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異世界召喚戦記 ~チートな治癒魔法陣で異世界を生きてゆく~  作者: クー
第12章 ティムリヤン国へ 東の一族とモスコーフ帝国・南東方面軍
202/301

第10話 追撃戦 4


異世界召喚 246日目


城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領132日目

ロムニア国建国宣言より131日目

スタンツァ・ガリア占領124日目

鉄門砦陥落87日目

協定会議・敵討ちより65日目


スタンツア・ガリアを出発し、48日目


ティムリヤン国 14日目

湾岸都市ムナク陥落後 6日目




ジャマ・クルイーク、ガリエフ・クルイークは…


帝国領・都市クランを目指し撤退している帝国軍内では、湾岸都市ムナクが取り返されたことで、団長:ジャマ・クルイーク、副団長:ガリエフ・クルイーク(及び配下の元ティムリヤン国・重装騎兵50名)の指示に、帝国騎兵・帝国市民兵等が従わない為、撤退が遅々として進まない…

との噂を湾岸都市バルカナへ流した。

その情報を得た、湾岸都市ムナクのケルク・ムルガ子爵は、裏切り者を殺す絶好の好機と捉え再び追撃戦を開始した。


しかし…それは…、


ケルク・ムルガ子爵らの首を取り、帝国への手土産にしようとの策であった…





「なんだ? あの土埃は?」


システィナは、馬上より遠くの丘に立ち昇る土埃を見る。


そこへ、斥候を担っていた鉄意騎士団騎兵2名が駆け込んでくる。



「丘を下らず待ち伏せしていたというのか…ジャマ・クルイークとか言ったか、なかなかやるな」


黒騎士等と、斥候の報告を聞いたドレアは、右手で顎を触りながら口元に笑みを浮かべる。この後の戦が、楽しみで仕方がないようだった。


「黒騎士殿、急ぎましょう!」


顔を青ざめさせたホラサンは、若干震える声で黒騎士へ進言した。

ケルク・ムルガ子爵らは、現在動ける騎兵すべてを率いているはず。もし、大敗し多くの騎兵が失われてしまったら…湾岸都市ムナクの防衛に支障が出る。

いや、再びあの裏切り者達の手で、奪われるかもしれない。


「帝国軍は、輜重隊に護衛の騎兵を500配置している。全軍でムルガ子爵等を救援するわけにはいかない。我らの後方からその騎兵500に挟まれる危険がある…。

ホラサン、シャーディ。配下の騎士隊を率い、輜重隊とその護衛の騎士や市民兵を強くけん制して、動けぬようにしてほしい。

ゲオル、配下10名を連れホラサンとシャーディの援護を頼む」


「黒騎士は、どうするのだ?」


「ムルガ子爵の救援に向かう」


「黒騎士殿、無茶です。敵は、騎兵1500ですぞ! 不意を突けたとしても…」


「ホラサン、何も帝国軍・騎兵1500に勝とうと考えているわけではない。ムルガ子爵及び、その本隊の撤退を手助けするために向う」


「しっ、しかし、いくら鉄意騎士団が強いとはいえ、僅か40騎では…」


「黒騎士殿、承知した。ホラサン、時間が惜しい」


女騎士シャーディは、騎馬上でつまらなそうにしているチェルに僅かに目をやると…ホラサンを追い立て、300騎と共に駆けだした。

シャーディは、湾岸都市ムナクの正門を力任せの剣で切り裂き、突入したチェルを見ている。自分らの考えが及ばないようなその力を…


…この者達なら出来るかもしれない…そこに共に立てないのは残念だが…


シャーディ、ホラサン率いる300騎とゲオルら10騎は、森の入り口付近の街道で留まっている輜重隊へ向かった。



黒騎士、チェル、システィナとドレア以下、鉄意騎士団40騎は、黒騎士を先頭に右前方の丘へ駆けあがっていく。

はるか遠くに、土埃が見える。

どうやら、待ち伏せしていた帝国軍・騎兵は、ナフル率いる先陣部隊を敗走させ、丘を降り始めていた。


ケルク・ムルガ子爵率いる本隊に襲い掛かるために…



挿絵(By みてみん)






黒騎士等が、帝国軍に追いつこうとした頃には、帝国軍の最後尾・騎兵300程が丘の上に残っているだけであった。

僅か40騎程度では、帝国軍の誰も気づかない。皆、丘の下に見える帝国軍とティムリヤン軍との戦に気を向けていた。

黒騎士は、帝国軍の後方より近づく。数人の騎士が気づいたが…わずかに目を向けただけであった。

輜重隊を護衛している騎兵数十騎が、手柄目当てに合流してきたとしか、思わなかった。



黒騎士、チェル、ドレアが騎馬を降りる。

黒騎士は、前方に魔法陣を出現させ徐々に回転させていく。


「チェル、頼む」


チェルは、僅かに頷くと黒い術袋より取り出していた黒い大盾を2つ前方に立て、左右それぞれしっかりと握りしめる。背中には、大きな黒い大剣を背負っていた。


そして…盾を前方に構えたまま勢いよく駆け出し、魔法陣に飛び込んだ。

魔法陣中央に吸い込まれたチェルは、勢いよく帝国軍目掛け打ち出されていく。


ドガーン…


最後尾の騎兵300の隊列の中央に、魔法陣から打ち出されたチェルが飛び込む。

その大きな2つの黒い盾に、騎馬ごと騎士は飛ばされる。体全てを…いや、足や手や頭を引きちぎられながら…

チェルが、着地したところから前へ50mほど…血が滴る肉塊が埋め尽くす道となった。


ドレアが、魔法陣に飛び込み…その肉塊の道の中ほどへ着地する。

次に黒騎士が、魔法陣に飛び込もうと駆けだした瞬間…その横をシスティナが素早く駆けぬけ、黒騎士より先に魔法陣に飛び込んだ。


システィナと、黒騎士も魔法陣に打ち出されドレアの傍へ着地した。

早くも、チェルとドレアは剣を抜き、対応に遅れた帝国軍を切り伏せていく。

黒騎士は、足元に魔法陣を出現させ、チェル、ドレアの足元が入るまで広げ、二人の体を活性化させ、魔力を供給していく。


「シス、鉄意騎士団と共に、突撃する予定だったはずだが?」


「そうだったか?」


システィナは、知らぬとばかりに目の前の帝国騎士の首を斬り飛ばした。そして、黒騎士に背中を合わせる。黒騎士の背は、自分が守るとでも言うかのように…


大混乱に陥った最後尾の騎兵300に…鉄意騎士団騎兵40が、突撃した。次々に、ランスで騎兵を血祭りにあげていく。

その混乱に乗じ、周りの帝国騎士を切り伏せながら、丘の端へたどり着く。

眼下に見える草原…200m先では、今まさに、ケルク・ムルガ子爵本隊へ、帝国軍が襲い掛かろうとしていた。


黒騎士は、再び眼前に魔法陣を出現させ…チェルを先頭に次々に魔法陣に飛び込む。



ドガーン…


後方に雷が落ちたかと思われるような響きを聞き、先陣を駆けていた団長:ジャマ・クルイークと、副団長:ガリエフ・クルイークは、騎馬を止めた。

後方を振り返ると、率いている騎馬隊中央付近にもうもうと土煙が上がっており…



ビチャビチャ…


血の雨が鎧に僅かにつき……周りに、引きちぎられた手足や頭が飛んできた。

慌てふためき逃げ出しているティムリヤン国軍の追撃に、騎兵200を向かわせるように指示し2人は土煙の方へ近づいていく。

激しく剣と剣を打ちつけ合う音や、騎士達の怒号…悲鳴が周りを覆う。


土煙が薄れていくと…そこには、4人の出で立ちの異なる騎士が剣を振るっていた。



古ぼけた銀の鎧を着、黒い剣を持つ大柄な騎士。

肩口に見事な装飾を施してある輝く銀の鎧を着、黒い剣を持つ女騎士。

黒い皮鎧を着、大の男の身の丈ほどもある黒い大剣を片手で振り回す亜人の少女。


そして…


黒い甲冑を全身に纏い、黒い片刃刀を持つ小柄な騎士…


「奴は…黒騎士か? チャウ伯爵に打ち勝ち、帝国軍を追い出し建国を宣言し、湾岸都市ムナク沖海戦にて、帝国海軍ガレー船50隻を沈めた悪魔……ガリエフ!」


帝国軍・バルカナ郊外駐屯軍団長:ジャマ・クルイークは、喜びに震える声で隣に並ぶガリエフ・クルイークに声をかける。


「兄者…我らに運が回って来たぞ。黒い甲冑など見たこともない、そして、聖石の加護を持つ甲冑を切り裂くあの黒い剣と、地面に広がる魔法陣…黒騎士だ!」


ガリエフは、ケルク・ムルガ子爵率いるティムリヤン国軍を追わせた騎兵200を呼び戻すように指示し…右手に握るランスを高々と上げ…


「全騎、引けー!」


と、大声を発した。帝国軍騎士達は、黒騎士達を遠巻きに取り囲むように引く。


副団長ガリエフは、騎馬を数歩進める。


「貴公の腕前見事なものである。貴公は、ティムリヤン国に助力している黒騎士か?」


黒騎士は、魔法陣を収め、右手に握る剣を地面に突き刺し…


「その通りだ、戦場を止めてまで問う事が、ただ名前を聞く事だけか?」


「くっくっ、面白い奴だ、そう焦るな。貴公らは、ケルク・ムルガ子爵らを助けるために、此処にいるのであろう?

黒騎士、貴公が我らに下ればケルク・ムルガ子爵は見逃してやっても良いが?」


…こいつしたたかな奴だ。子爵を追わせた追撃隊・騎兵200は戻るように指示している。黒騎士という大きな獲物の前では、子爵などと言う小物に興味はないくせに…


団長:ジャマ・クルイークは、ガリエフが黒騎士と話している間に、包囲する隊を整えさせる。


「200程度の騎兵を追わせただけに見えたが? 俺たちは、貴公らをここに足止めしたことで、目的は達した。子爵らは無事、ムナクへ撤退できるだろう」


「あの中で、よく見ていたものだ、その通りだ。そして我らはもはや子爵になど興味はない。貴公が、僅か4人でこれからどうするのかに興味がある。

そして、もうすぐ子爵を追っていた騎兵200も戻る。

貴公は、我ら騎兵1500に包囲され、その命は俺の手のひらの上にあるわけだ。

この状態で、どうする? 降伏するのなら悪いようにはせんぞ。

黒騎士、貴公が降伏するのなら、そこの3人は見逃しても良い」


「俺と貴様とで一騎打ちするというのはどうだ?」


「我らにメリットはないな。捕虜にしてから、腕前は確かめればいい」


「そうか…なら、貴公以下、1500名の帝国騎士の命は助けてやる。かわりに、この包囲を解け」


「うわっはっはっはっ」


ガリエフは、思いもしない黒騎士の言葉に思わず大笑いし、1500名の騎士達も笑い出した。

その様子を後方で見ていた団長:ジャマ・クルイークは、黒騎士の噂はかなり誇張されていると考えた。


…どうやって得たかはわからぬが、古の魔法陣の力を得たただの愚か者が…ただ、運が良かっただけ…ということか…


どのような強者か…と、期待していた団長ジャマは、張り詰めていた気が若干解け、黒騎士から目を外す。

右手に握る剣を腰に戻し、負傷者の手当てを配下の者に指示した。


「そうか、交渉決裂だな。なら、此処にいる1500名、全員死んでもらおうか!」


そう言うと黒騎士は、足元に再び魔法陣を広げ、徐々に拡大する。



…ガァァァァァ…ガァァァァ…



チェルが、空に向け大きく咆哮する。帝国軍の騎馬は、チェルの咆哮を恐れ、暴れだす。帝国軍騎士達が、騎馬を必死に落ち着かせようとしたその時…


後方の丘の上から40騎の鉄意騎士団が、20騎づつの2列で帝国軍に突撃した。暴れる騎馬をなだめていた帝国騎士達は、対処できず次々に鉄意騎士団のランスで突き落されていく。

帝国軍の後方の陣が2つに裂けていき、その間を鉄意騎士団40騎は全速で駆け、4人の元へ着くと、僅かに減速し、黒騎士、ドレア、システィナを駆けながら馬上に引き上げる。


前方へ駆けだしていたチェルは、馬上の副団長ガリエフに飛び掛かる、思わずガリエフはバランスを崩し、暴れる馬から落下した。


「チッ…」


先程まで、ガリエフが騎乗していた馬上に立ったチェルは、落馬したガリエフを一瞥すると、帝国軍騎兵の中へ飛び込み、その大きな黒い大剣を振り回し、騎馬ごと騎士を真っ二つにしていく。

その暴風の様な激しさに、思わず気後れし帝国騎士達は道を空けた。そこに40騎が飛び込み…包囲網を抜けた。


「なにをしている! 追うぞ!」


団長ジャマは、右手にランスを構えると周りの騎兵を連れ、黒騎士達を追う。

副団長ガリエフも、慌てて騎乗する。


「くっ、あの亜人、俺に屈辱を与えるとは、絶対に許さん。楽に死ねると思うなよ」


ガリエフは、隊をまとめ指示を出し、団長ジャマを追う。湾岸都市ムナク方面へ駆けだした黒騎士等は、急に右へ方向を変え丘を登りだした。


「なに? ムナクへ逃げ込む算段ではないのか? 兄者、前に出すぎだ」


副団長ガリエフは、団長ジャマへ騎馬を寄せ、ジャマへ後方へ下がれと合図を送る。

そして、ガリエフが先頭に立ち、部隊を右へ向け黒騎士を追う。



…追いつけぬ…奴らの騎馬は、我らより駆けているはずなのに…



「どこから現れたかは知らないが、帝国軍の斥候に引っかからなかった場所から急襲してきたのだ。

黒騎士らの騎馬は、我らの騎馬より疲れているはずなのに…なぜ、我らの方がじりじりと離されるのだ…」


ガリエフが、徐々に離れていく黒騎士等を見ながら、吐き捨てた。


「副団長、右を見てください。輜重隊がいるあたりから煙が出ています」


ガリエフの隣を駆ける騎士が、右後方をランスで指す。そこは…もうもうと煙が立ち上っていた。


「くそ、輜重隊がやられたのか…」


すると、300m先を駆ける黒騎士達に、右側から300程のティムリヤン国・騎兵が合流してきた。その後方には、輜重隊の護衛を任せていた騎兵500が猛追している。


「天は我に味方した。これで、こちらは騎兵1700以上だ。手強いのは黒騎士の取り巻きだけだ。ティムリヤン国・騎兵300等など、蹴散らしてくれる!」



黒騎士は、前方に大きく魔法陣を出現させ、鉄意騎士団、ティムリヤン国・騎兵にその魔法陣上を通らせる。全速で駆けているため、魔法陣の影響を受けるのは一瞬だが、騎馬は3~4割ほど疲労を回復させることが出来た。

落ち始めた速度が回復する。



帆船スマルトが停泊する海岸まで、後1km…と迫った時、前方より濃い霧が迫ってきた。そこには、先にスマルトへ引かせていたスコイ(狼)がいた。

スコイは、まるでついてこい…とでもいうように、スマルトの方向へ向け駆け出した。



チェルが、黒騎士の乗る騎馬に飛び乗ってくる。


「コノキリ……テテス…ノニオイ…」


そう黒騎士に告げると、自分の騎馬へ飛び移る。


「テテスか…戦には、協力しないんじゃなかったのかな?」


黒騎士は、小さくつぶやきテテスに感謝した。




「くそ、なんだこの深い霧は…数m先しか見えないぞ。だが、そのおかげで、奴らも速度が落ちた。

ふふ、騎馬が地面を蹴り上げる音、そして、やつらの必死な息遣いまで聞こえてくるようだ」


副団長ガリエフは、自分らが優位に立っているという事を信じて疑わない。だが、慢心はしない。


…そろそろ、海岸だな…ここらの海岸は切り立った崖、さては起死回生の策として、我らを崖から落とそうとでも言うのか…


後方を駆ける団長ジャマへ伝令を送る。

副団長ガリエフ率いる騎兵500は、左側へ大きく迂回し、団長ジャマ率いる騎兵500は、右側へ大きく迂回していく。

残る騎兵700は、まっすぐ黒騎士等を追う。

こうする事で、切り立った海岸傍で左右どちらに急に方向を変えようと、逃がすことはない。


霧の奥に篝火が…見えてきた。そして、天幕も…


「そろそろだな、どちらに方向を変えるか…」


左側を迂回しているガリエフは、部下たちに…右側から急に黒騎士達が現れる可能性がある…注意せよ…と檄を飛ばす。


しかし…黒騎士等は現れない…海岸に打ち寄せる波の音がする。

ガリエフは、隊を止めると…ゆっくりと中央へ向け進めた。


すると…


濃霧の中…350騎程の黒騎士達は、海岸傍に留まっていた。

3方より、帝国騎兵が詰め、騎馬を止める。


「黒騎士。どうやらここまでのようだな。貴公は何をしたかったのだ? ただ、やみくもに逃げるしか能がないとは、残念なことだな。

騎士ならば、命を捨て突撃した方が、まだましだったと思うがな」


副団長ガリエフは、若干、嘲るように霧へ向かい大声で怒鳴った。



「裏切り者に潔く突撃しろ…などと言われるとは、笑い話にもならないな。ガリエフ、貴様はただの裏切り者だ、その汚らしい素っ首、今叩き落してやる」


「その声は、ホラサンか? 生きていたのか? てっきり、聖ギイス領の闘技場で、魔物の餌となったと思っていたが、よくよく執念深いことだ」


「貴様の首を切り落とすまで、我らは死なぬ」


「その声は、シャーディか? これはまた、懐かしい役立たずの面々が揃ったものだ」


…くっくっくっ…


帝国軍騎兵達より、失笑が漏れた。



「裏切り者というのは、たいそう口が軽いものらしいな。ガリエフ、ジャマ、その首しばらく預けておこう。

帝国領・都市クランまで、まだ道のりがある。大事にしろ」


そう黒騎士が言ったとたん、野営地の篝火が倒れた。地面の水たまりで火が消える。


「黒騎士が逃げるぞ! 中央の部隊のみ、突撃せよ」


副団長ガリエフは、中央の部隊に突撃を命じた。左右の部隊は動かず待つ。この濃霧の中では、多方向から突撃すれば、同士討ちの危険が高い。おそらく、黒騎士もその混乱に乗じて、逃げるつもりだと…ガリエフは考えた。


「副団長、これでは黒騎士は、崖から落ちるのでは? 崖を降りて海の中を探すのは面倒です」


「今は、満ち潮だ。少なくとも崖に打ち寄せられる。すぐに見つかる」



…うあぁぁぁぁ……ぎゃぁぁぁ…



騎士達の悲鳴や、騎馬のいななきが響き渡る。


「何が、起こっているのだ?」


左右の帝国軍は、徐々に包囲を狭めていくと…目の前に大きな裂け目が現れた。徐々に霧が薄くなっていく‥。


海岸から、約幅20m…奥行30mほどが、大きく削られていた。眼下では…この大きな裂け目に落ちた騎兵700が、荒れる波に翻弄され…岸壁に打ちつけられている。

波にのまれ、激しく打ちつけられ…死んでいく。


「なんだ…これは…黒騎士は、どこへいったのだ?」


ガリエフは、霧が徐々に晴れていく海に目を移すと…そこには…50m級大型輸送船の2倍以上はあろうかと思える大型帆船がいた。

船首には、黒騎士が立ち、後方の甲板上には、300騎以上の騎兵がいた。



挿絵(By みてみん)






「くそ、そう言う事だったのか…」


黒騎士という、大きな獲物を手に入れた。我らは、なんと運が良いのだ、と、気持ちが高揚していたガリエフは、敗北を知り…言葉が出ない。

ただ、船首に立つ黒騎士を睨むことしかできない。



「卑怯だぞ、降りてきて戦え!」


「臆病者、にげるのか!」



帝国騎士達は、無駄だとわかっていながらも、騎馬を降り、崖の端から船へ向け罵声の限りを尽くす。


帆船の船首付近に淡く輝く魔法陣が現れたかと思うと…


その魔法陣の中心から、次々と矢が放たれてくる。その黒い矢じりの矢は、帝国騎士達が集まる岸壁の下方を大きく貫く。

岸壁が大きく割れ、次々にがけ下の海中へ落ちていく‥その上にいた、帝国騎兵をも飲み込んで…

200名程の騎士が、岸壁から落ち…海の藻屑と消えた。


「引けぇー」


慌てて団長ジャマは、撤退を指示する。帆船スマルトが、遠くへ消えていく姿を見ながら、輜重隊へ合流するために、騎馬の足を速めた。



…………



そして、輜重隊・市民兵3500と合流した団長ジャマ率いる騎兵800は、急ぎ燃え残った食料などを集め、街道に入り北へ撤退していく。


しかし…夜・午前1時頃…街道から少し離れた森の中で野営している所を、イオン率いる十字隊50騎に夜襲され、僅かな食料もすてて逃げる事となった。


夜明けまで執拗に夜襲を受ける…翌日からは、イオン等に合流した黒騎士からも夜襲を受け、ジャマ・クルイーク、ガリエフ・クルイークはわずかな手勢のみで、命からがら都市クランへ逃げ延びた。




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