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バイオメタルドール  作者: 坂井ひいろ


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M04-07

 降りそそぐ海水のが次第に弱まり、視界が開けていく。『カイラギ』と言えども、あれだけのガレキに押しつぶされたのではひとたまりもないだろう。神崎彩菜かんざきあやなは高く積もったコンクリートの山をBMD-A01の視覚をとおして見つめた。

「A01より、本部へ。作戦成功です」

調査船クルーの歓声が聞こえてくる。

「本部より、A01へ。了解です。まだ、戦士型5体が残っています。注意してください」

園部志穂そのべしほの冷静な返答に神崎彩菜は気持ちを引き締めた。その時、ガレキの山が動いた。パラパラとコンクリートが崩れて坂をくだる。

「うそ」

神崎彩菜は思わず声をあげた。2メートル四方はあろうかと言うコンクリート片を投げ飛ばして、12メートル級の『カイラギ』が姿をあらわした。

ビヒュー。

『カイラギ』はBMD-A01の顔をにらめつけるようして、背中の呼吸器官から一気に空気を吐き出した。崩れたビルの粉塵が巻き上がる。

『カイラギ』には人間のような感情はないとされていた。彼女自身、何十体もの『カイラギ』との戦いをとおしてそれを実感していた。仲間が傷つこうがおかまいなし。自分の手足を失った時でさえ、動揺で動きが鈍るといったことすらなかった。しかし、目の前にいる12メートル級の『カイラギ』は、明らかに怒っていると彼女は感じた。冷静な行動はち密でミスがなく現代の戦闘には不可欠だった。しかし、怒りは時として爆発的なエネルギーをつくりだして、戦いそのものを支配することがある。神崎彩菜はそのことをよく理解していた。

「負けないよ」

神崎彩菜はBMD-A01の背中の呼吸器官に空気を吸い込み、大きく膨らませて、ゆっくりと噴き出した。BMD-A01の中に気がたまっていくのを感じる。手に持つ『ムラサメ』を強く握りしめて、BMD-A01はビルの屋上を走り、12メートル級の『カイラギ』に向かって飛んだ。

 BMD-A01の脚は他の『バイオメタルドール』とは異なり、構造が巨大な板バネのように進化している。跳躍力と走るスピードは、他の『バイオメタルドール』の比ではなかった。

 海に浮かぶガレキの小山の上を飛び跳ねながら一気に『カイラギ』のもとへと走った。

「でかい」

近づくにつれて『バイオメタルドール』の2倍の大きさを実感させられる。体格があまりにも違い過ぎて、投げ技や関節技などの格闘系の戦い方はできそうにもなかった。相手の剣の長さもほぼ2倍。こちらの攻撃が届かなくても相手の攻撃は届く。神崎彩菜は『カイラギ』の弱点を探った。

 巨大な生物は大きくなればなるほど動きが緩慢になる。体重が増えると、それを支える骨格や筋肉量も増やさざるおえない。力は倍になるが、必ずしも早さが倍になるとは限らず、むしろ遅くなる。体重を支える脚は踏み込むだけでそうとうな負荷がかかるはずだった。足場が悪いガレキの上と言うのも好条件だと彼女は判断した。

『カイラギ』は巨大な長剣をBMD-A01の頭部に狙いを定めて、バットをふるような姿勢で水平にふった。

ビュン。

長剣がつくりだす風圧を『バイオメタルドール』との神経接続で頭に感じた。BMD-A01は前傾姿勢で腰を落とし、長剣をやり過ごしてエネルギーを両脚に集中して低く飛んだ。スライディングでもするような姿勢で『カイラギ』の脚に向かって腕を伸ばし、体をひねって『ムラサメ』をふった。

『カイラギ』は『ムラサメ』を避けて足を浮かしたが、足場が悪くよろめいた。左の拳でガレキをたたき一回転して着地。着地のエネルギーを足のバネにためて『カイラギ』の背後から頭部に向けて高く飛んだ。宙返りして『カイラギ』の首筋へと『ムラサメ』を振る。刃先が首かすめるが浅い。『カイラギ』の皮膚が裂けて、血しぶきがはじけ飛んだ。

『カイラギ』はそれにかまわず、左手を振ってBMD-A01の足をつかんだ。BMD-A01の体が逆さづりになる。

キーン。

BMD-A01の板バネのような足が『ムラサメ』と同じ音を立てる。『カイラギ』の指を切り取り、BMD-A01は頭から落下した。『ムラサメ』を握ったまま、逆立ちの姿勢でガレキの上に着地した。と同時に両脚を広げて体を回す。

 板バネのような脚が剣と化し、超音波振動音を引き連れて『カイラギ』の両太ももを切断した。

『カイラギ』の上体がガレキに向かって崩れ落ち、粉塵が巻きあがる。BMD-A01は立ちあがると、顔を下にして倒れた『カイラギ』の襟首を『ムラサメ』で一気に切り裂いた。

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