第5話 ロムニア国 建国 5
異世界召喚 119日目
イシュ王都を出発し、22日目
城塞都市グリナ…制圧3日目
城塞都市ロムニア(旧グリナ)…
徐々に東の空が白々と明るくなり…その明るさに照らされ始めた草原は…
水分を多く含んだ…草の香りが徐々に溢れ出していく。
ギャン…ガキッ…ドカッ…
その静寂の中…城塞都市ロムニア(旧グリナ)の正門付近では、激しい剣戟の音が響き渡る。
色黒の細い少女が、自分の丈以上もある大きな大剣を片手で振り回し、その少女の背丈の倍近くはあるのではと、思ってしまう背丈2mほどの男たちと剣を交えている。
その男のがっしりとした足腰で支えられ、大きな木の幹のような腕もろとも振り下ろされる大剣を…たやすく、黒い大剣で受け止める。
刃では受け止めず、大剣を横にし剣自体(腹)で受け止め、受け止めた剣ごと、横に払い男の体ごと弾き飛ばす。
「すげぇな兄者、すがすがしいほどかなわねぇ」
ウーノィは、クーノィに話しかけながらも、その色黒の細い少女から目を離さない。
「あぁ、すげぇ。あれが魔人か…あの細い体でこの力…くやしいが、手も足もでねぇ。だが、俺たちもこの魔石の加護を受けた剣は…まだ、慣れちゃいねぇ。
もっと強くなって、少しは相手になりてぇな」
クーノィも、ウーノィに返事をしながらも…やはり、少女から目を離せない。
「二人とも、これは剣の腕を鍛えるためにやっているのではないぞ」
先ほどまでチェルと剣を交えていたシスティナは、クーノィの傍らに座りしばし休憩を取る。
「いや、魔力を集中させる、高める訓練とわかっちゃいるが、あの…魔人…チェルといったか、あれほどの力強さを見せつけられては、気も高まるわ」
二人とも、チェルから目を離さず嬉しそうにシスティナに話すが、地面に座ったまま腰を浮かそうとはしない。
二人は、6回ほどチェルに挑み、そのつど吹き飛ばされていた。
外傷は負っていないが、さすがにかなり疲労しているようだ。
結局、夜明け前から始まり、昼過ぎに博影が現れるまで、途中、半時の休憩を取っただけで、チェル一人でテュルク族と剣の練習を行った。
昨日、テュルク族・140名の武具に魔石を埋め込み、魔法陣を使い魔石へ魔力を流す感覚を学ばせた博影は、ほとんど魔力を使い切り昼前まで寝ていた。
「博影様、まだお休みになっていたほうが…」
傍らでルーナが心配している。
「いや、まだ70名ほどが手つかずだから、魔力も半分ほどは回復したし、今日中にやっておきたい」
そうルーナに答えると、小さな魔法陣を出現させ、黒い術袋から小指ほどの魔石を取り出し、武具一つ一つに、魔石をまるで少し溶かすように埋め込んでいく。
一つに埋め込むのに、僅か30秒もかかっていない。
しかし、70名の剣・槍・防具はかなりの数があり約3時間ほどかかった。
その後は、昨日と同じく魔法陣を大きく展開し、その中で20名づつ剣の修練を行わせる。
個人差はあるが、半時ほどすると武具の魔石へ魔力を流す感覚をつかみ出す。
そして、魔法陣の中で修練を繰り返させ、日が落ち始める頃になると、70名全員が魔法陣に頼らなくても、魔石の加護を引き出せるようになっていた。
…ふぅ~…
大きなため息をつきながら、出現させていた魔法陣を収めた博影は、目の前でまだ修練を続けてるテュルク族の戦士たちを見ながら、石畳へ腰を降ろした。
「博影様、どうぞ」
ルーナが差し出してくれた水筒を、ありがたく貰い一気に喉を潤す。
「これで、200名全員がドゥオナイト(中級騎士)と戦っても引けを取りませんな」
昨日に続き、今日もちゃっかり修練に加わっていた族長ウルディは、上半身の武具を外し汗を拭きながら、博影の傍らに来る。
「博影様、いつ出立しますか?」
「少しまだ迷っているが…明日、遠征軍のみ再度修練を行い、明後日は準備と休憩。明々後日朝、出立でどうだろう?」
ウルディへ水筒を渡しながら尋ねる。
ウルディは、ごくごくと水筒の水で喉を潤すと…
「わかりました、さっそく準備を始めます。予備の武具、食料、天幕などは、博影様のあの黒い術袋へお願いできますか?
そうすれば、かなり移動が速くできますので」
博影は頷く…
「わかった。それと、遠征軍だが…100名お願いしようかと考えている…が、どうだろうか?」
「そうですな。スタンツァとガリアの守備隊は騎兵500とのこと、魔石の加護を持つ武具を得た我ら100名であれば、一時あれば占領できるでしょう。
それに、特に問題は起きていないとはいえ、この城塞都市ロムニア(旧グリア)の守備に100名は残しておいた方が良いでしょうから。
では、さっそく準備と人選を行います」
そういうと、ウルディは正門そばのウルディ達が宿泊所にしている大きな建物へ向かっていった。
…100名か…ただでさえ、志願してきた者達、そして魔石の加護を持つ武具を与えられ…扱えるようになり
敵は、騎兵500…
それも、博影様とともに戦える…
この人選に漏れた者たちからは、かなり恨まれそうだな…
ウルディは、剣の修練を終えたクーノィ、ウーノィに声をかけ、先に建物へ足早に向かった。
夕刻…7時過ぎに、夕食を取る。
夕食後、ティラ、ブレダは遠征の準備等の話し合いの為にウルディの元へ行く。
博影、システィナ、ルーナはいつものように、3人でゆっくりと入浴を楽しみ、部屋でワインを飲みながらくつろいでいた。
部屋の入り口、扉の近くには狼2頭が、まるで門番のように寝そべっている。
「狼が、あんなに人に懐くとは…それも、人の役にたつなんて…」
ルーナは、ワインを飲みながらほっと一息つく。
「まぁ、俺たちに懐いているというよりチェルに懐いているけど」
博影もワインを飲みながら、お風呂上がりのけだるい心地よさを味わっている。
そして、たまに足元のチェルの頭を撫でる。
撫でられたチェルは、頭を僅かに博影の手へ押し付ける。
相変わらず、そこがチェルのお気に入りなのか、椅子に座る博影の足元に…チェルは座っている。
博影の足を背もたれにして…
その様子をシスティナは見ると、なんだかほほえましく感じた。
とても、昼間…あの力自慢のテュルク族の戦士を、片手で持つ剣で、弾き飛ばしていた魔人とは思えない。
「博影、明々後日朝に出立だな」
「あぁ、もうロムニア国建国の話も、港町ガリアに届いているだろうから、一日二日がどうこうと言うことはない。
明日1日遠征軍100名の修練を行って、明々後日朝出立する」
コップをカラにすると、博影は、
…お先に…
とベッドへ入る、するとその足元にチェルも寝そべった。博影の足を枕にして…
「あら、チェルがこんなに甘えるなんて珍しい」
ルーナも、そのたまに見せるチェルの甘えをほほえましく見ていた。
しばらくすると、博影の微かな寝息が聞こえてきた。
「シス…テュルク族の戦士へ魔石の加護を持つ武具を与え、修練を積ませる事、どう思いますか?」
少し伏目がちにシスティナへ尋ねた。
「そうだな…我々は、数が少ない。それなのに、国を造ろうとしている。
軍としては、テュルク族の騎兵としての速さ、強さに頼るしかない。
そのテュルク族が魔石の加護を得た。
聖石の加護を持つ騎士に剣で互角以上の戦いが出来る。かなりありがたいことだと思う。
それに…テュルク族は、博影に対しかなり思いが強い。
供に戦うものとして、これほど心強いことはない」
ゆっくり、言葉を選びながらルーナの問いに答えたシスティナは
又、一口ワインを飲む
「だが…ルーナが、聞きたい事はこういう事ではないのだろう」
ルーナは、一瞬システィナの目を見て頷くが、又テーブルへ目を落とした。
「城塞都市グリナを制圧し、ロムニア国建国を宣言した。
私たちに、有利な点はモスコーフ帝国が知らない事、モスコーフ帝国が、城塞都市ロムニア(旧グリナ)を攻めるには準備に時間が必要な事だ。
その事を考えれば、テュルク族へ時間を掛けるより、まずは港町スタンツァとガリアに我々の事を知られる前に制圧し、そのあとテュルク族へ魔石の加護を持つ武具の修練を行った方がいい。
だが、それでは敵は500名の騎士…テュルク族にも死傷者が出るだろう。
博影は、おそらくそれを嫌がった」
博影は、かなり疲れているのだろう、まったく起きる様子がない。
だが、チェルは耳だけこちらへ向けていた。
「そう…シスの言う通り。博影様は、優しい…戦場では、非情になれるけど、それでも、味方に対しては戦場でも優しい…優しすぎる。
治癒師なのに戦場に出て…たしかに、凄い力を持っているけど、不死じゃない。
私は、ブスタ大平原の戦いで、博影様が仲間を助けるために最後まで残り、濁流に飲み込まれる瞬間を見た。
息が止まっている博影様の体に触れた。
私は…私は、もうあんな思いは…」
最後まで話せず…ルーナの目からは涙が溢れ出してきた。
ルーナも、システィナもお互いかけがえのない家族を失っている。
そして、二人とも博影の事を大切に思っている。
システィナは、ルーナの気持ちに重なることが出来る。
だが、その気持ちがわかるからこそ言葉は出てこない。
席を立ち、ルーナの傍らに行くと、指でルーナの涙を拭き、背中からルーナを抱きしめた。
「ルーナ、今日は疲れたもう寝よう」
ルーナを席から立たせると、博影のベッドに入り両隣に寄り添う。
博影の体越しに手を伸ばし、ルーナの指に触れた。
「人の気持ちや考えには、答えがないこともある。迷いのあるまま、行動することもある。
もしかしたら…このままでは、後悔する日が来るのかもしれない。
でもルーナ、私たち博影と供に進んでいこう。
博影の目指す先を、一緒にみよう」
目をつぶったままルーナは、まるで自分に言い聞かせるように数回頷き…博影の体へ顔を寄せた。
システィナは、ルーナが寝付くまでルーナの指に自分の指を絡ませた。
そして、僅かに空いている木窓の隙間から、外の漆黒の闇を見つめ…自分の考えを整理する。
…博影、お休み…
と、つぶやくと博影の体に顔を寄せ目を閉じた。




