第11話 魔法陣出現 2
異世界召喚 3日目
城塞の見張り台より見渡せる、一面を包み込むような夕日の中で、見張りの兵士も幾分気を許していた。
公爵邸の2階、フェレンツ・ダペス公爵の執務室へと続く階段を、白いローブを纏った女性が登っていく。
階段を登りきった所に立っている衛士に…公爵様より呼び出しを受けた…旨を伝え、取次を依頼する。
執務室の中に入った衛士より…
「どうぞ」
と、声が掛かった。
「失礼します。助祭ベレッタ参りました」
一礼して入る。執務室の中には、長い20人近く座れそうな大きな机があり、奥に公爵がすわり、横に立っている騎士風の男性と話しながらペンを走らせていた。
「ベレッタ、負傷兵の治療、御苦労だった。こちらに座りなさい」
公爵より声が掛かり、ベレッタは公爵の右側の席に座り、男性騎士は左側に座った。
衛士は、部屋から退出し元の場所にもどった。
「で、ベレッタどうだったか?」
忙しそうに走らせていたペンと、多くの書類を横に押しやり深く椅子に腰掛け、やや目線を上に向けながら公爵が聞いた。
どのように話せば良いか…迷う。
どこから話せば良いか…迷う。
それほど、助祭ベレッタには、博影の魔法陣による治療は衝撃だった。
なかなか話し出そうとしないベレッタに、男性騎士は少しだけ苛立ちの表情を浮かべるが…
「ベレッタ、それほどのものだったか…」
公爵は、まるでベレッタの迷い、動揺を察するように優しく話しかける。
「はい、あのような治療方法…見たことがありません。私達が使う聖術とは、大きく異なっていると考えます。
あまたの大司教の方々が、記した治癒術書にも似たようなものはないかと思います」
矢継ぎ早に一息で話しきる。
「そうか…期待して良いか…」
公爵が椅子から背を離し、目線をベレッタに向け机に肘をつき、両手を組み合わせながらたずねる。
「はい、博影殿であれば、必ずご期待に添えるかと…」
問いかけに対する返事を一礼しながら行った後、通常では失礼になるが、公爵の目を強く見続けながら述べた。
「あの者は、どのような気性か? まだ、若いと思ったが? 12歳のマリアに近いのではないか?」
「15歳と聞きました。又、重傷者の治療時の接し方、声かけなどから察しますに、前世界でも方法は異なると思いますが、治癒師のような役割をしていたのではないかと思います。
又、気性は…
よく言えば、慈愛に満ちています。
悪く言えば…
この世界で生きていくには甘いかと…」
言葉はきついが、ベレッタの口調に棘はない。博影の優しすぎる気性を心配しているようだ。
「そうか、わかった。夕食を共にしてみよう。ボッシュ、ベレッタ、夕食に同席するように」
少し考えて…
「ベレッタ、ティアナにも同席するように伝えておきなさい」
「はい、承知致しました」
ベレッタは、席より立つと公爵、騎士ボッシュへ深々と頭を下げ執務室より退出した。




