第1話 異世界召喚 1
【登場人物】
博影:義理の娘と共に異世界召喚される主人公。医療職、40歳。
沙耶:博影の姉の夫の連れ子、17歳、高校2年生。
知沙:博影の姉の子、15歳、中学3年生。
薄暗い大きな広間、天井は高く壁に小さな灯りが灯っている。
その薄暗さに目が慣れると、壁際に20人程の人影が見える。
その広間の天井の中央からは、月の明かりが僅かばかり差し込み、広間中央に彫られている丸い円と文字を浮き立たせる。
天井にも同じものが彫ってあるようだ。
瞬きさえも見えず、呼吸さえも聞こえない中、暗闇の中から数人の白いローブを纏った人影が動き、中央に進む。
一人が白いローブを脱ぎ、中央にたたずむ。
その足元に、大きな袋から出された、黒い動物が置かれる。
ローブを脱いだ人影に、傍の人影が目隠しをしようとするが、頭を軽く振り拒否する。
ローブを脱いだ人影を広間中央に残し、他の人影は元の壁際へ戻っていく。
入れ替わりに、他の人影より背が低く、同じく白いローブを纏った人影が中央に進み、胸元より短剣を抜く。
月の光に照らされ、僅かに輝くた短剣を黒い動物の首すじに当て…引く。
赤い液体が首すじより流れ、床に彫ってある文字を埋めていく。
短剣を持つ手は、同じくローブを脱いだ人影の首すじに短剣を持っていく。
ゆっくりと床を血が埋めていく。
短剣は動かない…短剣を持つ手は動けない…
短剣を当てられている人影の腕が動き、短剣を握る細い手に手を添える。
唇が僅かに動いた後、自ら押し引く。
床へゆっくりと座り込み、仰向けに体を横たえ、両手を胸元で合わせる。
首すじより、流れ出る赤い血が動物の血と混ざり合いながら床の文字を埋めていく。
短剣を持った人影は、短剣を胸元へ収めると、震える言葉を、小さき言葉を唱えていく。
床の文字がすべて埋まったその時、床の文字がゆっくりと浮かび上がり、天井の文字へと進んでいく。
「召喚」
叫んだ瞬間、広間は光に包まれた。
……日本……
その時、博影は娘2人と亡き父のコレクションである、アーチェリーと、クロスボウの手入れをしていた。
沙耶(長女:17歳、姉の子)
「お父さん、お爺ちゃんは狩猟も趣味だったの?」
クロスボウを手入れしながら聞く。
「ああ、海外にお仲間さん達と行ってたね」
…ふ〜ん…
と、沙耶は自分から聞いたくせに興味なさそうに返事を返す。
知沙(次女:15歳、姉の子)は、さらに興味がないのだろう矢の手入れを終えると、ケースにテキパキと入れている。
「よし、全部終わったな、棚に戻そうか…」
博影が言い終えた瞬間、博影が座る場所を中心に絨毯に、光り輝く円陣が浮かび上がった。
とっさに立ち上がると、足元から円陣の中へズブリと沈み込んだ。
…やばい…
同じく足元が沈み込んだ沙耶、知沙の脇下を片手で掴むと、円陣より力任せに引き抜き円陣の外に、放り投げた。
自らも抜け出そうと、もはや腰下まで沈み込んだ体を両手を絨毯につき、引き抜こうとするが、
ついた両手まで沈み込む。
とっさの事に、反応出来ないでいた2人の娘も、父の体の半分が沈み込んでいる状態をようやく把握し引き上げようと駆け寄った。
「くるな、手を出すな!」
博影は、強く叫んだ。
「父さんは大丈夫だ。ばあちゃんによろしく。沙耶、知沙、ばあちゃんと一緒に頑張れ!」
「父さん、イヤー…」
博影の首まで沈み込んだ瞬間、沙耶が博影のクビに抱きつく。
「沙耶、なんで…」
言い終わらない内に、その円陣は博影の全て沈み込んだ。
沙耶は、父の首に回した両手が全て沈み込み…さらに体半身が沈み込みながらも、知沙に笑いかける。
「知沙、大丈夫だから…」
その瞬間、部屋が光に覆われ、絨毯に現れた円陣が消え…博影、沙耶の姿もなくなった。