T07-01
「T07、戦闘型『カイラギ』3体が接近しています」
緊迫した状況に本部のオペレーター、園部志穂の声が緊張している。
「T07、聞こえていますか。早く退避してください」
それでも久我透哉ののるBMD-T07は直立不動のまま静かにたたずんでいるだけだった。
戦闘型『カイラギ』3体を相手にして、生き残ったBMDはほぼ皆無で、神崎彩菜があやつるBMD-A01の特殊事例が1件あるだけだった。オペレーションルームのAIは、BMDの人体への侵食なしで生存できる確率を0パーセントとはじき出していた。
BMDには熱源検知システムが搭載されており、敵の『カイラギ』が発する体温を検知してオペーレーターのモニターに表示していた。3つの光点がBMD-T07を取り囲むように15メートル圏内まで接近していた。
「T07、透哉くん。はやく逃げて」
園部志穂は思わずパイロットの名前をマイクに向かって叫んだ。
背後からせまる『カイラギ』の1体が、水中ガンのような武器でたてつづけに3本の矢を放った。BMD-T07は振り向きもせず、体をわずかに横にずらしてそれをよけた。
と、同時にBMD-T07は右腕を水平に後ろにふった。BMD-T07の右腕から『クナイ』と呼ばれるクサビ形の忍者の武器に似た短剣が飛び出す。『クナイ』は腕から延びるワイヤーを引き連れて、後方からせまる『カイラギ』の首を突き抜けた。BMD-T07が腕を素早く引き戻すと『クナイ』の先端から逆向きの刃が二つ水平に開き、ワイヤーに引かれて『カイラギ』の首をはねた。
一瞬にして頭部を失った『カイラギ』は首から鮮血を吹きあげながら数歩走って前方に倒れ込んだ。それでも首からの血流は止まっていなかった。
『クナイ』はワイヤーで引き戻されてBMD-T07のわき腹のすぐ横を通って前方へと飛び、剣を抜いて飛びかかるもう1体の『カイラギ』の脚をからめとった。BMD-T07はワイヤーを引き戻しながら跳躍し、バランスを欠いてよろめく『カイラギ』を蹴り倒す。すかさず左手で腰の短刀を逆手に引き抜き、倒れた『カイラギ』に馬乗りになって首を切り裂いた。
最後の1体がBMD-T07の背後から槍を突き刺す。BMD-T07は体を後ろにのけ反らせてそれをかわすと同時に、右腕から『クナイ』を射出した。『クナイ』は『カイラギ』の眉間を突き抜けてから引き戻された。『カイラギ』の脳しょうが周囲に飛び散り、BMD-T07は凄惨な光景につつまれた。
「T07より本部へ。『カイラギ』3体を撃破。『サースティーウイルス』放出反応なし。指示をお願いします」
園部志穂はオペレーションルームのモニターに映し出される3つの光点が静止し、急速に光を失っていく様を茫然と見つめていた。驚きのあまり、放心していたは園部志穂は後ろから背中をつつかれてわれに戻った。
「りょ、了解しました。T07、帰投してください」
振り向くと陣野真由が彼女の後ろに立っていた。陣野はストップウォッチを見つめながら園部志穂に告げた。
「戦闘型『カイラギ』3体で10秒76。まあまあの成果ね」




