第7話 ロムニア国 建国 7
異世界召喚 123日目
イシュ王都を出発し、26日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領7日目
城塞都市ロムニアを出陣し2日目
チェル、ダペス家騎士・重装騎兵隊が中心となり斥候部隊を務める。
前日より多めに出し進軍する。
敵兵を見かけることなく、小川の畔で野営…
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領8日目
城塞都市ロムニアを出陣3日目
城塞都市ロムニアを出陣し3日目となる。
輜重隊を率いていない為、非常に速い速度で進軍できている。
後、1日半で港町スタンツァ、ガリアに着くだろう。
夕方、斥候より敵の斥候と思われる敵騎兵数騎確認の知らせが入る。
早めに小川の畔にて野営を行う。
城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領9日目
城塞都市ロムニアを出陣4日目
昼前に、遠くに港町スタンツァ、ガリアの城塞が見える位置までつく。
スタンツァ正門前には、敵軍が隊列を成していた。
黒騎士(博影)らは、部隊を三つに分けた。
正面に黒騎士、チェル、ウルディを先頭にダペス家・重装騎兵隊40名
その後ろに、50騎づつに分けたクーノィ、ウーノィがそれぞれ率いる黒山羊騎兵隊…
隊は密集し、まるで三角の陣形をとっているように見える。
その三角の中心には、重装騎兵10騎とシスティナ、ルーナに守られたマリアの小部隊がいた。
「博影様、斥候によると敵は正面に重装騎兵300騎、左右にそれぞれ軽装騎兵150騎…歩兵約1000…歩兵は正門前に陣を成しているようです」
ウルディが、斥候からもたらされた情報を博影に伝えた。
ここは戦場で、部隊はダペス家騎士とテュルク族…みな、博影が黒騎士だということはわかっている。
ウルディも、周りの目を気にせず、黒騎士と呼ばず博影と呼んだ。
「しかし…博影様、理由はわかりませぬが、重装騎兵が我々の予想の倍いますな。
そして、歩兵を前に出さず正面が重装騎兵…どうやら、重装騎兵同士での力勝負を挑みたいようですな」
「ふん、騎兵の数は向こうが600騎…4倍以上ですし、重装騎兵が300騎…強気になるのもわかりますがね」
ダペス家騎士・カキアス・ピュセーマは鼻で笑いながら黒騎士(博影)に近づいてきた。
すると、正面の重装騎兵隊から3騎前に進み出てきた。
「一騎打ち…に3騎ですか…まぁ、前線からはるか後方へ配置されれば、力が有り余って、仕方がないのでしょう。
わからなくもないですが…
博影様、ここは私とボレアに行かせてください」
いつのまにか、ボレアがランスを取り出し右手につかみカキアスの左隣に並んだ。
「ヒロカゲ…」
黒騎士(博影)の騎馬の右横に立っていたチェルが、急に黒騎士の後ろへ飛び乗ってくる。
「どうしたチェル?」
「イク…」
そういうと、博影の背中へ顔を摺り寄せてきた。まるで、猫が主人に甘えるように顔を博影の背中へ…
「チェル、心配はしていないが無理するな」
「…ワカッタ…」
そう言うとチェルは、騎馬から飛び降り3騎の重装騎兵に向かい駆けだしていく。
その右横にカキアス、左横にボレアがついた。
両軍が向かい合う、その真ん中で相対し6人が揃う。
「騎馬にも乗らず…あれは…少女か?」
「くっ、一騎打ちに騎兵でない歩兵を出し…それも、子供だと…」
「ウエン、エファー、そう憤るな。まぁ、だが相手の並びとこちらの並び、あの少女の相手は、エファー…お前だな」
フェンガーは楽しそうに笑う。
まだ20代中頃程にしか見えない3人の騎士は、少女が加わっていることに多少の疑問を持ちつつも、一騎打ちが出来ることに気が逸っていた。
3騎士は、重装騎兵にふさわしい聖力があり、聖力の加護を持つ武具を使いウーヌスナイト(上級騎士)として他の騎士に認められるほどの武術があった。
しかし、モスコーフ帝国・本国の貴族の子息ということで、前線に立つ機会がほとんどなかった。
今回も、イシュ王国への遠征軍として、重装騎兵隊としてこの港町に着任した。
だが、前線に行く機会はなく、この港町の防衛が任務だった。
日々、何も起こらず…味方の戦の勝利を聞くたびに、心の中で歯がゆい思いをしてきた。
そのような状態で、商人たちの情報によると、イシュ王国遠征軍の後方拠点の要である城塞都市グリナが、旧ロムニア帝国の騎士や聖イリオス教の司祭達の反乱によって陥落し、あろうことか、ロムニア国建国を宣言したという。
そして、身の程知らずにもこの我らがいる港町ガリアとスタンツァに攻め寄せてきた。
商人より、又斥候より情報を知った彼らは…いや、本国の騎士達からなる重装騎兵隊は狂喜した。
そこに、運よく港町守備隊の交代要員として、本国から重装騎兵隊150名が到着した。これで、2つの港町を守る戦力は…
重装騎兵…300騎(モスコーフ帝国・本国派遣軍)
軽装騎兵…300騎(辺境騎士・旧ロムニア国騎士)
歩兵 …1500人(辺境地市民・旧ロムニア国市民)
となった。
本国派遣軍も、聖イリオスの司祭が加わっているということで、旧ロムニア国騎兵や市民兵の士気が低いことはわかっている。
しかし、それでも敵反乱軍は、
重装騎兵50騎と、ヘンテコな山羊のような生き物に跨る皮鎧の兵士100人…
モスコーフ帝国の騎士達は、皮鎧の兵士は輜重隊で、敵は50騎の重装騎兵…と考えていた。
300対50…
戦は1時間もせずに決着がつくだろう。
彼らの心に余裕が出来、僅かではあるが笑顔が見え隠れすることも仕方のないことであった。
彼らは、敵の重装騎兵50騎が名の知れたダペス家重装騎兵隊とは知らず、又、輜重隊と考えた100人程が、実は辺境では勇猛で知られているテュルク族とは知りもしないのだから…
「くっ、先に行かせてもらうぞ。子供の躾をしてくる…少し脅せば、逃げかえるだろう」
そう言うと、中央に座していたエファーが前に躍り出た。
すると、同じく中央に座していた褐色の少女が数歩前に進み出る。
「そこの子供、戦場は遊び場ではない、死ぬぞ、去れ!」
エファーは、右手に把持するランスで、まるで、ハエを追い払うように少女を追い払う仕草をした。
…コイツ…ワレ…ヲ…カロンジタ…ナ……コドモ…ダ…ト…
褐色の少女…チェルは、舌打ちをする。
たしかに、この間まで雷獣の幼生体であったチェルは、雷獣の中では子供である。
だが、100年生きているチェルは…たかだか20数年の人間風情に、下に見られ、あざける様に追い払う仕草をされたことにムッとする。
左腰に下げた、大きな鉈のような短剣を抜くと…重装騎兵エファーに向って駆けだした。
…小癪な…
エファーも、右手でランスを握り返すと、チェルへ向かって突進した。
瞬く間に2人は相対する。
エファーは、生意気な子供を嚇すために、そのランスで少女の黒い皮鎧の右肩をかすめるように狙った騎馬の突進力が加わったランスが、少女の右肩目掛けて打ち出される。
少女は飛び上がり、そのランスをよけると、重装騎兵エファーの鎧兜の頂点の飾りを、短刀で軽く打ち、騎馬のはるか後方へ降り立った。
少女に軽くいなされたエファーを見て、モスコーフ帝国重装騎兵隊から大きな笑いが起こった。
「おいおい、エファー。子供にしつけるんじゃなくて、しつけられてるぞ」
「まったくだ」
「こりゃ、強敵だなぁー」
騎馬を回頭し、正面から味方の笑いを受ける騎士エファーは、憎々し気な顔に変わっているが、目は真剣だった。
…こいつ…出来る……亜人か…
エファーは、ようやくチェルの背中から伸びている2本の触角が目に入り、亜人だと考えた。
…亜人なら、あの跳躍力…身のこなしもわかる…
いつまでも、笑いが起こっている味方の陣には目もくれず、右手でランスを握りなおすと、突進する。
…手加減はなしだ…
騎馬の後ろ脚は、先ほどより多くの土を蹴り上げ、みるみる加速していく。
チェルも又、騎士へ向かって走り、騎馬上の騎士へ向かって、飛び上がった。
少女が、飛び上がる間際のタイミングを計っていた騎士は、飛び上がった瞬間…
褐色の少女目掛け、ランスを全力で突き出した。
少女は、そのランスを右手の短刀で外へ跳ね飛ばし、そのまま、その勢いを利用し半回転すると左足で強く騎士の胴を薙ぎ払った。
騎士は、馬上から跳ね飛ばされ落馬し、土の上を転がる。
「ぐぅぅぅ…くそっ…」
エファーは、すぐに起き上がり術袋から長剣を取り出すと構えた。
あの勢いで落馬し、すぐに剣を構える…もはや、騎士エファーは少女をなめてはいない。
褐色の少女チェルは、黒い術袋からいつもの黒い大剣ではなく、博影に魔石をはめ込んでもらった長剣を取り出し、右手で無造作に握ると…
騎士エファーに向って駆けだす。
そして、敵が間合いに入ると…
斜め後方にだらしなく切っ先を向けていた長剣を、右手一本で、騎士エファーの、腰から肩口に向かうような剣先で斜め下からはね上げた。
ガキンッ
まるで、その剣撃を読んでいたかのように、両手で握る長剣で弾き飛ばそうと、斜め上段から全力で振り下ろす。
しかし、少女の剣ははじけず、騎士エファーの剣がはじけた。
ガキンッ、ガキンッ…
その騎士エファーの剣がはじけた隙を見逃さず、褐色の少女は剣を振り下ろし…
突き…薙ぎ払う…次々に繰り出す
騎士エファーは、剣だけで防ぎきれず…
何度も鎧で防ぎながら、勢いに負けじりじりと…後ろに下がっていく。
少女は片手で剣を次々に繰り出し…騎士エファーは、両手で持つ剣で少女の片手の剣撃を受け止めるが、力負けをする。
…くっ、こいつ…強い…あの細い腕で、何と重い…力任せな剣撃を繰り出す…
と、騎士エファーが己の負けを感じた時…横殴りの剣撃を受け、後方へ飛ばされた。
「ぐぅ…」
うめいた口からは、血が流れている。
騎士エファーは、飛ばされてもなお離さなかった剣を地面に立て、立ち上がろうとするが…体が言うことをきかない。
…くっ、こんなところで死ぬわけには…
目の前を死がよぎる…が…
褐色の少女は、踵を返し自軍へ戻っていく。
死から生へと針は変化したが、自軍の…帝国騎兵隊の目の前で受けた屈辱に、ただ恨みが増幅されていく。
救護班に促され、担架に横になる。
自軍から大きな笑い声が聞こえるが、もはや騎士にとって死同然の屈辱を受けた、騎士エファーの頭には届いていなかった。
騎士ウエン、騎士フェンガーは、二人同時に騎馬を前に進めた。
一人づつこの一騎打ちの舞台に上るはずであったが、騎士エファーが、いくら亜人とはいえ褐色の少女…それも歩兵?に負けたことで、自軍からの嘲笑を受け…
…早くいけ…とせかされた
騎士ウエン、騎士フェンガーは二人の間を大きく取り、敵騎兵と相対する。
自軍から聞こえる気楽な気勢と異なり、二人の間に言葉はなく…右手に構えるランスを力強く握り…ただ、おのが相手となるダペス家重装騎兵を射るように見つめていた。
二人は、先ほどの亜人の少女の強さを認め、城塞都市グリナがこの者達によって陥落したのだと認めた。
もはや侮る気持ちは微塵もない。
二人には、周りの喧騒は聞こえず。
ただ、静かな空間が広がった。
ガガッ
二人同時に騎馬に鞭を入れ突進する。
その動きとほぼ同時に、ダペス家騎士カキアス、ボレアも突進する。
ガキン…ガキン
ランスがぶつかる二つの音が、その空間に広がる。二度…三度…
…やる…
カキアス、ボレアとも当初は一撃のもとに決着をつけるつもりであった。
しかし、相手を格上だと認めた、騎士ウエン、騎士フェンガーの集中力は見事なものだった。
守りを捨て、ただその一撃を敵に叩き込むことのみに集中し、その一撃に全聖力を注ぎ込むかのような集中力で、ランスを繰り出してくる。
五度…ランスを交えた後…再度相対する。
ふっと、カキアスとボレアがお互いを視界の片隅に映す。
…次で終わらせる…
「ハッ」
「ハッ」
二人同時に騎馬に掛け声を入れ、全力で突進する。
六度目は…カキアスとボレアが、ウエンとフェンガーのランスを弾き飛ばし、脇腹へランスを突き立てた。
ウエンとフェンガーは、後方へ大きく突き飛ばされた。
カキアスとボレアは、それぞれ敵の状態を確認すると、騎馬を駆けさせ自軍へ戻った。
二人が自軍へ戻る様子を伺いながら、救護班が二人を担架に乗せ急ぎ自軍後方へ引き上げた。




