A03-03
「ありがとう」
答えた山村光一の様子がまだどこかへんだ。山村光一は思いつめた表情で告げた。
「そこでなんだけと」
「どうしたんですか」
神崎彩菜は山村光一の顔を心配そうにのぞき込んだ。
「僕にとって、神崎さんは憧れのスーパーヒロインっていうか」
「もういきなりなんですか」
神崎彩菜は心配するんじゃなかったと反省した。
「いや、それで」
山村光一はいつものように慌てる。彼女は少し意地悪に言った。
「だからなんなんですか。大人なんですからはっきりしてください」
「わかった。わかったから怒らないで聞いてくれるかな」
「はい」
「実は・・・。神崎さんに養子になって。あーもう。彩菜さん。僕たち二人の娘になってください」
山村光一は神崎彩菜に向かって深々と頭を下げた。
「えっ」
神崎彩菜は驚きのあまり言葉につまった。
「お願いします」
山村光一はもう一度、頭を下げて頼んだ。
「私がですか・・・。こんな脚ですよ・・・」
神崎彩菜は自分の義足を見つめた。
『カイラギ』との戦いでこの先生き残れる保証はどこにもなかった。普通の中学生として生きることは捨てたつもりでいた。脚を失ったことでふんぎりもついた。覚悟もできていた。
山村光一がゆっくりと語りだした。
「ここに来る前に美麻さんと二人でじっくり話しました。僕らは君たちに守られて生きてきたって。大人なのに情けない話です。でも彩菜さんを見ていて思ったんです。僕たちにもできることはあるって。そりゃー、父親代わりとか母親代わりなんてできっこないけど。朝がきたら『おはよう』から始まり、一緒に朝食を食べて。『いってらっしゃい』を言う。ぜいたくはできないけど、時々は着飾って、夕ご飯を食べに行く。バカな話で盛り上がって。『おやすみ』を言いあって眠りにつく。三人でそうやって暮らしたいんです」
山村光一の言葉に神崎彩菜は思わず吹き出してしまった。
「あいさつと食べることだけなんですけど」
山村光一は考え込んだ。
「ん、確かに。美麻さんが大食いだからかな」
と、とんでもないことを言った。
「えっ。あのクールビューティーな三村さんが。大食い」
神崎彩菜も思わず口にしてしまった。山村光一があわてて取り繕う。
「あっ。いや。これは秘密です」
「そっ。そうですよね」
二人は顔を見合わせて笑いあった。神崎彩菜がいたずらっぽそうな顔をした。
「私なんかお邪魔ですよ。ラブラブな新婚生活が台無しです。それに私、嫉妬深いんですよ」
山村光一は彼女が発した「嫉妬」の意味がなんなのかわからなかった。が、それを聞くと面倒なことになりそうだったので考えることをやめた。
「・・・。お願いします」
山村光一は三度目の頭を下げた。
「わかりました。じゃあ。戻ったら野島刑事に妻と娘ができたって報告しなくちゃですね」
「あ、いや。野島さんだけはちょっと」
「だめ。聞いてあげない」
神崎彩菜は逃げるようして言った。二人は狭い船室を追っかけ合った。




