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第17話 聖ギイス領へ 6 カラデニス海の海賊

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領91日目

ロムニア国建国宣言より90日目

スタンツァ・ガリア占領83日目

鉄門砦陥落46日目

協定会議・敵討ちより24日目



左右の櫂を少なくし、静かに…静かにガレー船が湾内に入っていく。

そして、そのガレー船の舳先には、海賊らの中で最も夜目の利く者が、湾内の船を確認していた。


「頭、湾内には6隻停泊しているようですぜ」


「6隻か…」


「5隻は、大型商船…そして、残る一隻は…こいつは、でけぇ…」


舳先に立つ男は、帆船スマルトの大きさに思わず感嘆する。


「頭、あの見たこともねぇ大型船を狙いやしょう。必ずあれに最上級のお宝がありやすぜ」


「よし、野郎ども用意しろ」


ガレー船は、ゆっくりと帆船スマルトの横へつけた。奥の砂浜からは、スマルトの影となって見えない位置である。


キリキリキリ…静かにガレー船の碇が降ろされて行き。

数人の海賊が鉤縄かぎなわを帆船の手すり目掛けて投げる…カキッッ…海賊が投げた縄の先の鉤爪が、スマルトの手すりに引っかかった。


「かかりやした。俺が先にいきます」


そう言うと小柄な男が、一本のロープを器用に上りスマルトの甲板へ上がった。ロープを引き上げ、その先についていた縄梯子をしっかりと手すりに固定する。

次々に縄梯子を固定していき、ガレー船から3本の縄梯子がスマルトへ固定された。10分程度で、80人の海賊がスマルトの甲板に上がった。


「見張りが、誰もいねえとは…罠か?」


「いや、甲板上にボートが一艘も乗っていねぇ。頭、殆どの者達は、上陸していますぜ」


「それに、罠だろうが構わねぇ。こっちは80人だ、10人くらい殺せば水夫どもはおとなしくなる」


「ふん、野郎ども。物音を立てるな。砂浜のやつらに気づかれたら引くぞ」



半時後…


「頭、入り口がどこにもねぇ」


「どうなってんだ、この船は?」


その時、甲板全体が薄く光りだす。海賊たちは、とっさに短剣を抜いて身構える。


「頭!」


一人の海賊が、大きな声で叫び後方の操舵室の屋根を指差した。そこには、大柄な男が一人立っていた。


「皆さんこんばんは。こんなに大人数で来ていただけるなんて、招待しておりませんが歓迎しますよ」


「ゲオル、格好をつけたつもりか? 道化にしか見えないが?」


「シス、言いすぎです」


操舵室前の甲板が持ち上がり、そこからシスティナ、ルーナ、チェル、鉄意騎士団騎士4名と白いローブを羽織った博影が出てきた。


「副団長終わりです。降りてきてください」


鉄意騎士団の一人が、屋根を見上げゲオルへ声をかけ手招きする。


「まったく、久しぶりに剣を振るうというのに、乗りの悪い者どもだな」


ゲオルは、ぶつぶつ言いながら2階操舵室の屋根より、博影達の横へ飛び降りた。


「なんだ驚かせやがって、たった9人か? 一人は治癒師のようだし、降参か? 命乞いか?」


「おい、そこの姉ちゃん達こっち来な。一晩俺らに付き合えば、全員の命を助けてやろう」


…くっくっ、殺すくせに…


頭と呼ばれる者の後ろに立つ男たちが、下品に笑いながらつぶやく。

不意にスマルトの甲板の光が強くなる。お互いの顔がはっきりと見えるほどとなった。


「ヒユ―、こりゃ上玉だな!」


「いやこれは、売った方が良いですぜ」


「留守番の半分が、女子供とはな。やすい仕事だったな」


海賊たちは、このような大型帆船の留守番役が僅か9人であり、そのうち4人が女子供だとわかり気が抜け、無造作にシスティナ達へ近づいていった。

そこへ、一瞬でゲオルが飛び込み、頭と呼ばれる男の頭目掛けて剣を振り下ろした。


ガキンッッ…


ガキッッ、ガキン


次々に鉄意騎士団騎士4人も海賊へ飛び込み剣を振り下ろす。しかし、海賊たちはなんとかその太い短剣で受け止めた。


「この野郎!」


次々と周りの海賊たちが、ゲオル達に向かって剣を突きだしていくが、さっとゲオル達は博影達の前まで引いた。


「副団長、なぜ加護のない武器を使うのですか? いつもの聖石又は博影が作ってくれた魔石の加護の有る剣を使えば、奴らの剣など体ごとぶった切れますが?」


「一撃で終わらせてしまっては、面白くないだろ? んんっ?」


ゲオルの言葉の途中で、チェルがゲオルの右肩を踏み台にして大きくジャンプし、海賊たちの後方へ降り立つ。どうやら、海賊たちを逃がさぬ気らしい。


「団長。いつまでもグダグダしてるから、チェルが怒ってますよ」


ゲオルは、仕方ないな…とつぶやきながら、術袋から博影が魔石付与した大剣を取り出す。他の4人の鉄意騎士団騎士達も、魔石付与された大剣を取り出し構えた。


「ほぅ、お前ら死ぬ気か…野郎ども、女は傷つけるなよ。かかれー、さっさと殺してお宝を探すぞ」


海賊たちは、ゲオル達の会話を聞いていなかった。ゲオル達を騎士ではなく、ただの護衛の傭兵だと考えていた。侮っていた海賊たちは一斉に、ゲオル達にとの距離を詰めると剣を突きだした。又、後方の海賊たちはチェルを捕えようと、投げ縄を投げた。


…しかし…


ゲオル達は、その突き出された剣ごと海賊を切り伏せ、チェルは縄を切りながら海賊たちに飛び込み、その自分の体より大きな黒い大剣を振り回し、2人…5人と、まとめて切り飛ばしていく。

チェルは、まるで海賊たちの隙間を走る疾風のように、流れるように動きそして…次々に海賊たちを真っ二つに切り飛ばしていく。甲板上には、大きな肉片が飛び散っていく。その戦い方に、一瞬見とれていたゲオルは…


「チェルに負けておられんな」


そうつぶやくと体中に魔力を巡らせ身体を強化した。そして、ゲオル以下鉄意騎士団5人は、チェルに負けじと大剣で海賊の体を真っ二つにしていく。


「くっ、なんだこいつらは! お前ら、さっさと始末しろ!」


頭が大声で怒鳴る。しかし、一瞬で20人以上の仲間を切られた海賊たちは、早くも戦意消失した。いや、多くの経験がある海賊たちは、自分の力量と相手の力量を推し量ることぐらいできる…我ら80人では、この6人に勝つことは出来ないと…


「にっ、にげろー」


一人の海賊の叫びを合図に、皆、ガレー船へ逃げ込もうと、縄梯子のかかる左舷へ殺到した。

しかし、その左舷には団長ドレアと十字隊隊長イオンが、大きな大剣を抜き立っていた。


「うわぁー」


この二人さえかわせば、いや突き落せば船に逃げ込むことが出来る。二人へ向かい、数人が切りかかっていく…しかし…みな、頭部より真っ二つに切られていく。


約半数の40人となった海賊たちは、仲間たちの血が滴る真っ赤な甲板上で、自分達が逃げられない事を理解した。


「まってくれ、なぁ、俺たちまだ何にもしてないだろう? このまま帰るから…」


「帰るから? お前馬鹿か?」


システィナがあきれ、その男の首を飛ばす。


…ひぃぃ~…数人の海賊が、腰を抜かしながら後ずさりする。海賊たちは、いままでの海賊行為の中で、多くの者達を殺してきただろう。そして、今…自らの番となった時、醜態をさらす者達が続出した。


「なんだ、そんなに怖いのか? 俺が助けてやろうか?」


ゲオルは、剣を傍らの騎士へ預けると、すたすたと海賊たちへ近づいていく。


「俺の質問に答えたら、見逃してやろう。団長、良いですね?」


「好きにしろ」


「なっ? まてドレア、勝手な事を…」


「シス、ドレア達に任せておこう」


博影は、システィナの肩に手を置き、押しとどめた。


「ふむ、なるほどまだ仲間が500人程ここから2日の距離にある島に集まっており、ガレー船も10隻ほどあるのだな。とても良い情報だ。頭、あなたは良い人のようだ」


ゲオルは、海賊の頭へにこにこと笑いかけると、右拳で思いっきり頭を殴りつけた。


「ひぃぃぃ~」


海賊たちは、頭を助けようともせず我先に逃げ出すが…チェル、システィナ、鉄意騎士団5名に囲まれて、次々に切り伏せられた。

(ルーナは、博影の護衛)


ゲオルは、甲板上をずりずりと後ずさりしながら、逃げようとしている海賊の頭の首を右片手でつかむと、そのまま高々と吊るしあげた。


…アグッ、グッ…


のどを絞められ、苦しそうに嗚咽する。


「すまんな頭、俺はいままで盗賊や海賊との約束を守ったことがないんだ」


ゴキッッ…ゲオルは、片手で海賊の頭の首を折った。そのまま、片手で甲板上に投げ捨てる。

甲板上で動いている海賊は、もはや一人もいなかった。



2日後早朝、日の出とともにスマルト以下6隻の船団は、聖ギアスを目指し入り江から出港した。

翌朝、5隻の商船に10人づつ鉄意騎士団騎士を護衛として配置し、スマルトは商船としばし別れ、魔物の島の方向へ舵を切った。

今後、この聖ギイス領とスタンツア・ガリアを結ぶ海路は、両都市の貿易として欠かせない海路となる。そして、この島々は重要な商船の停泊地となるだろう。商船の安全のために、博影は、カラデニス海の海賊の多くが集まっているこの機会に、海賊を殲滅しようと考えていた


午前0時…大型帆船スマルトは、月明かり一つない暗闇の中、海賊たちが集まっているという入り江にしずかに入っていく。その入り江の奥には、10隻の中型、小型のガレー船が停泊していた。どうやら、砂浜に野営地を築いているようだが、見つかりにくくするためか、ガレー船には篝火が一つもなく、砂浜の野営地にも小さな篝火が二つあるだけだった。


博影は、入り江入り口で、怒りを降ろしスマルトを停泊させると、足元に魔法陣を展開しスマルトへ魔力を注ぐ。スマルトは、魔力船である。魔力を注ぐことで様々な力を発揮することが出来る。その一つの能力として、スマルトを中心に直径2km程度の円内にいる物を把握できる能力があった。まるで、近くから目で見ているかのように空も海の中も把握できる。


「たしかに、砂浜に野営地を築いているな。人数も500人以上いるようだ。よし、行こう」


スマルトから、2艘のボートが静かに降ろされ、砂浜に向け静かに動き出す。砂浜に着く、博影は黒の皮鎧を装着し黒騎士の格好となっている。

黒騎士(博影)、チェル、システィナ、ルーナ、ドレア、ゲオル、イオンと鉄意騎士団騎士40名…数歩前に進んだ黒騎士は、足元に魔法陣を展開させ、大きく広げ海賊たちの野営地すべてを包み込んだ。


「ルーナは、黒騎士の護衛としてここに。よし、みんな行くぞ、一人も逃すな!」


静かに…しかし強く発せられたシスティナの言葉と共に、3人一組で鉄意騎士団騎士達が野営地に広がっていく。黒騎士の魔法陣により、体内の魔石を活性化された騎士達の左目は遠くからでもわかるほど、真っ赤に染まっていた。


…グッ…グェ…


あちこちから、小さなうめき声が聞こえてくる。どうやら、気づかれぬよう、一人一人喉を掻き切っているようだ。


「なんだ、おまえら? ぐわぁぁぁー」


「貴様――、ぐわっ」


ひと際大きな声が、数度響く…すると、野営地がざわつきだし海賊たちが剣を取り、天幕の外へ溢れ出してきた。しかし、不意を突かれた海賊たちは成すすべもなく切られていく。小さな篝火二つでは、敵の姿を認識できない。しかし、鉄意騎士団騎士達は、魔法陣で魔石を活性化され、体中に魔力を巡らせ通常の2倍ほどの身体強化が出来ている。当然、夜目も利いていた。



「終わったな…」


一通り野営地内を確認してきたゲオル達は、野営地の引水用の水で剣を洗い、返り血を洗い流している。チェルは、腰まで海につかり遊びながら返り血を流しているが…

後でベトベトになりそうだなと博影は思っていた。


「博影、海賊たちの死体は、数か所に集めたぞ」


「すまないな。皆もう一働き頼む」


そう言うと博影は、海賊の死体を集めたところへ行き、燃える水の入った樽を数個づつ置いていく。皆で、燃える水を死体へ浴びせていく。

そして、火をつけた。しばらくすると野営地は、その炎で星空まで照らすように明るくなった。


一晩中焼き続け…朝日と共に、博影はスマルトの碇を上げた。ゆっくりと、入り江の出口へ向かっていく。


「博影、所詮海賊どもだ。野ざらしで良かったのではないか?」


操舵輪を握る博影へイオンは尋ねた。


「そうだな。理由をつければ、あの入り江は商船の停泊地として有用だと思った。そこに500人程の死体を野ざらしにすれば、もはや停泊地としては使えないだろう。停泊地として使う為に、死体を焼いた。

だが……感情で言えば、海賊たちに殺された者達の怨念は残り続けるだろうが、死すことで罪もなくなったと思った。罪が許されたとは思わないが、そう思ったから荼毘に付そうと思った。すまない、付き合わせてしまって…」


「いや、別にいい。俺は、死はただの終りだと考えているからな。お前の考えは面白い。生前の罪が死後に許されるか、許されないか…死後の事を考えるなんて、俺は考えたこともなかったな」


2人の会話を壁際に座りながら聞いていたシスティナは、ゆっくり目を閉じた。死後に自分の罪が許されるか、許されないか…



…兄様………私の罪は許されるのでしょうか…



帆船スマルトは、入り江から出る。その先には、果てしない青い海が広がっている。


バサッバサッッサッ


スマルトの3本のマストすべてに帆が翻った。スマルトは、5隻の商船団に合流するため船足を速めていく。



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