第2話 ロムニア国 建国 2
異世界召喚 117日目
イシュ王都を出発し、20日目
<城塞都市グリナ 暴動に加わった兵>
【イシュ王都軍】
イムーレ王子、親衛隊21人
カローイ率いる軍(ダペス家と自ら希望した騎士達)
重装騎兵 100名
軽装騎兵 500名
テュルク族軍:黒山羊騎兵隊:100名
【城塞都市グリナ守備隊】
施政者:チャウ伯爵 → (捕えられ捕虜に…)
守備隊長:騎士ミヒャル・ウーシ → (黒騎士に切られ戦死)
重装騎兵 500名 → 300名 … モスコーフ帝国・本国軍(50名)、辺境軍(250名)
軽装騎兵 1200名 → 800名 … モスコーフ帝国・辺境軍(800名)
歩兵(市民兵)2500名 → 1100名 … モスコーフ帝国・本国軍:200名
モスコーフ帝国・辺境軍:900名
【旧ロムニア公国】
騎士ペシエ、トゥロク、セドナ
軽装騎兵150名 → 軽装騎兵80名
歩兵1000名 → 歩兵100名
…トン、トン…
「どうぞ」
「司祭マリナ、騎士ペシエをお連れしました」
ダペス家の騎士が、マリナ達を連れてきた。
「席にどうぞ」
カローイは、4人に席をすすめた。
4人が座り、一口コップの水を飲み終えるのを待ってカローイが話し出した。
「では、我々の提案ですが、
まず目的としては、このロムニア国が軍事的にも、経済的にも強い又、活気ある国になってほしいと考えています。
そうなることで、イシュ王国にとってロムニア国がモスコーフ帝国の侵略を阻む東側の盾となりますから。
そして、その方法ですが、20年間、施政に関わっていなかった皆さんがすぐに施政者になれるとは思えません。
そこで、イムーレ王子を代理の施政者とし、我々が軍事を含む施政を皆さんと共同で行い整え、3年をめどに、皆さんへお返しします。
そして、今回とその事に対する見返りとして、鉄門砦と港町ガリアもしくは、スタンツァをイシュ王国へ譲ってください。
まぁ、鉄門砦も2つの港町もまだ陥落していませんが、港町にイシュ王国軍が駐屯することで、ロムニア国の海側の大きな守りになると思います」
硬い雰囲気を和ますように、すこしカローイがおどけながら説明する。
「そして、この国を守るにあたってテュルク族の力も必要と考えます。
都市ティミアラと宿場町セベリをテュルク族へ譲ってください。
そうすると、今まではテュルク高原から、ほとんど出てこなかったテュルク族が町に降りてきて、僅かではあってもロムニア国とイシュ王国と交易を行い、信頼関係が築かれていくでしょう」
一旦話を切り、カローイは、4人の顔を、表情を確認する。
しかし、テュルク族へ都市ティミアラと、東ドウイ川の宿場町セベリを譲る話は出ていなかったが、カローイの話を聞いて博影やシスティナ達は納得していた。
たしかに、テュルク族と交易し信頼関係を深めモスコーフ帝国に協調して対峙していく…良い考えだと思う。
「そこで、今後の軍事行動ですが、まずは、2つの港町…スタンツァとガリア、北部の旧ロムニア公国の国境沿いの町…都市ガラン、ブザエ…を押えます。
そうすれば海側(東側)と北側から帝国が侵攻することは容易ではない。
そして体制を整え、南部の都市ダルノやシュメを落とし、旧ロムニア公国領を完全に取り戻します。如何ですか?」
マリナとペシエは、言葉を数回交わしペシエが口を開いた。
「ありがたい話です。特に、港町をイシュ王国へ譲ることで私たちにとっては、海側に大きな盾を築くことになりますから。私たちに異論などありません」
「わかりました。そちら側から、なにか要望などありますか?」
「要望というわけではないのですが…博影様は、この後どうされるのですか?」
マリナが、その長いまつげを少し震わせながら不安げに聞いてきた。
「私ですか…今後の2つの港町と北部の2つの都市への遠征に参加します。そして、この新しい国が落ち着くまで協力しますよ」
「博影、いいのか?」
もちろんカローイは博影がそのように言うことはわかっていたし、気持ちも理解している。
しかし、博影は召喚された者であり、召喚された理由…イシュ国王の治療は終わっている。
前の世界へ戻る努力をしたいだろう。
その事を後回しにして、この国に2~3年…本当に協力してよいのか…ついつい聞かずにはいられなかった。
「あぁ、大丈夫だ。
沙耶には寂しい思いをさせてしまうが、落ち着いたらこちらに呼び暮らすこともできるだろうし…
もうここまで関わってしまった。カローイ達が本腰いれて協力してくれているのに、巻き込んだ自分が無責任なことは出来ないだろう。
それに、この国が強い国になればイシュ王国にとっていい。それは、自分がいままでお世話になった…関わってきた人たちが幸せに暮らせるということだ。
少々無理する価値があるさ」
カローイに笑顔で返しながら、マリナを見る。
「もちろん、マリナ達の幸せのためにもね」
ちょっと意地悪っぽく笑う。そう、最後にマリナ達の事を話したが、この城塞都市グリナに博影が戻ってきた理由は、マリナを救いたかったためだ。
「博影様、ありがとうございます、よろしくお願いします。
又、カローイ殿や皆さん、ご協力感謝します。
私たちも精一杯頑張りますので、どうかよろしくお願いします」
マリナやペシエ達は、再び頭を深く下げた。
「では、あと半時で10時だ。博影、城内広場へモスコーフ帝国軍・貴族、騎士、上級市民の代表たちを集める手はずになっている」
「わかった、カローイ。その際、話す内容だが…」
博影は、カローイやマリナ達に降伏したモスコーフ帝国軍へ話す内容を提案した。
10時、グリナ城内広場には多くの者達が集まっていた。貴族、騎士だけでなくその家族も集まっている。
昨夜、モスコーフ帝国軍が降伏した。
普通なら隊長、副隊長クラスは牢屋に入り、他の者達は、数か所の建物にまとめられ監視されるが、黒騎士は、武装解除を命じた後、そのまま家族の元へ返した。
もちろん夜間外出禁止令は出していたが…その事が、多くの者達の関心を引いていた。
又、降伏を促す際、
黒騎士は、淡く光る大きな魔法陣を展開し、敵味方の区別なく負傷している者達の傷を癒した。そして、スコル神が守護神だとのたまった。
その異質で巨大な力と、スコル神ではないかと噂されている黒騎士を、どのような者か…一目見てみたいと、多くの者が集まっていた。
本館正面の扉が開く。
黒騎士を先頭に、イムーレ王子、カローイ、マリナ、ペシエが続く、1mほどの台に5人が上がった。
台下右横には、2頭の狼を従えるチェルが立ち。
台下左側には、シスとルーナが立った。
そして、台下後方にはティラ、ブレダ姉妹が護衛として立った。
ざわついていた人々が、黒騎士へ視線を向け…口を閉じた。
みな一様に心の中で思った。
…もっと屈強な者かと思っていたが…細い…女性か、少年のようだ…と
「我はスコル神の加護を持つ黒騎士である。
我が母イリオスは、このロムニアの地のイリオスを崇める者達が苦しんでいる事に、心を痛めていた。
その者達の心の祈りが届き…我は降り立った。
そして、この城塞都市グリナをわが手に収めた。
我は、このロムニアの地を…我が母イリオスを崇める者達が暮らすこのロムニアの地をわが手に収めていく。
イリオスの恵みが降り注ぐこの地で暮らす意思のある者は、今までと同じく暮らすがよい。
貴族は貴族として、騎士は騎士として、市民は市民として、イリオスの恵みに感謝し、幸せに暮らすがよい。
又、この地を離れたいものは3ヶ月後、この地を出ることを許す。
その際には、もてるだけの私財を持ち出すことを許す。
太陽の光は、信じる者も信じない者も平等に降り注ぐ。
この地を離れる者も、他の地で幸せに暮らすことを我は望む」
その市民街の喧騒が、時折わずかに聞こえる広場で、黒騎士の声は、隅々まで響き渡った。
黒騎士の右隣にマリナが進み出た。
「我らの祈りが、我らの行動がイリオスに届き、スコル神がこの地に降り立ちました。
私はここにロムニア国建国を宣言し、この地に暮らす人々が、幸せに暮らしていける国をつくっていきたいと思います」
マリナの目は、まっすぐに水平線上の空を見つめていた。
ロムニアの地、全土に気持ちが伝わるように…
マリナの口から、ロムニア国建国の言葉が出た瞬間…
人々の間でどよめきが起こった、そして黒騎士の左隣にイムーレ王子が進み出るとどよめきが収まる。
集った者達が、モスコーフ帝国本国の者達であったなら、反感のどよめきが起こっただろう。
しかし、ここに集まっている者達のほとんどは、モスコーフ帝国に吸収された国々の者達であった。
生まれた時は、もはやモスコーフ帝国だったものが多い。
しかし、親からその地に住む自分たちの歴史は教わってきている。
その中で…また、今まででモスコーフ帝国から独立を宣言した者達など…国など聞いたことがなかった。
どよめきは、驚愕のどよめきだった。
「イシュ王国第1王子、イムーレだ。
我が地の人々は、イシューレの神を崇めている、イシューレの神は、太陽の恵みに感謝している。
我々イシュ王国は、ロムニア国建国に力を貸す。
我々が、多くの力を出すことで、この地はより安定するだろう。
私は、イシュ王国の代表としてこの地にとどまり、ロムニア国建国に尽力する」
イシュ王国第1王子がこの場に立ち、イシュ王国の代表としてロムニア国建国に尽力するという。
その言葉を聞いた者すべてが驚き、どよめく。
又、昨夜の戦いに身を置いていた騎士達は、薄明かりの中イムーレ王子を見ていた者も多かった。
実際に戦いに身を置いていた…それも、正門から援軍が躍り出てくるまでは劣勢に陥っていた。
その戦いに協力していた。
実際は、意図していたものではなく、その場の流れで戦に加わっていただけだったのだが、降伏した騎士達は、第1王子が劣勢な戦いに加わっていたことで、イシュ王国の本気を感じた。
「では、これまでとする。
何か我らに聞きたいことがあれば、代表者がこの本館へ参れ。
又、貴族・騎士は残れ。
我が片腕、副官カローイが今後の治安の事についてそなた達と話をする」
そういうと、黒騎士達5人は台を降り本館へ向かった。
台の後方の位置にいた、カローイとダペス家の騎士数人は入れ違いに前に進み出る。
王子の親衛隊やロムニア国騎士達が、集まった人々に解散を促す。
貴族・騎士達の家族、市民が城内からでる。城内には、およそ1000人の貴族・騎士が残った。
その者達を前にし、カローイがグリナ城の治安の事に関して説明していった。
本館1階の広間に博影達は集まった。
「一つの大きな仕事が終わったな」
イムーレ王子は、椅子にドカッと腰をおろすと…ふぅ~と大きく息を吐いた。
「人前で話すことに慣れているイムーレ王子でも、疲れることがあるのですね」
「いや博影、人前で話すことが疲れるわけではないが、さすがに、昨夜戦った者達の目の前で話すとなると、いささかな…
それに、やはり牢屋暮らしで体がなまっているよ」
王子は、いかにも情けない…というように笑った。
「だが博影、急ぎ行動したいところだが、このグリナに1000人ものモスコーフ帝国騎士を残したまま、
2つの港町や北部の都市へ遠征へはいけない、
どうするか問題だな、
我々も、すべて合わせて騎兵1000しかいない」
イムーレ王子の言うことはもっともだった。
武装解除しているとは言っても、それぞれの家の中まで探すような刀狩りのような事はしていないし、今後の信頼関係を考えれば出来ない。
良からぬことを考えさせないように、騎士を多く配置しておかなければならない。
降伏したモスコーフ帝国騎士1000名に対し、こちらも1000名…
現状でも問題であるのに、遠征に騎兵を割くわけにはいかない。
「このグリナは、後方の駐屯地としての役割もありましたので騎兵が多くおりました。
しかし、港町や北部の都市は、駐屯地としての役割はありません。
守備に就いている騎士も、100人程度だと思われます。
しかし、このロムニア国建国が帝国に知れれば、すぐに増員されるでしょう。
その前に、制圧したいところですが…」
騎士ペシエが、最後の言葉を濁した。
ペシエもわかっている、300人の騎兵で制圧できる…が、現状1人も割けないのだ。
「100なら、近々援軍が来る」
入り口の扉近くで護衛として立っているブレダが、若干申し訳なさそうに口を挟んできた。
ブレダも、いくらテュルク族騎兵とはいえ、100のみで遠征軍が務まるとは思っていない。
「テュルク族騎兵100か…悪くない」
博影は、腕を組み考えながらつぶやくように答えた。
「博影、100で行けるか?」
「イムーレ王子、自分の力を過信しているわけでなないのですが、私とチェルの力なら、城壁を越える事や、正門を壊し突破することは造作もありません。
そして、魔物の黒山羊を操るテュルク族100の騎兵なら…
敵が500の騎兵でも、ほぼ無傷で行けると思います。
まぁ、敵が聖騎士や上級騎士ばかりなら問題ですが…」
「そうか、なら後は施政の問題だな。
戦に勝利しても、その都市を治めるためには人がいる。港町ガリアとスタンツァは、東ドウイ川を挟み両隣にある。
その都市2つは、治めることは出来るが、北部の町へ遠征することは出来ないな。
守るに適している北部の都市ガランを落とせないのは、残念だが…ガリア、スタンツァだけでも落とせれば…」
イムーレは、右手を額に置き思案しだした。
「あの…私を、私たちイリオスの司祭、助祭を数人お供させてください。
そして、港町ガリアやスタンツァにはロムニア公国からの市民や騎士もいるはずですから、攻略後、協力してもらえるように頼んでみます。
イリオス神の元、協力の誓いを立てた者は必ず最後まで協力してくれると思います。
協力者の数次第では、北部の都市へ遠征できるのではないでしょうか?」
「マリナの言うことは、確かに理はあるが、100の遠征軍で戦をしようとしている。
とてもマリナ達の護衛までは出来ない、制圧後にグリナへ知らせるので、それから、来てもらう…ではどうかな?」
いくらテュルク族騎兵が強いとは言っても、僅か100…
とても、マリナ達の安全を確保することはできないし、部隊のはるか後方に位置してもらっても、安心はできない。
城塞都市グリナで、知らせを待ってくれた方が安心だった。
それに…博影は戦場にマリナを連れて行きたくはなかった。
昨夜のような、兵ではないマリナ達を戦に巻き込みたくはなかったのだ。
「博影様…」
博影の目をまっすぐに見つめた。決意に満ちている目で…
「たしかに、博影様達の足手まといになることは本意ではありません。私1人だけ同行させてください、私は、騎馬も剣も多少使えます」
「いや、マリナ、それは…』
マリナは、博影の言葉にかぶせる。強い意志で…
「博影様、私はついていきます。
司祭の私が同行することで、必ず流れなくてもよい血があるはずです。
私は、博影様に、皆さんに希望を貰いました。
希望を信じていただけの私に…希望が潰えた私に、本当の希望を見せてくれました。
私はもう、希望を信じ祈るだけではありません。
希望を信じ、進んでいきます。
博影様とともに進んでいきます。
そして、この地の人々に、希望を見せ、私たちと供に進む先に希望があることを知ってもらいたいのです」
マリナの気に押され、一瞬間があく。
「わかった、司祭マリナの気持ち理解した、同行をお願いしよう」
イムーレ王子も、戦場に兵でない女性は連れて行きたくはない。
しかし、マリナの強い意志は尊重したいし、マリナの希望を話す言葉には、感じるものがあった。
「では博影、援軍100が到着した後、テュルク族騎兵100と…」
「私と、ルーナとチェル、マリナが同行する」
さっと、イムーレ王子の言葉をシスティナが横切った。
思わず、イムーレが苦笑する。
…ギッ…
扉が開き…
「私も同行する」
部屋に入ってきたカローイが、強い口調で言う。
「カローイ、お前は無理だろう。施政を行うイムーレ王子の副官は、カローイでないと」
「博影、みなまでいうな。わかっている、ちょっとごねてみただけだ」
少し苛立ちながら椅子に腰かけ、一口水を飲むと
「博影、いつも同じことを言うが無理するなよ」
「わかっている、大丈夫だ」
博影は、笑顔でカローイに答えた。カローイは、その笑顔を無視し…
「特に今回の戦…我々が到着するのが1時間遅ければ全滅していたかもしれないぞ。ろくに策も考えずはじめたのだろう。
お前は無理をする奴だが、考える奴だ。しかし今回の戦は、イチかバチかだろう。
予期しないことが重なったと言っても、死んでしまえばおしまいだ。
お前は、死んではならない身だ。
沙耶を悲しませるな」
カローイは若干苛立ちながら、博影に諭すように話した。
だがその苛立ちは、博影の今回の行動もさることながら、自分たちの力が足りず、博影の力を頼らざるお得ない事にも苛立っていた。
本当は、博影と沙耶はダペス領内へ帰したいのだ。
主な話し合いは終了した。
マリナは、教会へ帰り助祭たちにガリア、スタンツァ、ガラン、ブザエのイリオス教会に知り合いはいないか聞き、今後の事を話し合うという。
ティラとブレダは、今の話を城壁や正門の見回りを担当しているウルディに話に行った。
イムーレとカローイは、騎士ペシエからグリナや旧ロムニア公国の貴族や騎士たちの現状を聞くために、別室へ移動した。
博影も加わろうと思ったが、カローイから、休め…と強く言われ、又、風呂を用意させてある…とも言われ、気持ちに甘えて先に下がることにした。
「カローイは、案外マメだな」
本館の裏にある、風呂場へ向かいながらシスが笑顔で話す。
この世界では、蒸し風呂が主であまり風呂につかる習慣がないようだが、博影が風呂に入りたがり、それに付き合うようになってシスは風呂が好きになっていた。
「ですね、疲れた体にはありがたいですね」
ルーナも同意する。
博影は…2人に護衛もかねて絶対一緒に入ると押し切られ、苦笑いしながら頷いていた。
太陽は、真上を過ぎつつあった。
しかし、こんな昼間からお風呂とは…かなり贅沢だな…
と思いつつ、風呂場へ向かった。




