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バイオメタルドール  作者: 坂井ひいろ


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Z02-01

 陣野修じんのしゅうはマグロの群れを追うのを楽しんでいる自分に驚いた。『カイラギ』を倒すことも学校に通うことも彼にとっては与えられて任務を、ただ、こなすことでしかなかった。はじめに任務があり、それに向かって計算し、動き、達成する。それが生きると言うことだった。

 陣野真由じんのまゆは彼に任務を与えるものであり、陣野修と言う名は目的を達成するパーツにつけられた記号だった。食事をとることはエネルギー補給で意識して味を感じることはなかった。学校での勉強や軍の訓練はスペックを上げるためのものだった。

 陣野修は言語による思考が苦手だった。言葉はあいまいで、時として正反対の意味を持つつこともある。すべてを数式としてとらえた方が、活動や行動が素早く正確だった。

 言葉に含まれる恐怖や怒り、悲しみや喜びは心を乱す要素でしかなかった。任務に失敗するのはスペックが不足していたからであり、感情はスペックを劣化させる要素だった。


そもそも・・・。


『恐怖』とはなんなのか。


戦闘を構成する兵器が失われるのは当然のことだ。それがたまたま自分と言うパーツであるだけ。そこに意味はなかった。


わからない。


『怒り』とはなんなのか。


戦闘において自分以外のパーツが失われる。任務の達成が難しくなることか。


わからない。


『悲しみ』とはなんなのか。


パーツやスペックが不足して任務を失敗することか。


わからない。


『喜び』とはなんなのか。


任務が達成されて次の任務にむかえることか。


わからない。


 陣野修には『過去の記憶』も『思い出』もなかった。楽しい『思い出』もなかったが、嫌な『思い出』もなかった。どこで生まれ、どうやって育ったか。父も母も家族も知らなかった。彼にとって任務かすべてであり、それが自分が存在する唯一の意義だった。それを不安に思ったこともなかった。


 学校に通い出して好き勝手を言い合い、身勝手にふるまう存在を知った。彼らの発する言葉は任務を構成するパーツではなかった。彼らは自分たちを『仲間』と呼び合った。


戦闘で『仲間』を失うことの『恐怖』


『仲間』の命を奪ったものへの『怒り』


死んだ『仲間』に対する『悲しみ』


そして、生き残って『仲間』に会えた『喜び』


 陣野修は今、『仲間』とマグロを追うという任務を楽しいと感じていた。海面から差し込んでくる光を受けて銀色に輝く巨大なマグロの群れが前を泳いでいる。青くすみわたった海中を進むマグロの姿の美しさに見とれた。久我透哉くがとうやのBMD-T07から指示が入る。彼はマグロを追い立てて神崎彩菜かんざきあやなののるBMD-A01へと向かわせる。そんなことが楽しくてしかたがないのだ。


俺、今、生きている。


陣野修は心の中でそう感じた。

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