A03-01
神崎彩菜ののるBMD-A01は『ウェアーバイク』を使って単独で旧高速道を南に向かっていた。道路の横には水没した都市が広がっている。先日の摸擬戦をへて『バイオメタルドール』は軍の『カイラギ』対策兵器として正式採用された。今日がその初実戦の日だった。神経接続の痛みにもだいぶ慣れてきていた。陣野真由の声がBMDの耳を通して彼女の脳に直接、伝わってくる。
「本部より、A01へ。そろそろ『カイラギ』の活動地域に到達します」
「A01。了解です。偵察モードに入ります」
神崎彩菜は『ウェアーバイク』をいったん停止させて、BMD-A01のゴーグルを拡大モードに切り替えた。林立するビルをくまなく見て回る。
「見つけました。左前方のビルのかげに1体。AIで照合します」
ゴーグルに捉えた『カイラギ』の横に解体型のマークがあらわれた。
「解体型です」
神崎彩菜の声が初陣を前にして緊張している。陣野真由はBMD-A01の心拍モニターをチェックした。
「心拍がかなり高いようです。やれますか」
陣野真由が静かに問う。神崎彩菜は『バイオメタルドール』の呼吸器官をゆっくりと動かして深呼吸し、心臓の高鳴りをおさえた。
「はい。問題ありません」
BMD-A01の心拍モニターが徐々に降下していく。
「本部より、A01へ。心拍正常に戻りました。『カイラギ』をせん滅されたし」
神崎彩菜はBMD-A01の手に握った『ウェアーバイク』のスロットルを全開にして旧高速道の上を走った。『カイラギ』がはりついているビルの手前で、左腕のアンカーをビルに最上階に向けて射出した。アンカーはワイヤーを引き連れてヒュルルルルと音を発しながらビルへと飛び、突き刺さった。BMD-A01はワイヤーに引かれてジャンプし『ウェアーバイク』は旧高速道の上を自動モードで走って止まる。
BMD-A01は振り子のようにしてビルの壁に向かう。『シリコンエアーシューズ』のソールが衝撃にそなえて膨らむ。BMD-A01はビルの壁に横になりながら両足で着地した。鉤づめを使ってビルの壁を破壊していた『カイラギ』がBMD-A01を見る。BMD-A01の目を通してにらみ合う。『カイラギ』ははじめてみるBMD-A01の姿に首をかしげるようなしぐさをした。神崎彩菜はBMD-A01の右手で背中の日本刀を引き抜いた。
『カイラギ』が手足の鉤づめをビルに食い込ませて、ヤモリのような動きでBMD-A01に向かって壁伝いに走っくくる。
「こいつらが。こいつらが。私の父と母と弟を。よくも、よくもよくも」
神崎彩菜はBMD-A01の中で吠ほえた。ワイヤーを左手に握り、ビルの壁を横になって走る。『カイラギ』がBMD-A01の脚を狙って右腕の鉤づめふる。BMD-A01は直前で壁を蹴ってブランコの要領で離れる。『カイラギ』の後方に着地して、手に持つ日本刀を襟首に突き立てた。
ズザ。
固い甲羅を抜けて突き刺さる刀の手ごたえが神経接続を通して彼女に伝わる。そのまま日本刀を横にふって首の半分を切り割く。
ジシュ。ブシュー。
『カイラギ』の首から血が噴き出し、頭がぶら下がる。背中の呼吸器官は『サースティーウイルス』を振りまく前に静止した。
BMD-A01は天使の羽のような呼吸器官を大きく膨らませて息を整えた。
「やった。私、やったよ。『カイラギ』をこの手で。かたきをとったよ」
空に向かって神崎彩菜は小さく叫んだ。青く晴れ渡った空に白い雲が流れていく。海から顔を出すようにして立つ廃ビルの壁に横になって立つBMD-A01が空を見上げていた。




