第4話 グリナ城内へ潜入 2
異世界召喚 116日目
イシュ王都を出発し、19日目
チャウ伯爵がいるであろう本館が若干慌ただしくなる。
本館、正面扉より完全武装した騎士が20名ほど急ぎ出てき、正門より右側にある馬屋へ向かう。
しばらくすると馬には鎧をつけず、急ぎ、城・正門から出ていった。
本館のあちこちの木窓が、少し持ち上がり中から光がこぼれ出す。
本館、正面扉より、数人の者が馬屋や隣の建物など…あちこちに出入りしだした。
館の者はすべて起きだしてきたのだろう。
…こんな時にまずいな…
出来る事なら城の者が寝静まっているときに、事を済ませたかったのだが…
本館より、さらに30人程の騎士が出てき、馬に乗り正門から出ていく。
城の正門外の貴族・騎士エリアも慌ただしくなってきたようだ。
動くタイミングを逃し、塔の裏に隠れていると、腰に刀を差しただけの、見回りと思われる者が近づいてきた。
塔に向かってくる。
塔の前を過ぎ、潜んでいる博影達の横を通り過ぎた時、チェルが、後ろより忍び寄り背中の2本の触角でその男の背中に電気をあて痺れさせる。
「ぎゃっ…」
小さくうめいた男は、その場に崩れ落ちチェルの小脇に抱えられ、塔の裏に連れてこられた。
「チェル、うまい」
ルーナが、思わずチェルの頭をなでる。
「チェル、よくやった」
博影も、思わず褒めた。
男の両手を後ろで縛り、男の頬をはたき目を覚まさせる。
「うっ…なんだ、お前たちは!」
男が、気づき声を上げようとした。システィナが、男の口をふさぐ。
目の前に、わずかに光る短剣を突き付けた。
「死にたければ、騒げ!」
男の首筋に、刃をあてる。男は全身が強張り…わずかに震えだした。
「おい、聞きたいことがある。答える気はあるか…」
と、男に聞きながら男の首筋を傷つけない程度で、短剣の刃を当てたまま引く。
…ひっ…
男は、うめき…顔を背け、そして、なんども頷いた。
「そうか…もし、偽った場合…楽に死ねると思うなよ。すこしずつ肉を…削るからな…」
ルピア城でもそうだったが、こういった時のシスティナの落ち着きよう、事の進めようをみると、傭兵時代の事は、あまり聞きたくなくなる。
敵の尋問などにも、かなり慣れているようだ。
「この城に、イシュ王国の捕虜がいるな?」
システィナは、男の目から動揺を感じる。しかし、男が動かない…男の首筋の皮を一枚切る。
「おい、我らはそこに案内してほしいだけだ、別にお前から聞いたとは喋らない…」
首から流れる血を短剣につけ、その血が流れる短剣の刃先を、男の目の前にゆっくりと差し出した。
男の口を塞いでいた手をゆっくりと外した。
「あっ…あの、この奥の塔の…地下一階が牢に…そこに…」
男は、目の前の刃先から目をそらせないまま答えた。
「よし、案内しろ」
男を立たせ、夜目が聞くチェルの合図で奥の塔の裏へ走る。そして、塔の正面に周り扉をあけ中へ入った。
扉を閉める。
「案内しろ」
男を先頭に進んでいく。
柱のところどころに明かりが灯してあり、なんとか中が見える。
左右には、多くの食料が積んであるようだ。奥に階段があり、降りていく。
「牢番は何人だ?」
「たぶん、2人…」
システィナは、左手で男の腰ひもを握り、後ろから右手で短剣を首筋にあてたまま進んでいく。
階段を10段ほど降りると、明るい部屋が見えてきた。
男の両腕を縛っていたひもをほどき…
「わかっているな…おかしな真似をすると…」
システィナが、再度短剣で脅し男を先に行かせる。後を…剣を外したチェルがついていく。
「よう…差し入れ持ってきたぞ」
男の声が若干裏返る。
「気が利くな。上はなにかあったのか? 騒がしいようだが?」
と聞く牢番に、返事が出来ないまま男は近づいていき…
「助けてくれ、曲者だ!」
と叫ぶと、駆けだした。
しかし、チェルが男を飛び越え牢番2人に襲い掛かり、その触角を使い電撃を浴びせ2人を気絶させた。
「ひっ…ひー助けてくれ」
男は、壁際に後ずさり…必死に命乞いをしたが…システィナに一刀のもと切り捨てられた。
気絶している男2人の手足を縛り奥へ進む。
「ここの地下牢は大きいな…」
と、博影が驚嘆すると…
「あぁ…、これは本館の下まで続いているな」
システィナが、左右の壁の造りをやけにじっくりと見ながら、ところどころ剣で壁を差しながら、後ろから博影に答えた。
奥に、牢屋が4部屋あった。中に人がいるようだ。
「おい、イシュ王国の者か?」
システィナが、手前の牢屋の中へ声をかける。
「…お前たちは?…」
奥から声がする。
「ダペス家の者だ。救出にきた」
「ありがたい、我々はイシュ王国の騎士だ。すまぬ、奥の牢にも仲間がいるのだ、頼む」
奥から4人の男たちが、足を引きずりながら出てきた。
「後ろに下がっていてくれ」
博影は、黒剣を取り出し牢の格子を切る。
「すごいな、聖石の加護をつけている牢を壊すとは…」
牢から出てきた男たちは…薄い囚人服を着せられ、かなり汚れていた。
奥の3つの牢も壊し、中の者達を救出する。
幸いに歩けないものはいないが、皆、あちこちに大きな傷を負っていた。
その傷は、適切な治療がなされていないため体に大きな影響を及ぼしている。
全員で、22人。
皆を一か所に集め、魔法陣を出現させ傷を治療する。
特に深手を負っている個所は、筋が損傷し十分な力を発揮できていないので、筋を集中的に治療し活性化させた。
そして、治療が終わると次に、長い牢屋生活で硬くなっている全身の関節や筋を活性化させる。
牢屋に閉じ込められる前のような力は発揮できないが、この者達にも戦ってもらわねば…ここからは、脱出できない。
皆の体を治療し、体を動けるようにしたことで、先ほどまでのいぶかしがる目の光はなくなったが、それでもまだ信用している目ではなかった。
「君は…クルコ家の人質の…」
中央にいた男が、ルーナを見かけ口にする。ルーナが、その言葉を口にした者へ目を向ける。
「あなたは…イムーレ王子!」
「私の名がわかるか…皆、この者達はダペス家の者達だ。その女騎士に、私は覚えがある。しかし、貴公達はよくここまで…感謝する」
イムーレ王子は、頭を下げた。
「王子、頭をお上げください。とにかくまずは、脱出しましょう」
博影は、黒の術袋の中から、22人分の聖石がはめ込んである甲冑と剣、槍を取り出し王子たちに渡した。
「これは予定変更だな…」
思わず博影がつぶやく。
だが、今夜は捕虜の居場所を探ることが目的だったのだが…もはや、捕虜を救出すること自体が予定から外れている。
もちろん救出できたことは、うれしい予定外ではあるが…
もはや、見られることを気にしている場合ではない。
チェルにも促し、黒の甲冑をつける。システィナにも、右手には黒の小手をつけさせる。
イシュ王国の騎士たちは、博影達が黒の武具を使用していることに若干驚くが…
「では、確認をします。
今から私と、この子は2人で本館に突入し、チャウ伯爵を捕虜にします。
イムーレ王子は、部下の方々と共に城内の馬屋の馬に乗り、東門から外へ脱出してください」
システィナと、ルーナへ振り返り…
「2人とも、イムーレ王子を護衛し城外に出たらセベリを目指してくれ」
「博影とチェルはどうするのだ?」
システィナが、静かに聞く。
「俺たちは、チャウ伯爵を人質に取る。そして、暴動を起こした市民と一部の騎士とともに、モスコーフ帝国軍に、この城塞都市グリナからの撤退を交渉する」
…無謀だ…たった2人で出来るわけがない…
システィナは、博影の言葉にいらだつ。
しかし、今のこの現状…
博影の言うことはもっともだった。結局、博影とチェルがこの町の暴動に加担すれば、かなり大きな騒ぎとなり、城外に出れる可能性は高くなるし、もしチャウ伯爵を人質に取れれば、交渉の時間等も含め、かなりの時間稼ぎになり、追っ手もすぐには、出せない。
死んだと考えられている、イムーレ王子が生きていた。そのことを、すべてにおいて優先せねばならないのだ。
ルーナも、痛いほどわかっている。唇が、震えている…
「博影、わかった。博影…チェル…必ず、後で迎えに行く!」
システィナが立ち、ルーナも続く。
イムーレ王子たち22人も一斉に立った。
「博影殿。命がけでここまで救出に来てくれて感謝している。だが、我々はその案は飲めない」
イムーレ王子は、階段へ向かう。一瞬、思わぬ展開に遅れる…
「お待ちください王子。あなたがイシュ王国へ帰還できれば、この戦盛り返せる。あなたは、絶対に王都に帰還しなければいけないのです」
博影は、イムーレ王子の前に立った。
「博影殿。私は騎士の矜持として…一国の…イシュ王国の王子として、命をかけて乗り込んできてくれた者を、見捨てて…囮にして、逃げるなどということはできない!」
イムーレ王子の言葉に、後ろに控える騎士たちも何も言わず従っている。
…ここまで来て…どうする…
博影は、一瞬思い悩む。
「博影殿。我らは先ほど特殊な力で治療してもらいからだは動く。
しかし長く幽閉されていた為、帝国騎士達と正面から打ち合えるか…というと、体力が落ちている。長くはもたぬであろう。
しかし、本館に潜入し少数ずつ敵を打ち取り、チャウ伯爵を捕縛する任であれば出来る。
おそらく、都市の暴動鎮圧に城内の騎士も向かわせているだろう。
我々だけで、大丈夫だ。
博影殿は、暴動を起こしている者達の味方となり帝国騎士たちと戦い。チャウ伯爵が、撤退することを受け入れるほど勝利してきてほしい」
イムーレ王子は、まっすぐ博影を見つめた。
…くっ、ここまできて…
「わかりました王子。
チャウ伯爵の方、お任せします。ただ、伯爵をとらえられなかった場合、我々と合流せずに、とにかく、城を出てセベリへ向かってください。
それと、シスとルーナはそちらへつけます」
博影は、システィナとルーナへ向かい2人を抱き寄せる。
「シス、ルーナ。イムーレ王子を頼む。俺と、チェルは必ずマリナを救う。後で合流する」
「わかった…」
シスとルーナは、博影の言葉にうなずいた。
そして、階段を上ろうとした騎士たちを呼び止める。
「みな、こちらへ」
システィナに促されて、牢番の詰め所に入る。
そして、システィナが、詰め所の壁にかけてある人の背丈ほどもある浮彫細工の板に手をかけ横にずらすと…
人一人が通れそうな横穴があいていた。
「やはりな。本館の建物の下付近まで伸びていたから、脱出用の通路があると思っていた」
システィナは、ルピア城でもそうだったが、城の抜け道や細工等に詳しい。
「王子、お待ちください。通路を調べてきます」
システィナと、ルーナが通路に入っていった。10分ほどで帰ってくる。
「一階の客間に通じています」
「では、イムーレ王子無理をなさらないように!
シス、ルーナ頼んだ。チェル、行くぞ」
博影とチェルは、元来た階段へ向かう。
イムーレ王子たち22人は、システィナを先頭に一人ずつ通路奥へ入っていく。
ルーナは、博影の後姿を見送り…最後に、通路の奥へ消えていった…




