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第5話 暴動 1


異世界召喚 116日目


イシュ王都を出発し、19日目





塔の扉をゆっくりと開ける。


城壁上の篝火が増えているが、見張りの数は変わらないようだ。

本館の入り口に2人の衛兵がいるだけで、先ほどまでとはうって変わり、城内を歩いている者は見当たらない。

城内の下級市民の暴動ということで、城まで押し寄せることはできないと考えているのだろう。

博影はアーチェリーを取り出し…本館入り口の衛兵2人を続けざまに射貫く。

2人は声を出す間もなく、頭を射抜かれ地面に倒れた。


チェルに抱えてもらい、城壁上に上がり、篝火の届かない暗闇から矢を射る。

放たれた矢は、次々と見張りの兵の頭を…胸を貫き、付近にいた5人程の見張りを倒した。

しばらくすれば、他の見張りに見つかり騒ぎになるだろう。


「イクゾ…」


チェルが、博影を見る。


「あぁ、頼むチェル」


チェルは、左腕を博影の腰に回ししっかりつかむと、博影を抱え、貴族・騎士エリアの建物の屋根へ飛び移った。

黒いマントの力で、着地の際、それほど大きな物音を立てずに屋根に降り立てた。

屋根を移動し、次々に屋根伝いに飛び移っていった。



「なに、反体制派と共謀しているわけではないのか? では、博影殿達は…」


グリナ城本館の居間に潜み、システィナと博影達と市民たちの事を確認していたイムーレ王子は、博影が暴動を起こしている市民と連携していないことに驚き、思わず声を出した。


「イムーレ王子、お静かに」


システィナが、王子をたしなめる。


「今夜、イシュ王国の捕虜の監禁場所を確認し、明日からモスコーフ帝国に、不満を募らせている騎士や市民に接触する予定だったのです。

市民の中心となっている人物や、反体制派の騎士の一部には面識がありますが…」


「博影殿達二人だけ…それでは…」


イムーレ王子の傍らに控える騎士が、驚き…つぶやく。


「いえ、反体制派と共同作戦を取れなくても、あの二人なら、十分陽動を行えます。

さすがに、勝つことは難しいと思いますが、我々がチャウ伯爵を捕虜に出来れば、交渉できます。道が出来ます」


システィナが、自分にも言い聞かせるようにイムーレ達に説明する。


「ぐっ」


小さなうめき声が上がる。

ルーナが、居間に入ってきた女中に当身を行い気絶させた。

手足を縛り、顔をはたき、チャウ伯爵の居所を聞き出す。

女中は、猿轡をかませ、端に転がしておく。


「3階の執務室、騎士が約20人いるらしい…」


中央の階段にルーナが忍び寄り、ゆっくり階段をあがる。

ルーナのハンドサインで、システィナ、イムーレ王子を含む18人が階段へ向かう。5人は、階段の左右へ隠れるように残った。




始まりは…些細なことだった。


博影が去った後の下級市民の人々が集う酒場では、時間が立つと皆酔いが回りだし、異様な熱気に包まれだした。


聖イリオスの司祭で、皆の希望の象徴たるマリナが行方不明…


城から他の宿場町や都市への移動は、現在厳重に管理されており、マリナの捜索に行くことも出来ない。

心の奥底にある不満が、頭をもたげつつあった。



ギッ


酒場の扉が開き、皮鎧を着て武装している上級市民による見回り隊5人程が入ってきた。

その姿を認めたテーブルから…扉の近くのテーブルから、まるでさざ波が広がっていくように、会話が止まる。


見回り隊5人が、カウンターへ着くころには、酒場は静まり返り、視線は、見回り隊に注がれていた。


「親父、ビール5杯だ」


そういうと、カウンターの客を無理やり追い払い、椅子に座り、前の客が残したつまみをほおばる。

男たちは、カウンターに差し出されたビールを一気に飲み干し、2杯目を注文すると…


「やっぱ、泥臭いエリアのビールはまずいわ」


30歳半ばに見える、色黒の大きな男は大声で仲間に話し出した。


「泥臭いエリアの兵は、使えね~な。南部前線も、こんな奴らを連れて行かなきゃ、砦の一つや二つ落とせたのによぉ~」


「まぁ、モスコーフ帝国軍に入ってますがね。

所詮、戦わずして帝国に降伏し、命乞いした国の人間ですから、役に立つ方がおかしい…いや、生きている方がおかしいやつらでさぁ~」


隣に座る小柄な男が、相槌をうつ。


「そうだったな、俺なら戦わずして命乞いなんて、みっともなくて出来ねーわ!」


色黒の男は、二杯目も一気に飲み干しさらに注文した。

静まり返った酒場に、男たちの声が隅々まで通る。

テーブルに座る下級市民たちは、ただ見回りの男たちを睨むことしかできなかった。


「そういえば、あの女…なんていいましたかねぇ~」


小柄な男が、カウンター席の市民客を値踏みするように見る。


「あぁ、イリオス教で初の20代の司祭だったっけかぁ~なんて言ったっけかなぁ~」


「隊長、たしか…マリナとかいう名でした。

おっぱい大きくて、尻もいいし…ありゃぁー、爺の大司教達を色仕掛けで落として司祭になったとの、噂ですよ」


カウンター端に座る。若い見回り兵がニヤニヤと口元を緩ませる。


「でょ~隊長、俺はああいう澄ましている女を無理やり脱がすのが好きでさぁ~嫌がるしぐさがなんとも…」


…あっはっはっ…兄貴趣味わりーなぁ~…


などと、仲間が小柄な男をはやし立てる。


バシャッ…


カウンターに座る白髪頭の年寄りが、カウンターに座る小柄な男の頭に、コップのビールを浴びせた。

酒場は、静まり返った。


「わしらの事は、なにを言っても構わん。しかし…マリナ様を悪く言うことは許さん!」


「なにしやがんだ、てめぇー」


若い男は立ち、腰の剣に手をかけた。


「まぁ、まてまて…」


頭にビールをかけられ、懐の布で顔を拭きながら小柄な男が立った。


「腰抜けのロムニア市民にしちゃぁ~気概があるじゃねーか。ただ俺たちゃ、お前みたいなバカを待っていたのさ」


というと、男は腰の剣を抜き、白髪頭の年寄りの首をはねた。

首から血しぶきが上がり、酒場の床を染めていく。


…キャー…きっきさまぁー…おい、ほかのやつらを呼んで来い…


下級市民たちは憤り、見回り隊の男たちに暴言を吐き、皿を投げにじり寄った、


「単純なやつらだ、俺たち褒美たんまりもらえそうだな…」


カウンターの見回り隊の男たちは、みな剣を抜き、近くの者達に切りかかっていった。


しかし…下級市民は、軍事行動以外で、剣を所持し外出することは許されていない。

下級市民たちは、テーブルを立てコップや皿を投げ、短剣で応戦するが、武装をした見回り兵5人の相手にはならなかった。

10人程切り伏せた後、見回り隊の兵は酒場から出る。

酒場外には、家から剣を持ち出してきた下級市民が数人集まってきていた。


「よし、いけ、ミヒャル殿に報告してこい」


一人伝令に走った。


剣を持つ下級市民と、見回り隊4人が打ち合う。

その剣戟の音を聞きつけ、他の見回り隊や下級市民たちが集まってきた。

その様は…もはや、酒の席での殺傷沙汰程度ではなく、歩兵同士の戦のようになってきた。



「なに、剣でやりあっている。互いに死傷者も出ているというのか!」


思わず、グラド・ペシエは席を立ち大声を出す。椅子が後ろに倒れる。


グラド・ペシエら元ロムニア公国の騎士は、下級騎士の身分に落とされ、又、住まいも貴族・騎士エリアを出され、下級市民が暮らすエリア内に居をあてがわれていた。


「はっ、最初は酒場での些細ないざこざだったとのことですが、見回り隊の集まりも早く、100人は駆けつけていると思われます」


「100…だと…はやい、酒場のいざこざにしてはあまりにも早すぎる」


ペシエは、驚き拳を握る。


「騎士ペシエ、これは…罠にかかったかと…」


椅子に座り、いまだワインを飲む騎士:トゥロク・クティ


「トゥロク、おまえよく平然と…」


と、ペシエが言いかけた時…

扉が開き、隣の部屋から女騎士を一人連れ、マリナが出てきた。


「騎士ペシエ、なにかあったのですか…」


ドン


正面扉に通じる扉が、激しく開かれ一人の騎士が急ぎ入ってきた。


「ペシエ、敵の兵は増えている約200だ、騎士も数人出ている。指揮を執っているようだ。

どうする? このままでは、下級市民エリアの暴動鎮圧の名分で何をされるか…」


その騎士は、荒い呼吸のまま一気に報告した。


「くっ、このままでは市民が…」


「騎士ペシエ、市民を救いましょう!」


マリナがまっすぐペシエを見つめ、そしてその場にいる騎士たち一人一人の目を見つめていく。

トゥロクが立つ。


「ペシエ、行くしかないでしょう。

しかし、これはおそらく守備隊長騎士ミヒャルの罠かと…反抗的な市民をあぶりだし殺すだけなら、南部前線に我々や、下級市民兵が派遣されている間に行えばよいこと。

それを、我々騎士や下級市民兵…いやロムニア市民兵が帰ってきてから…

ロムニア騎士200、ロムニア市民兵1000、もしかすると下級市民まで殲滅するつもりでしょう。

私に騎兵50騎兵ください。チャウ伯爵を捕えに行きます。

この混乱に乗じて、チャウ伯爵を捕えることが出来れば、交渉できるかもしれません」


「しかし、50騎で貴族・騎士エリアの正門と、グリナ正門を突破できるのか?」


「ペシエ…そのために、この暴動に多くの騎士が必要だと思わせるくらい、あなた方に、頑張ってもらわなければなりません。

そうすれば、二つの正門…特に、貴族・騎士エリアの正門は手薄になるでしょう」


トゥロクは、壁に立てかけていた剣を取った。


「くっ、迷っている暇はないな。トゥロク、相分かった、頼んだぞ」


トゥロクは、剣を胸元で構え扉から出ていく。


「セドナ、マリナ様を頼む。もしもの場合は、なんとしてもこのグリナから脱出してくれ」


ペシエは、マリナの傍らに控える女騎士にマリナの事を頼むと扉から出ていった。2人のペシエ家に報告してきた騎士も続く。



「あぁ…とうとうこのような日が…イリオスの神よ。どうか、あの者達に神のご加護を…」


マリナは、壁に飾ってあるイリオスの神に跪き祈った。



…では、どうする? どのような思いがあっても、死んでしまえば何も残らない。

理想だけでは、なにも変わらないと思うよ…それとも、祈れば何か変わるとでも?…


博影のあの時の言葉が、心に刺さる。


…たしかに、私の力ではなにも変わらない…何も出来ない…


「でも…イリオスの神よ…

怯えながら生きて、悲しみながら生きて、希望を持たずに生きてなんになりましょう。

それで生きているといえるのでしょうか?

私は、一人の人に希望を与えられました。次は…私が…」


マリナは、目を閉じイリオスの神に祈り続けた。




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