第20話 雷獣 2
地下牢から出ると、次は、治療所へ向かう。
博影と沙耶、2人に挟まれ大人しくチェルが歩く。
犬ではないのだが、リードを持たずに犬の散歩をしている感じがして、かなり気を使う。
しかし、チェルは大人しいもので、駆け出したりせず、しっかり同じスピードで博影寄りに歩く。
本当に、人の言葉を理解しているのか試してみる。
歩きながら、
「チェル、沙耶は自分の大切な娘だから頼むよ。チェルが、守ってくれ」
と、話すと沙耶の方へ寄り、これでいいのだろうと、言わんばかりに博影を横目で見上げる。
「いゃ、試してごめん。よろしく頼む」
チェルの頭を撫でた。
重傷者が入っているあの治療所へ着いた。沙耶とチェルに、外の目立ちにくい木の陰で待っているように話す。
いつもなら口を尖らず沙耶だが、ここまでくる道すがら、チェルを見た市民からかなり驚かれたので、さすがに治療所へチェルを連れて入る事は気が引けたようだ。
素直に木の陰に移動する。
ティアナと治療所へ入ると、すぐベレッタが近寄って来た。
「みんな順調に回復しているわ」
男性、女性合わせ5人の修道者が、包帯の巻き直しや、トイレ介助など行っている。
「良かったです。なにかあったら、遠慮なく呼び出して下さい」
「えぇ、遠慮なく声かけるから、その時はよろしくね。頼りにしてるわ」
お互い軽く会釈をする。
ティアナと治療所を後にする。
この後、遅めの昼食を町をあちこち見学しながら食べる予定だったが…チェルを連れて、街中を歩くつもりになれなかったので、ティアナに沙耶を任せ、何か買って来て貰う事にする。
自分とチェルは、先に城へ戻る事にした。
二時後、ティアナと沙耶が両手いっぱいの食べ物を抱えて、本館3階の部屋に戻って来た。
いやいや、誰がこれ食べるの…と思いつつ、沙耶の街での話を聞きながら…
野菜のかき揚げ、芋コロッケ、鳥の炭火焼、煮豆…等
すべて…それ風のものだが、薄味又は、塩味ながらまあまあいけた。
かなり多かったので、残りはすべてチェルにあげるとすべて平らげた。
毛づくろいをはじめているチェルを見ながら…
「…チェルは、雑食か…意外だね」
「お父さん。チェルは、何でも食べるから食べ物は心配しなくていいね」
そう言いながら沙耶は、毛づくろい中のチェルのあちこちを撫でるが、チェルは、気にした風もない。
食後の毛づくろいを邪魔されても、嫌がるそぶりもない。これなら、全く心配しないでいいな…と博影は思った。
夕方、部屋に軽めの食事を持って来てもらい、ティアナを含め3人とチェルで頂く。
又、ヌルめのビールも頂く。
「たしかに、この世界に冷蔵庫はないよな…」
ちょっと、がっかりだがこれも慣れるしかない。
丸テーブルに3人で腰掛けて頂いているのだが、やけにティアナが自分の世話をしようとする。
見た目15歳、中身40歳のおじさんからすれば、甲斐甲斐しくて非常に可愛らしいのだが、沙耶には面白くないようだ。
いつの間にか、給仕にビールを貰い飲んでいる。
まぁ、異世界だから多めに見よう。
これで、ぐっすり寝れるなら良いだろう。
食事が終わり、片付けが終わりティアナが帰る。
服を着替え寝る準備をしようとしていると…
トントン
「はい、どうぞ」
沙耶が返事をする。チェルは、今からくる物に全く興味を示していない。
昨夜の食事会でお世話になった給仕役の女性が来た。
「奥様より、お風呂が用意してあります。いかがですか、とのことです。」
そう言えば、昨夜…
お風呂を使われる時は、最後で良いので使わせて下さい。
と、図々しくアンジェに軽く言ってしまったのだった。
「ありがたく使わせて頂きます」
と、言うが早いかすぐ廊下に出ようとする沙耶…自分もすぐ着替えを持ち女性の後に続く。
お風呂場は、公爵邸一階の奥にあった。
「公爵様、ご家族様はお風呂をお使いになり、自室にて就寝中ですので遠慮なくお使いください…とのことです。
終わられたら、そのままお部屋におかえりください。
後は、夜当番の物が片付けますから」
深々と礼をされて、女性は二階へ上がって行った。
さっそく使わせてもらう。扉を開けると、広い脱衣所となっている。
「沙耶が先でいいよ」
「何言ってるの! お父さん、久々のお風呂だよ。ぬるくなったら、楽しみ半減するし、なかなか機会ないんだから、一緒に入るよ」
沙耶は躊躇せず、すぐに上、下と脱ぎ全裸になる。
「ほら、はやく! なに、恥ずかしがってるの!」
前も隠さず、手をつかみ無理矢理風呂場に引っ張っていく。
「ちょっとまて、脱ぐから…」
沙耶の勢いに負け脱ぐと、手で隠しながら風呂場に入る。
チェルは…脱衣所の入口側に寝そべり番をするつもりのようだ。
気恥かしさはあったが、それ以上に浅めではあるが、石造りのお風呂はよかった。
沙耶と2人で入っても、かなり余裕があった。
一時程楽しんでしまいかなりのぼせたが、その夜は、心地よい眠りにつけた。




