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第3話 グリナ城内へ潜入 1


異世界召喚 116日目


イシュ王都を出発し、19日目





システィナと、ルーナはすやすやと寝息を立てている。

まだ、外は夕刻だが2人は、娼婦の真似をして正門を通ることに、かなり精神的に疲労したのだろう。

2人を起こさないように、ベッドから起き上がり毛布を2人の首筋までかけ…


…流れに任せたとはいえ…シスとルーナの事を沙耶になんと説明しようか…

…沙耶…元気にしてるかな?…ふっと沙耶の事を考え、寂しさが心をしめるが…



「チェル、ちょっと早いが酒場をまわって情報収集してくる。2人を頼む」


干し肉を十分に食べ、満足し傍らのベッド上で丸くなっているチェルに声をかけ、宿の裏にある酒場に向かった。


結局、システィナと、ルーナは…

ただ、本当に検査と称しあちこち体を触られ、鳥肌が立ち、気色の悪い感覚が残っていたので、その気持ち悪い場所を博影になでてほしかっただけだった。

一通り、マッサージのように行うと2人とも、納得し安心して眠りについた。



酒場の扉をくぐる。


中には、4~5人、市民と思われる客がいるだけだった。

カウンターに腰かけ、ワインとチーズを頼む。ワインを飲みながら、店主と話をする。


今は、人は少ないが、今日は、南方へ進駐していた部隊が先ほど帰ってきたので、夜は忙しくなるだろうとの事だった。

南方へ進駐していた部隊は、騎兵1000人、歩兵500人との話…

歩兵が少ないのは、今回の戦は相手の出方の確認や、地形の情報収集の為だろうと店主は言っていた。

騎士は900人と思っていたが、これで、1900人となった。


…どうしようもないな…


都市の中で、市民を、女や子供を巻き込む火計を使えるわけがない…たとえ人質を救出しても逃げることさえ困難な状況になっていた。


店主にお金を払い、貴族・騎士エリアからは離れている酒場へとハシゴする。

扉をくぐると…そこは、座るところもないほど人が集まっていた。


奥へ進み、カウンターが2席空いていたので座り、ここでもワインと、チーズを頼んだ。

隣の席に座る商人と、とりとめのない話をしながら聞き耳をたてると…


「マリナ様は、ご無事なのか? マリナ様は?」


後方の丸テーブル横に立つ市民兵と思われる者は、かなり酒に酔い興奮しているようだ。


「落ち着け、座れ。大丈夫だ、おれはあの時見た、マリナ様がいよいよ処刑されようとした時、太陽から黒き人が現れ、マリナ様を縛る綱を切り、抱えて空へ飛んでいくところを!」


男が、マリナの処刑の時の話をしだすと、あれほどうるさかった酒場が静まり返った。

みな、男の話に耳を傾けている。


「人が、空を飛ぶなど…」


興奮している男は、信じられないと首をふる。


「信じられんのも、無理はない。だが、約1万以上の市民の、いやモスコーフ帝国軍の前で、その黒き人は、マリナ様を抱えて空を飛んだのだ」


冷静に話していた男も、徐々に興奮してきた。


「そいつの言っていることは本当だ…俺も見た」


…俺も…俺も…


と、周りがざわつく。


「その黒き人は、何者なのだ?」


立って興奮していた男は、椅子に座りビールを飲み干した。


「ギュラー砦で、モスコーフ帝国軍6000人を皆殺しにした。黒騎士ではないかと噂されている。黒騎士が…スコル神ではないかと…」


男は、落ち着きを取り戻し、ビールを飲み干し、店主に2杯注文した。


「結果として、我々は助かっているかもしれないが…しかし…黒い甲冑、黒い剣とは…不吉すぎる。マリナ様、どうかご無事で…」


男は、テーブルで両手を合わせマリナの無事を祈った。


カウンターの端にいた、吟遊詩人が皆に聞こえるように声を上げた。


「黒騎士は、公都ルピアを落とした、歌を聞きたくないか?」


吟遊詩人の足元に、数多くの銅貨が投げられた。


吟遊詩人は、小さなギターのような楽器を奏でながら、歌いだした。


ブスタ大平原での戦いを歌う…


皆は固唾を飲んで聞く…


黒騎士が、テイザ川を濁流に変え、

5000のルピア騎兵、モスコーフ帝国騎兵たちが飲み込まれる…

驚きの声があがる。


公都ルピアで、黒騎士が都市を炎で覆い、5000のルピア騎士、モスコーフ騎士が灰と化す…

感嘆の声が上がっていた酒場に…静寂の間が訪れた。

皆が押し黙る中…一人の市民が声を絞る。


「皆殺しの黒騎士…悪魔なのでは…」


先ほどの喧騒とは異なり、みなテーブルごとに小声で話し…酒場は異様な雰囲気に包まれていった。


カウンターで、聞いていた博影は…初めて市民たちが、どのように自分の戦いの話をしているか聞き…

ただ…時が止まったように…なにも考えられなくなった。胸が苦しい…



「悪魔か…私はそうは思いませんがね」


隣の商人が、ビールを飲み干しワインを注文した。


「人の噂は、様々な人の感情が混じり伝えられていく、本当の事は…自分で考え判断していくことが大事ですよ」


商人は、まるで自分の子に話すように博影に話した。


「公都ルピアでの戦では、王や貴族は皆逃げてしまい、妾と妾の子が残されていたと聞きます。

黒騎士は、どうやらその子らは殺していないと聞くし、又、残っていた市民も殺されず、奴隷にもされていないと…

それが、本当なら戦では、兵にとっては、悪魔かもしれませんが、民にとっては、慈愛の神なのかもしれません」


ワインがテーブルに置かれ、商人は干し肉をつまみながらワインを飲む。


「商人殿、詳しいのですね」


博影もワインを飲みながら、商人へつまみのチーズをすすめた。


「公都ルピアは、戦のあとすぐに商人の出入りが許されていますから、それに私たち商人は、戦の傍であっても、各々が判断し商売しています。

情報が正しくないと、命とりですからね」


商人は、すすめられたチーズを食べながら、博影のワインを注文した。


「この都市の雰囲気はどうですか? 商売しやすいですか?」



しばし、沈黙が流れる。



「そうですね。モスコーフ帝国の南部前線の一つですから、食料、武具、騎馬…と、様々なものを買っていただけますから、商売的に良いですね。

ただ、チャウ伯爵はお値段に厳しい方ですから、儲けは少ないですけどね」


商人は、困った、困ったとおどけて見せた。


「まぁ、あなたは、こういう話より、この都市の雰囲気を聞きたいのでしょう?

20年ほど前は、ロムニア公国と呼ばれており、ロムニア侯爵が治めていました。モスコーフ帝国が南下してくると、ロムニア侯爵は戦わず国を明け渡しました。

まぁ、戦っても1年…持たなかったでしょうから、分相応ではありますねぇ~

王や貴族は、モスコーフ帝国へ連れていかれ、騎士は、すべて下級騎士に落とされました。

市民は、奴隷や農奴にはされませんでしたが、下級市民という聞きなれない身分にされ、貧しい暮らしをおくらねばならなくなりました。

チャウ伯爵は、身分の低い者に対して非常に厳しいお方です。

又、元ロムニア公国の騎士や市民は、戦わずして今の境遇に甘んじています。

不満もたまりますよね」


「なるほど、そのような過去があるのですね。この城塞都市グリナには…他になにか、情報がありますか?」


博影は、ロムニアという言葉を使わず都市をグリナと呼ぶ。


「そうですね。ドウイ川上流の宿場町からはいつも通りの荷が流れているようなのですか、宿場町セベリからの荷が流れてこない。

ちょっと嫌な気がしますが、それぐらいですかね」


博影は、テーブルに置かれたワインを一気に飲み干し…


「いろいろとお話が聞けて楽しかったです。ありがとうございました」


商人に握手を求め、店主に商人のお代も含めた銅貨を払い店を後にした。


少し酔ったかな…と思いながら歩く。たしかに商人に言われて思う。

貴族・騎士エリアに近い都市側と遠い外壁側の都市では、酒場や通りの雰囲気が異なっている。

下級市民側が、貧しそうに見える…事はないのだが、行き来が少ないように思われる。

生活が、まじりあっていないように思われた。


宿につき、部屋に戻ると、システィナ、ルーナが食事の用意をして待っていてくれた。

4人で食事をしながら、今後の事を相談する。


「嫌だろうけど…酒場で、騎士たちから捕虜の事を聞き出すのが、一番手っ取り早いと思うけど…」


と、博影が話すと…


「ヒロカゲ…ケダモノ…」


チェルが、博影に目線を合わせずボソッとつぶやく。システィナと、ルーナはそっぽを向いている。


「手っ取り早いと思うけど、シスやルーナに嫌な思いをさせたくないしな…いっそのこと、夜中に城に忍び込んでみるか…」


と、提案するが…シスもルーナも目を合わせてくれない。


「ヤル…オモシロソウ…」


チェルが乗り気になった。


「わかった、潜入しよう」


システィア、ルーナも同意した。


「では、午前0時を過ぎてから行こう」


まだ、午後8時過ぎ、サウナで汗を流しベッドで仮眠をとることにした。



「博影…そろそろだ…」


システィナの声で目を覚ます。

ベッドから起き上がると、3人とも用意が出来ていた。

黒い皮鎧をつけ、黒のマントを取り出す。

この黒のマントも、魔力を必要とするので、チェルはつけられるが、システィナとルーナは、つけることが出来ない。

2人には、普通の黒のマントを渡した。


木窓をあげ、チェルに屋根に上ってもらいロープを降ろさせる。

ロープにつかまり、一人ずつ屋根に上る。

かなり雲が出ているようだ、月は雲に隠れ雲の一部分を照らしている。

さすがに通りを歩いてる者はいないが、遠くに見える下級市民エリアからはまだ、人の声がわずかに聞こえてくる。

まだ、酒場で飲んでいる者が多いのだろう。



屋根伝いに、貴族・騎士エリアの城壁へ向かう。

外壁と異なり、内側の城壁は3階建ての建物ほどの高さしかない。

チェルに手伝ってもらい、一人ずつ城壁上に飛び移り端に身を寄せる。

全員揃うと、博影はシス、チェルはルーナを抱え、城壁沿いに黒いマントの力を使い、ゆっくりと降りていく。

どうやら、門には多くの衛兵を置いているが、マリナを支持する下級市民が相手と考えているのだろう。

城壁上の衛兵は少なく、貴族・騎士エリアの通りには、見回りの衛兵は見当たらない。

月の出ていない暗闇を利用し、4人は城へ向かった。



なんなく、城の城壁下へたどり着く。

宿を出て、ここまで約半時…特に問題がなくこの速さで進めたのは、チェルの能力が大きかった。

音、におい…などを把握する能力がかなり鋭く、チェルを先頭に進むと、博影達3人は、周りへの注意をそれ程しなくてよいので、精神的な疲労は少なかった。


チェルが、壁を飛び跳ねるように登っていき…しばらくすると戻ってきた。


「ダイジョブダ…」


先ほどと同じように、一人ずつチェルに運んでもらい城へ潜入する。


…城の基本的な造りが同じであるならば…捕虜はあの右横の塔の地下だが…


暗闇の中、城門から見て右横にある見張り台を兼ねた塔へ向かう。その時…


城の城門外が騒がしくなり、城門が開き、騎馬が一騎駆けこんできた。

とっさに、博影達は塔の後ろへ隠れ様子を見る。

すると騎兵は、正面の大きな建物の前で騎馬を降り、大きな建物に入ろうとすると…衛兵に止められた。


「何ようだ!」


「急ぎである、チャウ伯爵へお取次ぎを!」


騎兵は、今にも扉をあけて建物内に入ろうとするが…


「チャウ伯爵は、就寝中だ。無礼であるぞ!」


衛兵は、扉の前から動こうとしない。


「下級市民エリアで、暴動が起こった。数が多い、見回りの兵だけでは抑えられぬ。急ぎ、伯爵の指示が必要なのだ、わかったら通せ!」


騎士は、乱暴に衛兵をどかし、扉を開け入っていった。




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