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第6話 暴動 2


異世界召喚 116日目


イシュ王都を出発し、19日目





ガキン…ザクッ…ぐわぁー…


酒場街の傍にある大広場周辺ではあちこちに篝火がたかれ。その篝火に照らされた人々の影が、建物の壁に映る。


上級市民500名(モスコーフ帝国市民兵)

下級市民300名(元ロムニア公国市民兵・反体制側)が、入り乱れ戦っていた。


時間がたつごとに、どちらの側にも次々と兵が集まってきていた。

しかし、モスコーフ帝国兵は、全員武装していたが、下級市民兵は、約1/3程が武装しているだけで、他は、剣と盾を装備しているだけ、剣だけの者も多い。

皆、見回り隊との小競り合い程度と考えていたのだろう。

人数も違うが、装備が違いすぎる。

徐々に、下級市民兵側は押されていく。


「みな、一旦引けぇー引けぇー」


甲冑で武装している反体制側騎士が、声をからし下級市民兵に叫ぶ。


「逃がすなー」


モスコーフ帝国騎士が叫び、市民兵が追撃する。


「退却か…ネズミどもが、どこに逃げようというのだ。もはや、逃げ場所などないわ。おとなしく死ね」


帝国騎士がつぶやき、笑う。

逃げる下級市民兵の中央が割れる。そこには…暗闇の中にたたずむ軽装騎兵が整列していた。


「くっ、罠か…だが…盾を構えろ、密集体型を引けー」


「よくも、好きにやってくれたな。みな行くぞ、蹴散らしてやれー」


ペシエがランスを突き上げると、約100名の軽装騎兵の、第1陣・約30名が横一列になりた盾を構えるモスコーフ帝国兵に突撃していく。

ランスで盾ごと歩兵を串刺しにしていく。


「第2陣、いけぇー」


ペシエの号令で、第2陣、約30人の軽装騎兵が第1陣の隙間を通り帝国兵に突撃する。

第3陣…3回の突撃で、モスコーフ帝国兵、120人程が打ち取られ、陣形が崩れ、浮足立ち…逃げ出した。


「よし、このまま追撃する。目指すは、貴族・騎士エリアだ」


ペシエは、全軍に追撃戦を命じた。

逃げ惑う歩兵を槍で切り伏せ、突き進む。上級市民エリアの大広場に入ると…


暗闇に囲まれ、町明かりでうっすらと影しか見えなかった大広場の…あちこちに、急に篝火が灯され一気に明るくなった。


その大広場の向こう側には…

モスコーフ帝国、重装騎兵約400、軽装騎兵約1000、両脇に歩兵2000…

所狭しと並び陣を敷いていた。


反体制派は、軽騎兵150、歩兵1000名…


一騎、前に進み出てきた。


「ペシエ、帝国の慈悲を裏切った罪は重いぞ。楽に死ねると思うなよ」


「くっ、ミヒャル…

暴動が始まる前から、準備はしていたという事か…これでは時間を稼ぐどころではない。トゥロク…」


ペシエは、雨雲が一面に広がり…星一つ見えない夜空を仰ぐ。


…おぉー…


反体制派の後方より、どよめきが声が上がる。

ペシエが、後方を振り返ると…


星一つ見えない、真っ暗な空から…一筋の月の光が…光の帯が地上を照らす。その照らされた中に、騎馬に乗りこちらへ向かう人影が二つ…


…マリナ様…マリナ様…


反体制派の歩兵や騎士は、前に進み出るマリナを見つめ祈った。

ペシエの隣に、マリナと護衛の女騎士セドナが騎馬を並べる。


「マリナ様、なぜ戦場に…」


「騎士ペシエ。私は、皆の願いを…希望を…勝ち取るために、ここで祈ります。供に戦います」


マリナは、腰に携えている剣を抜き掲げた。


…おぉー…おぉー…


反体制派の騎士が、歩兵が雄叫びを上げる。


「わかりました。セドナここより前に進むな、マリナ様を頼んだぞ」


ペシエは、槍を掲げる。軽装騎兵が、マリナの…ペシエの前に出る。


「皆、いくぞ! 突撃!」


150名の軽騎兵は、50名づつの3陣に別れ波状攻撃を繰り返した。


………



1時後…いや、1時間も持ったというべきか…


反体制派は…半数以上の軽騎兵、歩兵を打ち取られ、退却していく。

モスコーフ帝国の追撃隊を、数人の騎士が…市民兵が、決死の覚悟で路地で待ち伏せし…突撃し…時間を稼ぐ…


「マリナ様…もう少しです…正門にたどり着ければ…」


ペシエは、マリナを励ましつつ指示を出していく。


…トゥロク…間に合わないか…


もはや、ペシエの周りにはセドナを含め、軽騎兵30名、歩兵50名ほどしかいなかった。


…マリナ様だけでも…


皆の想いは同じだった。


…もう少しで、正門にたどり着く…正門の守備兵は10名程度のはず…蹴散らし、マリナ様を外へ逃がす…


「ペシエ、ダメだ…」


先頭を行くセドナがつぶやいた。セドナの言葉に、皆が正門を見ると…


「久しぶりだな、マリナ」


「チャウ伯爵、なぜここに…」


ペシエは、目を疑った。

城内にいるはずのチャウ伯爵が、正門にいる。

それも、重装騎兵100、軽騎兵200、歩兵500を従えて…


「それは、お前たちの最後がここになるとわかっていたからだ。処刑の時は、ミヒャルに任せたら…あのようなザマだ。

やはり、最後は自ら見届けぬとな。ミヒャル、遅いぞ!」


チャウ伯爵は、マリナ、ペシエ等の後方へ視線を移し叱責した。


「伯爵、申し訳ありません。思いのほか、時間を要し…」


後方から、ミヒャル率いる追撃隊が暗闇の中から現れた。


…前に、チャウ伯爵…後ろに、守備隊長ミヒャル…くっ、これではマリナ様を…


セドナは、マリナから離れないように騎馬を真横に着けた。


その時、建物の影より、マリナ達とチャウ伯爵の間に小さな影が飛び出してきた。


「やめて、マリナ様をいじめないで!」


まだ、4、5歳の女の子だった。

建物の木窓の隙間より、のぞいていた者たちは体が固まる。


…あの子…殺される…


チャウ伯爵が、女の子に近づく。


「ふっ、宗教に傾倒していくと、自分の周りが見えない、心のままに動くとどうなるか理解しようとせずに行動する。こんな幼い子までがな…」


チャウ伯爵は、腰の剣を引き抜くと大きく振り上げた。


「なっ、やめろまだ幼子だぞ!」


セドナが、叫ぶ。


周りの声など気にも留めず、チャウ伯爵の大きく振り上げた剣は、その小さな幼子に振り下ろされていく。


ガキン


「イガル、なんのつもりだ」


チャウ伯爵の剣を、幼子の面前でイガルが剣で受け止めていた。


「恐れながら申し上げます、伯爵。この子は、まだ幼子です剣も持っておりません。どうか、お慈悲を…」


イガルは、剣を反らしその幼子を抱きかかえ後ろに後ずさった。


「ふむ、そうだな」


チャウ伯爵は、剣を収めにこやかな笑顔でイガルへ近づいていく。

その笑顔に不気味なものを感じるが、イガルは伯爵が剣を収めたことで、わずかに気を抜いた。


ドガッ


チャウ伯爵は、幼子ごとイガルを蹴り飛ばした。


「うぅ…チャウ伯爵。なぜ、市民には慈愛の心で助けて頂けると…」


イガルは、腹を抑えながら立ち上がり、幼子を兵のいない建物の方へ押しやった。幼子は、泣きながら建物の奥へ消えていく。


「やはりだめだな。すべての忠誠を帝国に向けていないものは、いずれ裏切る。お前たちを皆殺しにした後は、下級市民一人残らず殲滅する」


チャウ伯爵は、ゆっくりと陣に戻り剣を抜いた。


その淡く光る剣を、モスコーフ帝国軍全兵士が見つめる。

そして、その終わりとなるであろう時を…


ペシエ、マリナ、セドナが…そして、イガルが見つめた。


その剣を見つめながら、マリナは思う。


…皆、ここまでよく頑張った…

悔いがないといえば、嘘になるけど、私たちの事は必ず誰かが語り継いでくれる

そして、その思いは…希望は…誰かが繋いでくれる…


…博影様…無事にイシュ王国領に着いた?…あなたに会えて、本当に良かった…


チャウ伯爵が、剣を上げ最後の命令を出そうとしたその時…


遠くの建物の屋根に、丸い光の輪が現れた。

その輝きは淡い輝きだが、この星の光も、月の光もない夜では異様な存在を誇っている。


そして、その光の輪がすうっと消えると…


ドガーン


大きな音がし、ミヒャル率いるモスコーフ帝国の後方の陣にもうもうと煙が立ち上り、兵の怒号が聞こえた。


…なんだ…


ミヒャルが振り返ると…


ドサッ


ミヒャルの傍らに、ちぎれた歩兵の体が降ってきた。


その肉片は、ペシエの傍らにも、チャウ伯爵の傍らにも降ってきた。


その場の全員が、時が止まったかのように、もうもうと煙が立ち上る帝国軍後方を見つめた。




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