした…と聞いている」


「人の頭ほどの魔石ですか…おそらく、その大きさであるなら神獣の魔石だと思いますが、魔力の豊富な血と混じりあったとはいえ、前世紀の遺物の力もなく幼体が魔人化するなど、信じられないお話ですね。

そして、いくら魔法陣が展開してあったとはいえ、この7千年の間でも聞いた事がないお話ですね」


「なんの神獣でしょうか?」


そう言うと教皇リタヴィス・ケルトは、都市の魔力を使用してチェルの体を調べてみようと試みるが…


「ヤメロ…メシガマズクナル…」


教皇を睨むチェルの両眼は本気である。それほど、食事の最中を邪魔されることは嫌なのだろう。


「そうですか…少し残念ではありますが、またの機会の楽しみに取ってお行きましょう。そして、博影、他に聞きたいことや欲しい物などありませんか?

あなたには今回の枢機卿の件では、大変ご迷惑をおかけしましたので…」


「いや、当初の予定通りロムニア国とティムリヤン国の領事館兼店舗を聖ギイスにおかせてもらえればいい」


「それはもちろんです。この聖都と港町スフーレの中で、良い場所も紹介させてください。それとは別に…あぁ、そうですね。

現在閉鎖されている港町ですが、博影なら都市を復興できるでしょう。

都市の復興が条件ですが、湾岸都市セヴァンを博影の自治領として譲りましょう」


…聖ギイスは中立国のはずだが、その使われていない湾岸都市を他国の騎士に自治領として譲ろうとは…怪しい…


博影は、口元は緩めながら懐疑的な視線を教皇へ注ぐが…教皇は、その笑顔を崩さなかった。



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