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G03-05

ドス、ドス、ドス、ドス。


教室の窓の外から巨大な物体が走る足音が聞こえてきた。麻宮五鈴あさみやいすずは佐々木未来ささきみらい飯野栞いいのしおりが戻って来たと思って、窓の方に走り寄った。ガラス窓を引き叫んだ。

「おかえりなさい」

しかし、彼女の方に向かってくるのは『バイオメタルドール』ではなかった。彼女は思わず尻もちをついた。腰が抜けて立ち上がることができない。

「いゃ。いゃ。こ、こないで。こないで」

顔を窓に向けたまま教壇のところまで後ずさった。

窓の外に巨大な『カイラギ』の顔が現れる。

「いゃー」

彼女は悲鳴を上げた。

『カイラギ』の大きな目が麻宮五鈴を見つめる。

彼女は蛇ににらまれたカエルのように一歩も動くことができなかった。

『カイラギ』は彼女を見つめながら首を少しかしげた。

ガシャン。

『カイラギ』は2年B組の窓を割り、顔と腕を差し込んでくる。麻宮五鈴は恐怖のあまり目を見開くことしかできなかった。スカートの中を温かいものが流れ出る感覚がある。

麻宮五鈴の顔を見つめながら『カイラギ』はもう一度首をかしげた。

『カイラギ』はゆっくりと右腕を伸ばし、本庄卓也ほんじょうたくや山下愛やましためぐの机にのった一輪挿しを大切そうに握りしめた。麻宮五鈴に向かってなにか言いたそうな顔をするが、『カイラギ』には口がなかった。

『カイラギ』は自分の頭に手を戻して、なにかをつまむようなしぐさをした。

麻宮五鈴は思わず自分の頭に手をあてて、はねている髪を直した。

「本庄くん。本庄卓也くんなの」

『カイラギ』は首を横に振って、彼女の前に二本の一輪挿しを置いて爪で床に文字を刻んだ。

「本庄卓也くんと山下愛さん」

『カイラギ』は首を縦に振った。

麻宮五鈴は混乱した。『バイオメタルドール』のように『カイラギ』の体の中に二人が取り込まれたのだろうか。そうだとしたら、なぜ『カイラギ』は街中で暴れたのだろうか。意識がなかったのか。それともあやつられていたのか。麻宮五鈴が『カイラギ』にそれをたずねようとしたとき、4機の『バイオメタルドール』が『カイラギ』の後ろからせまってきているのが見えた。4機の『バイオメタルドール』が『カイラギ』を取り囲む。

「私たちの教室。ゆるさない。絶対」

飯野栞いいのしおりの声が1機の『バイオメタルドール』から響いてくる。

麻宮五鈴が叫ぼうとしたとき『カイラギ』は首を振って制止した。

ドザッという音が校庭から響いてくる。『カイラギ』の目が苦痛で見開かれる。もう一度、ドザッという音がしたとき『カイラギ』は二つの一輪挿しを握って、教室から顔を出して振り向いた。

『カイラギ』の背中から流れ出る赤い血液が教室の中にまで飛んでくる。崩れ落ちる『カイラギ』の後ろの顔が一瞬、教室の窓を通り過ぎる。麻宮五鈴はそれが、山下愛の笑顔に見えた。

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