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A01-03

「本部より、A01。回収ポイント、敵、戦闘タイプ3体と交戦中。繰り返します。回収ポイント、敵、戦闘タイプ3体と交戦中」

園部志穂そのべしほはかなりあわてた様子だ。神崎彩菜かんざきあやなは心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。

「A01より本部。『フェイクスキン』溶解まで、残り時間3分35秒です。戦闘している余裕はありません」

 彼女は救出した男の子を落とさないように注意しながら『ウェアーバイク』のスロットルを強く握りしめて加速した。前方の路面が朽ち果てて陥没している。BMD-A01はスケートボードの要領でジャンプし、前輪と後輪の間の本体フレームを道路わきの欄干の上にのせてグラインドした。フレームの金属がコンクリートの欄干に削られて火花を散らす。陥没をやり過ごし、道路上に放置されてガレキとなった自動車を飛び越えて回収ポイントに向かった。ようやく回収ポイントを視界にとらえた時には『フェイクスキン』の溶解まで、残り時間1分を切っていた。

 回収地点に並ぶ指揮車と『バイオメタルドール』搬送用の大型トレーラーのまわりでは、先に戻ったBMD1機と護衛用のBMD1機が『カイラギ』と戦っていた。戦闘用の『カイラギ』は解体用とは異なり、剣や槍などの武器を備え、体も一回り大きく体格は彼女たちのBMDと同じかそれ以上だった。硬質化したうろこ状の皮膚は分厚く、外形はよろいをまとった戦国時代の武士そのものに見えた。

 護衛用の1機は既にかなりの損傷を受けており、右腕は引きちぎられて、赤い血液が大量に流れ出ていた。動きの鈍ったBMDの胸に『カイラギ』の1体が槍を突き刺した。BMDの胸部に搭乗するパイロットは間違いなく即死だろう。護衛用の機体のパイロットは新人の一年生があたることが多い。世界を知ることなく、13歳になったばかりの命が一つ途絶えた。

 彼女は急いで『ウェアーバイク』から両足を引き抜いて飛び降りた。左腕に抱えた男の子を高速道路脇に放置されたトラックのかげにおろした。彼女はBMD-A01のゴーグルを拡大モードに切り替えて男の子を確認する。

「大丈夫。呼吸はしている」

自分に言い聞かせてから、背中の日本刀を引き抜いた。

「必ず助けるから」

男の子に告げると戦闘用の『カイラギ』達にゆっくりと向き直った。

 ちょうどその時、彼女のヘッドセットが警告を発した。

「『フェイクスキン』の溶解がはじまりました。完全溶解まで残り5分です。直ちにBMDより退避してください」

彼女は脚部の感覚が鋭くなっていることから、それを悟った。彼女とBMDをへだてる『フェイクスキン』が溶けだしたことで、彼女の脚部はBMD-A01に侵食されはじめたのだ。

 彼女の中で怒りが弾ける。彼女のあやつるBMD-A01は護衛用の機体の側にいる『カイラギ』に向かい走り、そして飛んだ。そのスピードは『フェイクスキン』ごしのものとは比べものにならなかった。BMDがまるで自分の体の一部になったかのような錯覚をおぼえた。BMD-A01は、護衛用のBMDにとどめをさした『カイラギ』に一気につめよった。『カイラギ』の首を鎧の上から、力まかせに一振りで切り落とす。首が吹き飛んで倒れ込む『カイラギ』の胸に蹴りを入れて反転し、反動を使ってもう一機のBMDにつかみかかっている『カイラギ』のもとに飛んた。空中で一回転して『カイラギ』の首元に日本刀を深く突き刺した。刀を捨て、後ろから襲いかかってくる最後の1体の腕をとり、柔道の一本背負いの要領でアスファルトに投げ落とす。すかさず、腰の短刀に手をかけると相手が起きあがる前に首元を切り裂いた。吹き出した返り血が彼女のBMD-A01を赤く染めあげていく。

 いつの間にか雨があがり、ビルの谷間からオリンピック記念道路に夕陽が差し込んでいた。緊張から解き放たれた神崎彩菜の意識は次第に薄れ、彼女のBMD-A01は膝から崩れるように倒れた。

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