M04-02
久我透哉ののるBMD-T07は全長53メートルの『カイラギ』を追うように泳いでいた。『カイラギ』は本部に向かって一直線に進み、海に沈んだ街へと入った。駅前の大通りに入ったところで止まる。巨大な体を反転して、腹を上にして浮かび上がる。BMD-T07は大通りの左右に立ち並ぶオフィスビルの一つにクナイを打ち込み、ワイヤーを巻き取って飛び移った。
『カイラギ』の腹の内側から複数の剣が突き立てられて、表に飛びだしてきた。巨大な『カイラギ』の腹は引き裂かれ、あたりは流れ出た血と切り刻まれた肉で赤く染まった。中から戦士型の『カイラギ』がゾロゾロとはい出てきた。生まれつき目の見えない久我透哉は、BMD-T07の能力を使ってそれを見た。そのおぞましい光景は地獄の様を思わせ、彼は生まれて初めて目が見えることをのろった。最後に通常の倍、12メートルはある『カイラギ』が現れた。
「T07より、本部へ。巨大『カイラギ』は駅前通りで静止。内部より、戦士型12体。12メートル級の未確認『カイラギ』1体が出現。映像をそちらに送ります」
久我透哉はBMD-T07の頭部のゴーグルに内蔵されたカメラを操作して映像を本部へと送った。
「本部より、T07へ。状況を確認。A01、Z13。ランクA装備済み。そちらに向かわせます。T07は帰投してください」
「了解。帰投します」
BMD-T07はビルの屋上から屋上へと飛び移るようにして、本部に向かって走った。2体の『カイラギ』がすぐさまそれに気づいてBMD-T07を追いかけてくる。久我透哉はBMD-T07の後ろの目でそれを捉えた。このまま本部に向かったのでは2体の『カイラギ』を連れ帰ることになる。
「ちっ」
久我透哉は『カイラギ』達の戦力を分散させるために、進路を変えた。
「T07より、本部へ。戦士型、2体に追尾されてます。本部より引き離すため、一旦、ルートを変えます」
「本部より、T07へ。了解です。『フェイクスキン』溶解の時間に注意して、行動してください。これより調査船を出港します。無理をしないで。必ず戻ってきて」
「了解」
園部志穂の言葉にはげまされて、久我透哉のBMD-T07はビルの屋上を走り抜けた。
数分、走って工場の屋上を見つけた。久我透哉ののるBMD-T07はそこに飛び移った。屋上の足場の強度を確認し、まわりの状況を頭に入れた。すぐ手前に化学工場のプラントがそびえたっている。鉄骨の中を複雑に絡み合う配管を見て、いざとなったらクナイを打ち込んで逃げることもできそうだ。彼は、追ってくる2体の『カイラギ』を迎え撃つため振り返って小刀を引き抜いて身がまえた。
すぐに戦士型の『カイラギ』が追いついて、工場の屋上へと飛び移ってくる。2体は腰の長剣を抜いてBMD-T07と対峙した。じりじりと間合いをつめながら左右を取り囲んでくる。水中戦闘用の小刀と長剣では分が悪すぎる。BMD-T07は一歩、また一歩と後退して間合いをはずした。
2体の『カイラギ』が左右同時に長剣を振りかざしてせまってきた。BMD-T07は左右の目でそれをとらえながら、後ろの目を使って化学工場の配管に狙いを定めてクナイを放った。2体の『カイラギ』の長剣がBMD-T07を切り裂く直前で巻き上げスイッチを入れる。
ブン。ズサ。
BMD-T07はワイヤーに引かれて後ろに飛びのき、目的を失った長剣の剣先が向かい合う『カイラギ』同士の肩口を切り裂き、互いの片腕を切り落とした。
ブシュー。
切り口から鮮血が飛び出す。
「ちっ。タイミングが早すぎた」
久我透哉のBMD-T07はその勢いを使って後方の配管へと飛び乗った。2体の『カイラギ』は片腕を失ったことに動揺する様子もなくBMD-T07を追って走り、配管に飛び移る。1本の配管の上で2体の『カイラギ』に前後をはさまれる形になった。
今度は同時には攻めてこない。1体の『カイラギ』が長剣を振りかざして襲いかかってくる。後ろに引いては背後の『カイラギ』の間合いに入ってしまう。BMD-T07はすかさず前に踏み出し、両手で短刀を持ち、振り下ろされる長剣を頭上で受ける。
ガチン。
金属がぶつかる高い音が工場の中をこだました。『カイラギ』の両腕がそろっていたら、力任せに切り倒されていただろう。BMD-T07は『カイラギ』の腕を取って腰を落とし、柔道の一本背負いの技を使って背後の『カイラギ』に向かって投げ飛ばす。背後から突き刺しにかかってきた『カイラギ』の長剣が、投げ飛ばされた『カイラギ』の背中の呼吸器官から胸へとつらぬいた。後ろの『カイラギ』は剣を引き抜き、道をふさぐもう一体の『カイラギ』をためらうことなく配管の上から蹴り落した。




