第15話 ダペス公爵家族との食事 2
若干、場が暗くなりかけた…
「博影様は、前世界では奥様はおられたのですか?」
ティアナが、まったく場を読まずに聞いてきた。
「40歳ですが、独身でしたよ。女性にご縁がまったくありませんでしたから」
おどけて返事するが、本当の事だ。
「そうですかぁ、奥様はおられないのですね。良かった」
そういうとティアナは、にっこりと微笑んだ。
「良かった? どういう意味? いくら、ティアナでもお父さんはあげないから!」
ティアナの方を向き、腕組みして威圧している。沙耶は、本気のようだ。
「あら? ティアナは、博影の事が気になるの?」
アンジェが、楽しそうに絡んでくる。
「いえ、あの気にはなりますが……あの、博影様のお役に立ちたいというか、あの…」
顔を真っ赤にしながらも、博影の方をチラチラ見ながら答える。
「博影さまぁ〜? なに、お父さんの呼び方変えてるの?」
もはや、沙耶も周りが見えていないようだ。
「んっ」
一息、ベレッタが入れる。
「その事は、後で3人で話し合う事にしてもらって」
うまいタイミングで、ベレッタが絡んでくれた…が、公爵やアンジェは悪戯っぽく笑い残念そうだ。
「ところで、博影。昼間は、深く傷ついた兵士の治療をして頂き助かった。なにかお礼がしたいと考えているのだが、なにか希望はないか?」
顔は、満面の笑みをたたえる公爵だったが、そのまま、言葉通りに捉えるわけにはいかない。
しばし、言い方を考えた。周りも食事をしながら言葉を待つ。
「この世界に呼んで頂いた事は、何かの縁と思っています。私は、今まで人とのご縁を大切にして生きてきました。
この世界にご縁を頂いたのですから、公爵や皆さんより、
…もうする事はない…
と、言われるまでこの世界で生きていくつもりです。
ただ、私も人の親ですので、もし、前世界に帰る機会が出来たなら…沙耶は、前世界に返したい…それが、願いです。
前世界には、沙耶の妹、知沙や祖母がおりますので」
公爵の両目をしっかりと見つめ、返答した。沙耶が何か言いかけたが、了承するかどうかはさておき、知沙の事を出されては、この場では意見は言えなかった。
「了承した。他にはないか?」
公爵は、待遇や物も願い出るかと考えているのだろう、さらに聞いてきた。
しかし、博影には沙耶の了承が取れれば、特に他の望みはなかった。
「しいて言えば、召喚された部屋を見て見たい事と……召喚時にいた、人と魔物に会って見たいですね」
公爵は、物を欲しない博影の奥底をやや気にした。悪い意味ではないが、物を欲する者はコントロールしやすいからだ。
「まったく問題ない、了承した」
公爵も、博影も、この場ではっきりさせておきたかった事がすみ、その後は全員が混じれるような、取り留めもない話題で夕食は終わった。




