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第6話 魔物の島 1 港町リゼ 地図 (聖ギイス領、魔物の島周辺図)(ティムリヤン国・位置図)

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領102日目

ロムニア国建国宣言より101日目

スタンツァ・ガリア占領94日目

鉄門砦陥落57日目

協定会議・敵討ちより35日目


聖ギイス領6日目

魔物の島1日目





挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)



都市スグジンにて、司祭ショタに夕食を招待された夜から…2日後の朝…


黒騎士は、港町スフーミの港から帆船スマルトをゆっくりと出航させていた。

港には、大型帆船スマルトの出航する姿を見ようと、多くの人々が駆けつけている。そして、桟橋には司祭:ヴァール・マンツフが立ち、黒騎士達を見送っている。

システィナ達も又、デッキに並びヴァールへ手を振っていた。



………



ザザッ…ザザッ…波しぶきが上がる。


大型帆船スマルトは、その大きな帆に風を受け、魔物の島…港町リゼを目指し順調に進む。博影は、あえて造波抵抗を抑える魔力を通さず、スマルトが波を切り裂く感覚を楽しんでいた。


「シス。いい加減に機嫌を直したら?」


「ルーナ、別に私は機嫌など悪くない」


ルーナの言葉を否定したシスティナだったが、その目は時折、操舵輪を握る博影の背中を睨んでいた。


触らぬ神に祟りなし…先ほどまで、操舵室でくつろいでいたスキピオやドレア達は、いつの間にかデッキで昼寝をしている。


「もう、昨夜何度も話し合って、納得したんじゃなかったの?」


「策としては、納得した。だが、許せるかどうかは別な話だ。博影、絶対に許さない」


操舵輪を操る博影は、シスとルーナのやり取りを背中で聞きながら、苦笑いをするしかなかった。

システィナが言う策とは、博影が昨夜、夕食後に提案したことだった。


その提案とは…


都市スグジン闘技場で、助勢し命を助けたティムリヤン国・都市ムナク守備隊のホラサン・キール以下騎士20名と、その家族30名を帆船スマルトにて、ティムリヤン国・都市ムナクへ送り届ける。

そして、状況によっては、海岸沿いの要所となっている都市ムナク守備隊へ加勢をし、劣勢になっているという状況を改善させる。

もちろん、都市ムナクの戦に一度勝利したからと言って、モスコーフ帝国・南東戦線に大きな穴をあけられるとは思ってはいない。

その戦の加勢が…布石となり、大国と言われるティムリヤン国と友好を結ぶ礎になればと考えていた。

又、都市ムナク守備隊へ加勢をするようなことがなかったとしても、大型帆船スマルトの姿を見た、ムナクの貴族・騎士・市民たちに、ロムニア国を大きく印象付けることが出来るだろう。


その為、魔物の島へは…博影、チェル、ルーナ、ドレア、スキピオの5人で上陸し…


システィナと、ゲオル以下鉄意騎士団は、ホラサン・キール達を連れ、都市ムナクへ向かう…


と、昨夜遅くにシスティナやゲオル達は、渋々であったが承知した。


「だいたい、気に入らぬのが、なぜスキピオを連れて行くのだ! スキピオを連れて行くぐらいであれば、まだ十字隊隊長のイオンを連れて行く方がいい」


「それも、なんども話し合ったじゃない。仕方ないでしょう、実は将軍は、騎士になる前は元司祭で治癒術を使えると…もしもの時は、黒騎士を治療する…と、言ってくれたのだから。

博影様以外、この船では将軍だけが治癒術を使える…」


「わかった、わかった。ルーナもういい、聞き飽きた」


ルーナの話を途中で切り上げると、システィナは席を立ち、博影の背中に近寄り後ろから博影を抱きしめた。


「シス、どうした? もう寂しくなったのか?」


博影は、機嫌の悪いシスティナの意外な行動に少し慌てた。


「くそ。こんなことなら、スマルトの操船訓練をするのではなかった…私がついて行けずに、スキピオがついてくなどと!」


システィナは、ちからいっぱい博影を抱きしめると、その目の前の首筋に噛みついた。


「いたたっ、ちょっと、シス! 本気で痛いから!」


システィナは、博影の首筋より唇を離すと、滲み出した血を舐めた。


「本当にお前は、スグジン闘技場といい、ティムリヤン国の捕虜といい、そしてこの魔物の島での捜索といい、なんでも首を突っ込む。

特に戦場以外では、誰でも助けようとする。もしも、もしも…………」


博影をさらに強く抱きしめる。


「もしも、大怪我などしたら許さないからな」


システィナは、思わず…死んだら許さない…と、言ってしまいそうになったが…唇を噛み締め…止めた。そして、言葉を変えた。

博影の血は止まっている…再び首筋に唇をつけた。


「シス、俺は大丈夫だ。しっかりと情報収集して、浅はかな行動はとらないよ。シスやルーナを悲しませることはしない」


博影は、右手で優しくシスティナの髪を撫でた。


…うん…


システィナは頷き、しばらく博影を抱きしめ続ける。

ルーナも、博影を抱きしめたい気持ちは同じだったが、システィナに譲った…


…明日から、しばらくの間、お別れになってしまうのだから…




その日の昼過ぎに、魔物の島・港町リゼに入港した。

鉄意騎士団と水夫数名を留守番とし、皆でリゼの大きな宿に泊まる。昨夜は、博影の提案した策に対して、システィナやゲオル、イオンらが大きく反発し、祝杯を挙げるどころではなかった。


昨日は、ロムニア国を宣言してから100日目であった。


宿1階の大きな食堂を貸し切ったとはいえ、100人近い…また、体格の良い鉄意騎士団騎士達が入れば、あれほど大きく広いと感じた食堂も、人の行き来がしづらいほど狭くなった。

陽が落ちる前から飲みだした博影達は、夜半過ぎまで飲み…そのまま食堂で皆寝てしまった。


…ん…


体を持ち上げられる感覚を感じ、博影は目を覚ました。


「チェル…?」


「ネテオケ…」


チェルは、その細い体で右肩に博影を…左肩にはシスティナを抱え、軽々と階段を上っていく。その後を、ルーナを背に乗せたスコイ(狼)が付いてくる。


3階の部屋まで運ぶと、チェルは3人をベッドに降ろす。そして、3人の服を無造作にはぎとると、ソファーにぽいっと投げやる。


「チェル、ありがとう」


…チェルは、少し頷くと3人に毛布を掛け、自らは博影の足元に丸まり眠った。スコイは、番をするかのように、扉の横で眠る。




翌日…日は真上に差し掛かろうとしている。


「黒騎士殿は、ここに留まるのですか?」


「騎士ホラサン。当初は、あなた達をティムリヤン国まで送り届けたいと考えていたが、この島に用事が出来てしまった。システィナと、鉄意騎士団騎士達が同行する。特に問題はないと思う」


騎士ホラサン以下、20名の騎士達は黒騎士の前で片膝をつく。


「あなたには、どれほど感謝してもしきれない。我らの妻や子の命を…我らを救っていただき、感謝している」


騎士達の後ろには30名の女子供たちも皆、片膝をつき頭を下げていた。


「いや、頭を上げてほしい。あなた達には、何度も感謝の気持ちを頂いた」


「しかし、初めて会った我ら…何の縁もゆかりもない我らの為に、あなたは…あなた達は命をかけてくれた。もし、黒騎士殿達が現れなかったら…我らは、泣き叫び、絶叫する我が妻に…子に…何も出来ずに…ただ、死ぬ様を見るしかできなかっただろう」


「我らの力では、あなたに何も返せないかもしれない。しかし、子から子へあなたの強さを、勇姿を、そして優しさを我らは伝えていくだろう。本当に感謝している」


黒騎士の後ろに立つドレアは、少し体を横に向けた。人に…それも、心から感謝されるなど100年以上生きてきて記憶にない。どのような態度を取れば良いかわからない。


「さぁ、皆、立ってほしい。あなた達は、国へ帰ればすることが多々あるはずだ。まだ、帝国との戦は終わっていない」


黒騎士は、騎士ホラサンへ右手を差し出し引き上げる。騎士達は、何度も黒騎士達に感謝の言葉を述べながら、強く握手を求めた。


「ねぇねぇ、あなたは、モスコーフ帝国をやっつけた黒騎士なの?」


黒騎士の足元には、小さな女の子が立ち、見上げている。


「あぁ、たぶんその黒騎士は私だよ」


「そうなんだ~、でも魔物の様な大男って聞いていたけど、本当の黒騎士は、お父様より小さくて細いね」


黒騎士は、女の子の頭を優しく撫でた。


「でもね、私見てたよ。食べられちゃうんだろうなぁ~、痛いだろうなぁ~、って思って、すごく胸が苦しくて、空を見上げて神様に泣きながらお願いした時…

あなたは空から降りてきた。黒いから悪魔かと思ったけど、あんな大きな魔物を倒しちゃうから、魔物かとも思ったけど、

黒騎士様。あなたは、私の神様です。お父さんを、お母さんを、私を助けてくれてありがとう」


そう言いながら、その小さい手で黒騎士の手を下に引く。黒騎士がしゃがむと、その女の子は黒騎士の黒いマスクの上から、左頬にキスをした。


「ふふっ、これはお礼だよ。よく頑張りましたねって」


「ありがとう、とても嬉しいよ」


そう言うと黒騎士は、女の子を抱き上げ、一歩後ろで待つ母親へ渡した。


…あ~ずるいっ、私も…私も…


そう言いながら数人の子供たちが、黒騎士の周りに集まった。黒騎士は、一人一人抱え上げた。


…なつかしい、沙耶や沙智もこんな感じだったかな…と思いながら…



………



「では、黒騎士行ってくる」


「シス、気をつけて。ゲオル、イオン、くれぐれも無理はしないでくれ」


「おいおい、無理するなって、それは俺たちが言う言葉だぞ。つったく、魔物の島に入ると言うのに、供に行けないとは…あ~ぁ…」


イオンは、残念そうに大声を出した。通常なら、この部隊全員で魔物の島へ入り、中央目指して進めばよいだろう。鉄意騎士団騎士80人と、博影、チェルをもってすれば、魔物の島と言えど、中級エリアまでなら、野営しながら特に問題なく進んでいけるだろう。


だが…魔物の島には、竜の理…というものがある。



入ってならぬ、無人の町…

入ってはならぬ、死の川…


そして、魔物の島で恵みを得ようとするならば、ともに入ることが出来るのは5人。


この理を破った者は、竜の怒りを受ける事になると…




スマルトが桟橋からゆっくりと離れていく。徐々に船足を速め先へ先へ…海の先へ進んでいく。黒騎士は、見えなくなるまで見送った。


「寂しくなりましたか?」


「そうだね。寂しくないと言ったらうそになるだろうね。でも、やることがあるから、まずはその事に目を向けよう」


そう言うと黒騎士は、ゆっくりと港町リゼへ向き直り桟橋を歩いていく。





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