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偶然という名の必然  作者: まゆぽよ
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 コウは自分の家へ帰っていた。ワンルームの小さい部屋。一晩ぐっすり休むと、体の方はかなり全快に近いように思えた。ねんざしていた手首をクキクキと前後に折り曲げてみる。「全然痛くないし。俺ってすごくね?」そう独り言で自画自賛しながら、何故かアミが言った言葉を思い出した。『化け物』

 うーん、もしかしてそうなのかもな。と馬鹿な事を考えつつアミやセナの事を思い出した。…あいつら今頃どうしてるだろう。忘れてって言われてもなぁ。『コウは関係ない』か…まあ、そうなんだけど…。

 コウは何故かセナの言ったこの言葉を思い出す度、少し寂しい気持ちになった。

 にしても強かったな、あいつら。俺、自分では強い方だと思ってたのに、大きな勘違いだった。よしっ!この夏休み、鍛えなおしてみるか。なんか、悔しいじゃないか。計画変更!自転車の旅はお預けだ。

 そう決心して顔をあげると、玄関の方で音がした。目をやると玄関扉の受け口の壊れた新聞受けから何か紙が投げ込まれて来て、靴箱の下の隙間へ半分滑り込んだ。多分何かのチラシだ。オートロックなんて物は無く誰でも自由に入れるので、勝手にチラシが投げ込まれるのはよくある事だった。コウは玄関へ行き、靴箱の下からさっきの紙を引っ張り出した。美容院の案内だ。すぐにクシャっと丸める。ふと靴箱の下からもう一枚紙が出て来ているのに気付いた。おそらく以前投げ込まれて靴箱の下に滑り込んでしまっていたのが今一緒に出て来たのだろう。コウは引っ張りだして、チラシに書いてある内容を見る。

 【格闘系急募!強くなりたい方】…?なんだこれ?

 興味をそそられて、チラシを隅々まで見る。

 【腕に自信のある方募集。腕に更に磨きをかけつつ、バイト代も手に入ります。年齢不問。まずはご連絡下さい。】後は、電話番号と住所、炎のようなマークが記されていた。

 これ、いつ投げ込まれたんだろ?なんかかなり怪しげだけどな。

 何故か炎のようなマークが目に付く。

 電話してみるか?丁度鍛えなおそうと思った所だし、プラス、夏休みのバイトになれば更に良いしな。そう思って連絡先を見る。住所が目に入る。

 あれ?なんだここ、すぐ近くっぽい。だったら、様子見がてら直接行ってみるか。



 拓未(タクミ)は今、火の本家の留守を任されて居た。二十六歳。切れ長な目の端整な顔立ちで、キツイ印象を与えてもおかしく無いはずなのだが、厳しくはあるが穏やかでやさしい、そんな拓未の性格がそのまま表に現れていた。留守を任されるには若い。が、今本家に残っている弟子の中では一番年上だった。もっとも留守と言っても、今は老師の言うままに、バイトに募集して来た者を訓練し、そこそこ力を付けさせて老師の所へ送り出すだけだった。火の、元からの弟子達はもうほぼ居なくなっていた。先の長が亡くなり、レツも死に、アミが消え、訓練を受けた事すら無いまだ幼いシンが新しい長となり、老師がおかしな事をやり始め…みんな火を見限って出て行ったと言うのが正しいだろう。老師のしている事は拓未にも理解し難かった。最初は、老師の事だ、きっと何か考えがあっての事に違いないと思ったが、今はもう不信感しか無かった。



「入りますよ」拓未は小さい声でそう言って、自分の部屋へ入って行った。

「もう起きても大丈夫ですか?」そこには、アミの弟、シンが居た。パジャマ姿で何をするでもなく机の前に座っていた。アミのような鋭さは全く無いが、姉弟だけあって、アミと良く似た顔をしている。まだ十二歳。アミとは6つ歳が離れていた。

「うん」顔色は良くなってはいるが、元気は無さそうな様子だ。自分でここへ戻ってきた時には体調を崩して熱を出していた。やっと回復してきた所だった。

「食事ですよ。」拓未は食事を載せたお盆を机に置いた。

「うん…ありがとう」シンはそうは言ったが、食べようとする気配は無かった。

「この部屋からはあまり出ないで下さいね。まだ他に数名残ってますので」シン君が居る事がバレた所で、もうあまり問題無いとは思うが。と、そう思いつつも一応念押しした。

「うん…さっき、竜が遊びに来たんだ。そこから顔出してくれた。」シンは窓を指して少し元気そうに言う。シンも竜王丸の事はかわいがっていた。

「あ。ハハッ。竜王丸は良くそこから顔出すんですよ。シン君に会えて喜んでたでしょうね」本当は『長』と呼ぶべきなのだが、拓未はそんな気には全くなれなかった。

「僕…どうしたら良い?」シンはポツリと呟くように言った。

 拓未は答えられなかった。私はどうしたら良いのか。拓未自身も同じ事を思っていた。

 シンの顔は食事の方を向いてはいたが、一向に手をつけようとはしない。

「老じいの言った事は嘘?アミ…姉さんは、兄さんを殺して無いの?」

 シンは老師の事を老じいと呼んでいた。言葉を発し始めた頃、皆が老師と呼ぶのを真似たのが『老じい』になってしまったのが始まりだった。シンがそう呼ぶたび老師も笑って老じいで構わないと言うものだからシンにとっては老じいのまま定着してしまったのだ。

「老じいは、姉さんが殺したって…姉さんは老じいが殺したって…どっちが本当?僕、わからない」シンはとても辛そうに見えた。

 最初は拓未も今のシンと同じように思い悩んでいた。でも今は、老師がやったに違いないと、そう思うようになっていた。老師は、ここを、火を壊そうとしている。実際壊れていっている。でなければ、老師は狂ってしまったに違いない。…狂ってしまった。その方がまだマシだと、拓未はそう思っていた。あの尊敬してやまなかった老師が故意に火を潰しにかかっているなどと考えたくもなかった。まだここに残っている数名の弟子も行き先が決まり次第出て行くつもりだ。こちらから連絡は何度かしているが、老師からは電話一本よこさない。あのショウからの電話だけ。ニュースで黒い集団の悪い噂も流れている。そんな中ここを出る決意をして、どうして咎められようか。後、残る弟子は、老師が連れて行ったほんの数名のまだ年若い弟子達だけ。ショウは元気にしてると言っていたが…。まだ善悪の判断も良くつかない年若い弟子達、老師の言いなりだろう。大丈夫だろうか。

「今はあまり考え過ぎないで。また熱がぶり返したら大変です。ちゃんと食べて早く元気になって下さいよ。」拓未は笑顔でそう言った。

「うん…」シンは気乗りしない様子で食事に手を伸ばした。



 シンは生まれつき心臓が弱かった。激しい運動さえしなければ日常生活に支障は無いと言われていたが、火の流派の長の息子として生まれながら、その制限は辛いものだった。

母は、シンがまだ小さい頃に亡くなっていた。とてもやさしい人だった。と、母を知る人は皆そう言う。シンには母の記憶がほとんど無い。母の顔すらも、写真を見て覚えているのか、実際の記憶として覚えているのか、シン自身もうわからなくなっていた。父もシンが幼い頃から病気で伏せりがちになり、あまり相手をして貰った記憶がない。もっとも病気になる前も、シンの相手をしてくれていた訳では無かった。長としては仕方のない事だったとも言えるが、レツやアミに稽古をつける事の方が優先された。その為、父がシンに割いてくれた時間は本当に極わずかだった。訓練の出来ないシンは、当然、内弟子達との交流も少なく、家ではいつも一人取り残されたようなそんな寂しい気持ちで居た。老師は、そんなシンに稽古をつけてくれた唯一の人だった。稽古と言っても、まだほんの幼い頃の遊びに過ぎなかったが、それでもシンは本当に嬉しかった。



 ここか。でかそうな家だな。コウはチラシに書いてある住所を見てやってきた。

 コウはインターホンを鳴らした。門の向こうから犬がワンワンほえる声が聞こえる。

「はい」インターホンから聞こえた声は若そうな男の声だった。

「あ、あの、俺、チラシを見て」

「ああ…」拓未はバイト希望者が来ても、もう独断で断るようにしていた。

「俺、強くなりたいんです!」拓未が断るより早く、コウの声がインターホン越しに鳴り響いた。

 拓未は一瞬驚いたが、なんだか急に笑いがこみ上げて来た。「少し待って」拓未は口元に笑いを浮かべながらそう告げて、玄関先へ向かった。ここの所ずっと憂鬱な気分でいた自分を笑わせてくれたのが、一体どんな男なのか見てみたくなったのだ。

 コウは、拓未の姿が見えると、きをつけの姿勢をとって一礼した。

 …珍しい。いや、初めてか?これに応募してくるのはごろつきのような奴ばかりだったが。この男はまともそうだ。拓未はコウの様子を見てそう思った。「どうも」拓未は軽く会釈して、コウの顔を見る。

 コウも拓未の顔を真っ直ぐに見て、軽く頭を下げる。コウは拓未をぱっと見ただけで、好印象を持った。なんだ、すごくまともそうな人だ。これなら別に全然あやしく無いんじゃないか?「俺、これを見て」コウはチラシを差し出した。

 拓未はチラシをチラッと見て、口を開いた。「ここでしばらく訓練をしてから遠征に出て貰う事になります。遠征に出れば家に戻れない事もあります。遠征期間は未定ですが、それはその都度ご相談と言う事で」拓未は今まで何度も繰り返した説明をした。もう募集は終了したと断る事も出来たが、何故かそうしなかった。

「はいっ。全然良いです」コウは張り切って返事をする。

 拓未は軽く口の端を上げ話を続けた。「力が足りない場合はお断りする事もあります」

「はい。それは…判断してやって…下さい。俺、今まで空手とか他にも色々やって来たけど、まだまだだったって事に気付かされた。とにかくもう一度鍛えなおしたい。お願いします。」コウは拓未の顔をしっかりと見据えてそう言うと頭を下げた。

 拓未はコウの様子に何だか少し嬉しくなっていた。



「確かに。それなりには」コウと軽く手合わせしてみて、拓未が言った。

 コウは、緊張した面持ちで拓未の次の言葉を待つ。

「鍛え甲斐がありそうだ。」拓未は少し口の端を上げた。

 コウは途端に笑顔になって目をキラキラと輝かせた。

 目が気に入った。良い目だ。真っ直ぐな。「今日から練習するか?」

 コウは「はい!」と嬉しそうに即答した。



 次の日も、コウは朝早めにやってきて訓練に励んだ。そこは、室内の、コウ一人が使うには勿体無いくらい大きな練習場だった。だだっ広いといった感じ。

「練習熱心だな。コウ」昼休憩に入って拓未が声をかけた。

「はい。お師匠」コウは元気良く返事する。コウは本当に練習熱心だった。はりきっていたと言うのがピッタリ来るかもしれない。何か新しい事を始めた時と言うのは大概そういう気分になるものかもしれないが、コウの場合、目に見えてはりきっていた。楽しそうだった。ついこないだまで寝込んでいたなんて嘘のようだ。

 フッ。お師匠か…。

 拓未は、ただ強くなりたいと熱心に訓練に励む、コウのその純粋な素朴な様子にホッと気持ちが和む気がしていた。そして拓未もただ純粋に、コウを強くしてやりたい。と思うようになっていた。コウに稽古をつけている間は、本家のゴタゴタすらも忘れられた。

 遠くで犬のほえる声がした。拓未は、犬の声でハッとして言う。「番犬が放してあるから庭には絶対勝手に出ないように」大事な事を言い忘れていた。口調は冷静だったが、拓未は内心冷やっとしていた。もしコウが一人で庭に出たら大変な事になりかねない。

「番犬?はい。」まあ、庭なんて出る事ないさ。コウは大して気にも留めなかった。今は訓練が楽しくて、コウの興味はそこにしかなかった。

「お師匠、ここは一体何…あの、これは何ていう武術なんです?」

 言葉遣いは全然なってないな。だがそんな事はどうでも良い。

「一般には知られていない。聞いても知らないだろう。」拓未はそうとだけ答えた。

 あれ?『一般には知られていない』これどっかで聞いたような…デジャブ?コウは何か妙な感覚がして少し首をひねった。



 昼は一旦家に帰る。せいぜい徒歩5分程。本当にすごく近所だったのだ。

 コウは、自宅でカップ麺をすすっていた。突然、『一般には知られてません。火の流派と言います』そう言った時のカケルの顔が頭に浮かんだ。

 あっ!?

 火の流派。チラシの炎のマーク。遠征。新参の弟子。黒装束の集団。

 コウの頭の中で一瞬にして全てが繋がった。

 なら、あれ…あれが火の本家か?アミの家?

 拓未以外、ほとんど人の気配を感じないあのでっかい家。長く使い込んだ感のあるあのだだっ広い練習場。拓未一人のはずがない。火の本家だとしたら、話が合う。

 なんだよ、って事は、このまま訓練続けて遠征ってのに行ったら、俺、黒い集団入り?

 ウキウキとはりきっていた気持ちが一気にしぼんだ。

「なんでだよ…よりにもよって」コウは溜息混じりにそう呟いた。

 こんな偶然ありかよ。『コウは関係ない』って、なあ、セナ、本当にそうなのか?



 昼休みを終えコウはまた訓練に戻ってきた。拓未に練習場で少し待っているように言われた。気持ちの整理がつかないまま、とりあえず戻って来たコウには有難い時間だった。

 ここが火の流派の本家だってのは、多分間違い無い。

 これと言った証拠がある訳では無いが、コウの中には何故か根拠の無い自信があった。

 お師匠があの黒装束の野郎どもを送り出してるって事か?でも、お師匠は、そんな悪いヤツには見えない。…いや、だからその老師ってのの命令なんだよな。お師匠は、老師を信用してて、それで…って事か?ああ、どうすりゃ良いんだろ。

 コウは大きな溜息をついて、顔を上げると、何気なく中庭に目がいった。庭の向こう側を犬が歩いている姿が見えた。

 ああ、お師匠がさっき言ってた放してる番犬ってあいつか。

 茶色の毛色をしたたくましい体つきの見るからに日本犬と言う外見の犬。一見柴犬のようだがサイズは一回り程大きい。犬はある窓の所まで行くと中を覗くような仕草をした。コウはなんとなくぼーっとその様子を眺めていた。窓が開いて、中から誰かが手を伸ばして犬を撫でる。犬は尻尾を振っている。その手の主である少年の姿が見えた。

 へっ?アミ?!いや、違う。けどあの子、アミに似てないか?もしかして…アミの弟?

 そう思うやいなやコウは庭に降りていた。少年の居る窓まで確めに行こうとしたのだ。

 すぐさま犬がコウに気付き、うなり声を漏らした。少年はコウに気づいて慌てて窓を閉めて姿を隠してしまった。ウーワンワンワン!と、けたたましく犬の吠える声が響く。犬はコウの方へ向かって走ってくる。

 うわっマズイ。

 コウは慌てて戻ろうとしてつまづいてしまった。すぐに立ち上がったが犬はもうそこまで来ていた。犬は牙を剥いて低くうなりながらコウを睨みつけ、突然飛びかかって来た。

 ダメだ!やばいっ!

 …へ?

 どういう事だ?コウに襲い掛かって噛み千切りそうな勢いだった犬が、突然豹変してコウに前足をかけながらクーンとしおらしく鼻を鳴らしている。

 何がどうなった?コウには訳がわからなかった。心臓がバクバクしている。

 犬の声を聞いて拓未が慌ててやってきた。「竜王丸!…コウ」拓未は驚いた顔をした。

「お師匠。こいつ…うわっ何だよ!俺の尻がどうした」

 竜王丸と呼ばれた犬はキューンクーンと鼻を鳴らしながらコウのお尻の辺りに鼻を押し付けている。「舐めるなー食うなよ!やめろってば」竜王丸は、前足でコウの尻ポケットを掘る仕草を始めた。

「そこ、何か入ってるか?」合点がいかないと思いながら様子を見ていた拓未が聞いた。

「え?ああ。財布?」コウが財布を取り出す。と、途端に竜王丸に銜えられてしまった。

「あ、おい!俺の財布、返せ」とは言ってみるものの、下手に手は出せそうにない。

「なんだよこいつ、金好き犬?」んな訳ないと思いつつも口に出す。

「おかしいな。竜王丸は、家人以外には絶対に懐かないのに。」そう言いながら、拓未は竜王丸からコウの財布を取り返した。犬はまだ財布に向かってクーンキューンと甘えるように鳴いている。その表情はどこか寂しそうにも見えた。

「いや、マジでもうダメだと思った。こいつ、すごい顔で唸りながら牙むいてかかってきたんだ。犬に本気で襲いかかられたなんて生まれて初めてだ。物凄い迫力だったんだけど…急にクーンってなって」コウは、まだ興奮していた。まだ心臓はドキドキしている。

 拓未は手にしている財布をマジマジと見ながら首を傾げた。この財布がどうしたと言うんだろう?布製の別になんてことはない普通の財布だ。

「にしても、竜王丸ってえらく立派な名前だな。やっぱり血統書とかついてるのか?」コウは竜王丸を見ながら言った。内心では落ち着け自分と言い聞かせながら。

「いや。竜王丸は、この家の娘が子供の頃に拾ってきた。こう見えてももう十歳はとうに超えてる。人間にしてみればもうかなり高齢のはずなんだが、精悍な顔つきも、姿も一向に衰えない。見習いたいもんだ。」拓未は心底そう思っているんだろう、感服するような眼差しで竜王丸を見ながらそう言った。

 この家の娘ってアミか?あ、アミ?!コウは突然思い出した。

「そういや、その財布、アミが触ったんだ。もしかして、それでか?」コウはそう言ってしまってから、ハッとした表情で拓未を見た。俺、最高に大馬鹿だ!コウは感情が思いっきり顔に出ている。

 拓未は鋭い目つきでコウを見ていた。コウ、こいつ、何者?

「とりあえず、中へ」拓未は冷静にそう指示すると、練習場の中へ入った。

 コウも拓未に従って中へ入った。

「アミを知ってるのか?」拓未は、コウを見据えて聞いた。

 やっぱりここ、火の本家だ。間違いないとは思っていたが、これで百二十パーセント確信した。コウは気まずそうな顔をしてしばらく黙って居たが、覚悟を決めて答える。

「知ってる」今更知らないと言っても通るわけもない。

「何故?」

「何故ってその…」コウは口籠り、目線を落とした。何て言えば良いんだろ…。

「ここへ来たのは何の為だ?」

「いや、何の為って…強くなりたくて」コウは歯切れの悪い口調になっている。

「アミに頼まれたのか?」

「いや、そうじゃない。」コウは顔を上げてきっぱり否定した。拓未とばっちり目があった。やっぱり、お師匠が悪いヤツとは思えない。拓未の顔が目に入って、もう正直に話そう。と、コウはそう決心した。

「アミには黒装束の奴らにやられた所を助けられた。ここへ来たのは、もう一度鍛えなおそうと、そう思った時に丁度あのチラシを見て。本当にただそれだけ。ここがアミの家だと気付いたのもついさっき。嘘は無い」コウは拓未を見つめてきっぱりと言いきった。

 嘘をついている顔ではない。拓未もそれは感じた。ただ疑問もある。

「何故、それに気づいた?」

「さっき、昼飯食べてる時に急に…」

「昼飯?」拓未は眉間に皺を寄せた。

「えと、何て言えば良いのか…昼飯食べてる時に、俺の頭の中で、アミ達の言ってた事と、ここが急に繋がったって言うか…」昼飯だけじゃ確かに答えになってないな。と言い直す。これも答えになってるかどうかかなり怪しいが。

「アミには、全部忘れて帰れって言われて、そうしたんだけど、何でここに来ちまったかな…って俺自身悩んでた所だ。」コウはそう言うと、小さく溜息をついた。

 拓未は手に持っているコウの財布に目をやった。コウがアミと一緒だったのは間違いない。さっきの竜王丸の行動が何よりの証拠だ。昼飯が何故関係あるのか、言ってる事は良くわからないが、コウは嘘はついていないんだろう。大体、この男は嘘をつけるタイプでは無い。もし仮に今までが全部演技だったとしたら、本当に大したもんだ。

「アミ達とは?誰と一緒なんだ?」拓未は気になった点を質問した。

「それは…」コウはそこまで言って良いのか悩んだ。

「安心しろ。私は、アミをどうこうするつもりはない。」

「お師匠、あんたもアミが兄貴殺したと思ってるのか?」

 拓未の顔色が変わった。コウ、こいつ、そんな事まで知ってるのか。

「アミは、自分じゃないって言ってたぜ」

 そうだろう。私だってそんな事は最初から信じていない。立場上何も言えなかっただけで…。拓未はしっかりと頷いて、そして口を開いた。「元気…だったか?」

 コウは、そう問いかける拓未の目つきがやさしくなったのを見逃さなかった。

 お師匠は、アミの事心配してる。コウはほっとした。

「ああ。俺を軽々と担いだって。あれには驚いた」コウの顔は自然と笑顔になっていた。

「そうか」そう答えた拓未も安心したように微笑んでいた。

「クゥーン」庭先でずっと大人しくお座りしていた竜王丸が耐えかねて甘えた声を漏らした。財布の方へむけて鼻をクンクンさせている。

 お前も寂しい思いをしているんだな…。拓未は竜王丸の様子を見てそう思った。

「竜王丸は、アミに一番懐いていたから。この財布、きっとアミの匂いがするんだろう。」拓未はそう言い、財布をコウへ返した。

「にしても、すげーな。この財布に残ってるアミの匂いを一瞬で嗅ぎ分けたって事か。」コウは手にした財布と竜王丸を交互に見ながら、そう口にした。

 ま、そのおかげで俺は助かったわけだけど。って事は、俺、間接的にとは言え、またアミに助けられたって事か?

「ああ、竜王丸はすごい。アミが拾ってきた時は、長に反対されて大変だったが、アミの粘り勝ちで飼う事になって、すぐにこの家の何よりも頼りになる番犬になった。」

 アミ、アミちゃん…

 今でも目に浮かぶ。子犬を抱いて目に涙を溜めて必死に訴えていた小さなアミちゃんの姿。まだ六、七歳くらいだったか…。そう、あの時のアミちゃんは決して諦めなかった。今回だってきっと。

 どうしてるだろうか…。どうすれば良いんだろうか…。

「アミが財布触ってなかったら、俺どうなってただろ…」コウが独り言のように呟いた。

「庭には入るなと言っておいたはず。」拓未が厳しい口調で言った。

「あ、そう。そうだ…子供が…」コウは庭に降りた理由を思い出してシンの姿が見えた窓を見た。肝心の事忘れてた。

 シン君の事か。

「あれ…アミの弟じゃ…」当てずっぽうだったが、コウはそう言って拓未の様子を伺った。拓未の目の色が少し変わったように思えた。コウは先を続けた。

「アミは、心配してたんだ。ずっと弟の事探してた。まだ探してるかもしれない。もしここに居るなら、無事なら、それだけでも教えてやりたい。」

 拓未は少し考えて聞いた。「連絡が取れるのか?」

「わからない。取れるかもしれない。取れないかもしれない。」もし、アミがまだセナと一緒に居るならなんとかなる。

 どういう事だ?拓未は少し首を傾げた。でも、コウの言ってる事が本当なら…いや本当だろう。第一、シン君の事がコウにばれた所で問題があるとは思えない。

「そう。弟のシン君だ。ここにいる。」

 コウは頷いた。やっぱりそうか。

「早くアミちゃんに連絡取ってみてくれ。」拓未が待ちきれ無いように言った。

 アミちゃん??それ違和感ありまくりだ。お師匠がちゃん付けでアミの事を呼ぶのも、アミがちゃん付けで呼ばれるのも。

 拓未はコウが何故ギョッとした顔をしたのかわからなかった。アミを赤ん坊の頃から見てきた拓未にとっては、アミちゃんと呼ぶのはおかしくもないし、ずっとそう呼んで今に至っている。なんの違和感もなかった。拓未にとってはアミと呼び捨てなければならない事の方が苦痛だった。

「早く」拓未は催促した。

「あ、ああ」コウは手早くセナへショートメールを送る。

【セナ元気か?まだアミと一緒に居る?今傍に居るか?アミの弟みつかった。アミが一緒に居るなら今電話したい。いいか? コウ】送信。っと。

 メールを受け取ったセナは内容を読んで首を傾げた。なんでコウがアミの弟を?でも、本当にみつかったなら…とにかく早くアミに伝えなきゃ。

「アミ、アミ、起きてる?」

「ん…起きた」アミは眠そうに目を開けて言った。あきらかにセナの声で起きた様子だ。

「ゴメン。コウからこんなメールが来て…弟みつかったって」セナは不可解さを顔いっぱいに表しながらアミへ携帯の画面を見せた。

「へっ」アミは弟と言う言葉に一気に目が覚めた。慌てて画面に目をやる。メールの文面を読んだアミも眉間に皺を寄せた。なんでコウがシンを?顔も知らないのに?

「何か良くわかんないけど、良いよね?」セナはアミに確認する。

「うん…」何故コウが?コウが老師の所へ行くとも、捕まるとも考えられない。何一つ推測できないけど、とにかくシンがみつかったって言うなら、話を聞かずにはいられない。

 セナが【OK】とだけメールすると、すぐに電話がかかってきた。アミが電話に出た。

「コウだけど。セナ?アミ?」

 確かにコウのようだ。「アミよ」アミが答えると、電話の向こうで何か声がした。コウ、何してる?

「アミちゃん?」電話の向こうの声が変わった。

 えっ?ちゃんって誰?この声聞き覚えある…。

「拓未です。」

「拓未?!何で…」確かに拓未の声だ。拓未だ。

「お元気ですか?」

「…ええ」傷は痛むし、元気と言える状態なのかどうかあやしいけど。

「シン君は、無事です。元気です。5日程前からずっと私の部屋に居て貰ってます。」

「…ホント?」

「本当です。老師にも誰にも言ってませんから安心して下さい。」

 そうだ。拓未はショウが家に電話した時もシンが居る事は言わなかった。嘘じゃない。

 アミの顔に安堵の表情が浮かんだ。

「竜は?」

「竜王丸も元気ですよ。今すぐそこに居ます。安心して下さい。」

「そこ本家なの?なんで、コウが…」

「本家です。彼は今、ここで修行中です」

「は?なんでコウがうちで…」修行?

「偶然…みたいですよ。」

 偶然?益々良くわからない。

「…帰って来ませんか?もう私しか居ません。」さっき拓未以外に残っていた最後の弟子が出て行った所だった。

「えっ…どう言う事?」

「みんな出て行きました。あとは遠征隊だけです。ここに戻って来ても、老師が帰ってこない限り何も問題ないように思います。」

 アミは言葉を失った。拓未以外出て行った…。当然かもしれない。アミは頭ではそう思ったが、でもやはりショックだった。

「だから…一度戻って来て…シン君とも話を」

 これが老師の罠って事は?拓未に言わせてるって事は?アミは急に疑いを抱いた。でも、じゃあ、コウは?…ダメだ。良く考えられない。どちらにしても、今、この思うように動かせない体で戻るわけにはいかない。

「今は無理。家に…家に電話したら、拓未が出る?」

「はい。私とシン君しか居ませんから。老師が戻らない限りは。」

「居て…拓未は居てくれるの?」

「居ますよ。シン君と竜王丸を放ってどこかへ行ったりしませんから、安心して下さい」

「…ありがとう」この言葉、セナに言って以来、素直に口から出るようになった。

 拓未はアミのその言葉に驚いた。

「私は…アミちゃんを信用してますから。」拓未はきっぱりとそう言った。

「…うん」アミは消え入るような小さな声でそう言うと電話を切った。

「どう?アミ、帰って来るってか?」コウが拓未に尋ねる。

「いや」

「なんでだよ?弟だってここに居んのに」

「おそらく、警戒してるんだろう」

「へ?何を?」

「私が本当の事を言ってるかどうか、確証は無い」

「お師匠を疑ってるのか?あいつ馬鹿じゃねーの?こんな…」コウはそこまで言って口をつぐんだ。拓未が少し悲しげに見えたから。

「仕方ない。アミちゃんはそういう風に育てられているから、何でも誰でも疑がってかかるのは当然。」どうすれば信用してくれるだろう…。

 しばらくして、拓未が思い出したようにコウに聞いた。「セナって誰だ?」

「え、あー」水がどうのって言ってもな…話ややこしくなりそうだし。

「セナは、アミの友達」友達…だよな?うん。嘘じゃない。多分。

「は?アミちゃんの友達?」拓未は首をひねった。

 ショウとカケルの事も、ま、わざわざ俺から言う事も無いだろ。にしても、アミ、あいつ、帰ってくりゃ良いのに。馬鹿だな。

 コウは突然携帯電話を手にした。リダイヤル。



「アミ、なんて?」電話を切ったアミから携帯電話を受け取りながらセナが言った。アミが話していたのがコウではなく、拓未と言う人だと言う事は傍で聞いていればわかった。

「シンは元気だって。家に居たみたい。」とりあえずシンは無事だった。

「良かったね。」セナは嬉しそうに言った。

「うん」そう言って、アミは少し口の端を上げたが、どこか元気は無さそうに見える。

「でも何でコウが?」セナが不思議そうに尋ねる。

「何故かコウがうちで修行してるらしい。なんでそうなったのかわからないけど。」何がどうなったら偶然うちで修行する事になるんだろう?アミも首をひねった。

「修行って…コウ、体…」セナは少し首を傾けた。

 あ、そう言えば、コウ、帰るときまだ治りきってなかったんだっけ。セナの言葉を受けてアミも思い出した。「もう体すっかり治ってるって事?あいつやっぱり化け物。」アミが信じられないという表情でそう言った。

 それとも、修行ってのが嘘とか?…そんなわけない。コウは単細胞だけど、悪い奴じゃないし、義理堅いタイプ。少なくとも恩を感じてる私を騙すような事は絶対しないはず。あ、単細胞だから治りが早いのか…。と、アミの頭にふとどうでも良い考えが浮かんだ。ああ、そんな事どうでも良い。ダメだ。なんか考えに集中できない。

「あ、そうだ。カケル君呼び戻して来なきゃね。もう見張る必要ないんだし。」

「いい。カケルはそのうち勝手に戻ってくるから。セナは行かないで」カケル…ショウ…この二人だけでも本家に戻そうか。シンが家で無事にしてるなら、黒装束を見張る必要もない。さっきの話、本当に信用できるなら、私も帰りたい。ああ、でも…判断が出来ない。考えがまとまらない。「薬の所為かな…」アミが呟いた。

「え?」セナが聞き返す。

「色々判断が出来ない…良く考えられない。きっと薬の所為。眠いしボーッとするし。」

「電話の向こう、拓未さん?って人だったんでしょ?」

「ええ」

 その時、セナの携帯電話が鳴った。コウのリダイヤルだ。

 何だろう?と思いつつ、セナが電話に出る。

『おいアミ!お前馬鹿だろ。何でも良いからここ戻って来い。老師なんて居ねーから。』

 セナは突然の大音声に反射的に電話を耳元から離す。

「ちょっと待って。かわるから。」セナはそう言って電話をアミに渡した。

 あ、セナだったのか。コウは拍子抜けした。

「化け物に馬鹿って言われたくないけど。」電話に出たアミが淡々とした口調で言う。コウのでっかい声はアミにもショウにすらも、しっかり漏れ聞こえていた。声の判別まで出来たわけでは無いがそんな事を言うのはコウ以外にいない。

「え、誰が化け物だ。ぃゃそんな事はどうでも良くて…」さっきの威勢の良さは無くなっていた。「だから、帰って来いって。お師匠、お前の事心配してる」

 お師匠?拓未の事か。心配…?

「それに、この、なんだ、たいそうな名前の犬もお前に会いたいみたいだぜ。俺の財布にクンクン言ってさ。お前触っただろ?だからお前の匂いがするみたいで」

 竜…。

「何も疑うなって。俺、お前には恩があるからな。裏切るような事はするつもり無いし」

 そんな事はわかってるけど。

「だいたい、老師、お前の事追っかけるつもりなかったじゃねーか。もしも、ここに居るのが見つかったって、別に何て事無くね?」

 あれ?そうだ。そうかも。ん…ホントに?ああ、ダメだ。頭が…ぐちゃぐちゃ…

 アミは突然セナに電話を押し付けて、ベットにグタッと倒れこんだ。

 へっ?アミ?

 セナはアミの様子に驚いて、「ゴメン。後で」と、慌ててそれだけ言い電話を切った。

「アミ?大丈夫?痛むの?」セナは心配そうにアミを覗き込んだ。

「痛い…けど違う。頭が…」

「へ?頭、痛いの?」

「違う。頭がぐちゃぐちゃ…何も考えられない…」

 拓未…竜…会いたいな…

 アミの目から涙が流れた。

 えっ、アミ、泣いてる…。

 アミはタオルケットを引き上げて顔まで覆ってしまった。

 ああ、私なんで泣いてるんだろ。怪我の所為…?薬の所為?竜、寂しがってるの…。



「切られちまった…」コウは携帯電話を見て呆然として言った。

 鉄砲玉みたいなヤツ。もしくはイノシシ。突然のコウの行為に驚いて傍で聞いていた拓未はそう思っていた。「向こうから、かけて来てくれると良いけど」拓未は冷静な声でそう言った。待つしか無さそうだ。

「…ああ」最後の声、セナだったよな?アミのやつ、ちゃんと聞いてたのかな。

「ところで。コウ、練習はどうする?」

あ…このままだと黒い集団入り…「黒装束にはなりたくねーな」コウはボソリと呟いた。

「では、バイトは無かった事に。」拓未は淡々とそう告げた。

 コウは、ガックリと気落ちのした顔をした。

「私としては個人的に稽古をつけるのは一向に構わないが、どうかな?」拓未は口元に笑みを浮かべてそう続けた。

 コウの顔に一瞬で笑顔が戻り、目がキラキラと輝いた。「是非!」



「え?見つかったんですか?良かった」部屋へ戻って来て、セナからシンの事を聞いたカケルが満面の笑顔で言った。自然に声が大きくなっている。

「しっ」セナは慌てて口の前に指を立てた。アミはあのまま眠ってしまったようなのだ。

「俺、本家に帰っても良いんじゃないかって思う…けど」ショウがボソッと言った。

 コウが電話で戻って来いと言っているのを漏れ聞いてから、ショウの中で本家に戻りたいと言う気持ちも強くなっていた。

「老師はこの辺に居るんだし…本家の兄弟子達には、俺とカケルから話出来ると思うし。俺の怪我見ても信じないって事あるかな?嘘ついてるって思うかな?」ショウは自分に問うように言った。俺はともかく、真正直なカケルが信用して貰えないなんて事あるかな?

「そう…そうだよ。老師が居ない間に戻って、兄弟子達味方につけた方が良い。」カケルがショウの言葉を聞いて、嬉しそうに同意した。

「拓未しか居ないって。」突然アミの声がした。タオルケットから顔だけ出している。

「アミ…ごめん。起きちゃった?」

「本家、もう拓未以外居ないって。みんな出て行ったって」アミはもう一度言い直した。

「えっ」カケルの顔から笑顔が消えた。ショウもショックを受けているようだ。

「火の本家に、行きましょう。今すぐ」セナが強い口調できっぱりと言いきった。

 セナの突然の言葉に三人が揃って驚いた。

「私も行く。」セナは続けた。セナもさっきの電話の後からずっとその事は考えていた。

「何、勝手に決めてんのよ」アミが非難するように言った。

「その、拓未って人、アミを傷つけたりする?」セナは、なんとなく、拓未は悪い人ではないに違いないと直感していた。

「えっ?」拓未はそんな事はしないだろう。アミは小さく首を左右に振った。「でも、もし何かあったら…今、私は思うようには動けない。」アミの声はどこか弱弱しい。

「拓未さんしか居ないなら、何も無い。俺達だって居るのに。拓未さんはちゃんと話を聞いてくれる人です。」ショウが冷静な様子で、だかきっぱりと言った。

 カケルはショウの言った事に同意するように頷いた。「もし、何かあったら、僕…頑張ります。守ります!」カケルが真っ直ぐな目をアミに向けて力強く言いきった。

 何…私、涙が出る。どうして…

 アミは手で涙を拭った。

「ちょっと疲れてる…だけ」アミは言い訳するように小さな声で言った。

「アミの家なんでしょ。帰って何が悪いの」そう、アミは疲れてる。疲れないわけがない…お父さん、お兄さんが立て続けに亡くなって、家を追われて…色んな事が一気に起こって、それに怪我まで。アミはすごいと思う。心も体もタフ。普通だったら、私だったらきっと耐えられない。でも、それでも、いくらアミでも疲れないわけが無い。家に帰るべき。帰ってゆっくり休むべきよ。老師は居ない。ショウ君達もこう言ってる。きっと大丈夫。「1回くらい、私の言う事聞いて」セナが珍しく厳しい口調でアミにそう言った。

 もういい。考えられない。セナの言うとおりにしよう。アミは涙を拭った手を顔に乗せたまま小さく頷いた。


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