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バイオメタルドール  作者: 坂井ひいろ


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A03-04

 一特いちとくの調査船の操舵室ブリッジ陣野真由じんのまゆは頭を抱えていた。『カイラギ』の襲撃で出航を早めたため、新鮮な食糧が不足していた。軍の非常食は20日前後はあったが、グアムまでどんなに急いでも片道で15日はかかる予定だった。往復で30日。10日分の食糧がなかった。さらに山村光一やまむらこういちの分は予定外だった。クルーを集めてそのことを告げた。

山村やまむら刑事。あなた、自分の食糧は自分で調達して」

陣野真由はいたずらそうな顔で言った。

「えっ。僕がですか。んーん。わかりました」

山村光一やまむらこういちは少し考えてからあっさりと引き受けた。

「どうするつもりなの」

神崎彩菜かんざきあやなが心配そうにたずねた。

「魚をとればいいじゃないですか。太平洋ですよ。ここは」

山村光一は笑って答えた。園部志穂そのべしほはのんきな人だと思った。

「漁船じゃないんですよ。網も、釣りの道具もありません。魚がいるかもわからないし、素人の集まりですよ」

「園部さん。『バイオメタルドール』があるじゃないですか。『カイラギ』を倒すよりずっと楽ですよ」

「軍の兵器を使って魚とりをするんですか」

園部志穂はあきれた。

「園部さんにも協力してもらいますよ。『カイラギ』用の水中超音波センサー。魚群探知機として使わせてもらいます」

陣野真由は相変わらずこの男の発想は面白いと思った。

「なるほど。数百億円の軍の機材を使って魚をとるのね。許可します」

「よーし。魚をとるならA01が最適だ。彩菜あやなさん。準備、準備。しゅう君も透哉とうや君も手伝ってくれ」

山村光一の目じりが垂れているのを見て、園部志穂はいやな予感がした。

「では、陣野部隊長の許可がおりたことですし。わたくし、山村光一の指揮のもと。これより、敵、マグロ捕獲作戦を開始します」

マグロと言う言葉を聞いて、陣野修じんのしゅうをのぞく一同がつばをゴクリと飲み込んだ。園部志穂は「やっぱり」と思った。山村光一は、結局、これが言いたたかっただけなのだ。それでも、マグロは魅力的だった。海の環境変化で『カイラギ』が現れる以前からマグロは超高級魚だった。園部志穂は子供の時に一度だけマグロのお寿司を食べて、こんなに美味しいものがあるのかと驚いたことを思い出した。今なら、一億円を出しても食べられない品物だ。国の税金でつくられたものを私的な目的に使うのはどうかと思ったが、食糧調達も立派な軍事行動だと自分に言い聞かせた。

「了解しました。山村指揮官。指示をお願いします」

「よし。いい返事だ。園部オペレーター。とりあえず、AIを使ってできるだけ巨大な魚を探索してくれ」

山村光一は楽しそうに指示を出した。

「透哉君はBMD-T07にて水中探索と現場の指揮を。修君のBMD-Z13はマグロの群れを追い立ててくれ。最後に彩菜さんのBMD-A01が戦闘用のモリを使ってマグロを確保する。他のクルーは夕食の準備だ。では、戦闘開始」

操舵室ブリッジのクルーたちは笑顔でそれぞれの持ち場に向かった。神崎彩菜は山村光一にかつて父に抱いていた頼もしさを感じた。生き残って、この人と三村美麻みむらみまと暮らしてみたいと心から願った。

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