G03-01
神崎彩菜、久我透哉、陣野修の3人が軍の特殊部隊として出動してから一週間が過ぎようとしていた。柊木中学校2年B組に新たに空いた3つの席を眺めて麻宮五鈴はため息をついた。この学校に赴任してから、何人の生徒が出撃して戻ってこなかっただろうか。彼女はもうその数を数える気にもならなかった。空いた席もいずれ新たな生徒が補充兵として召集されてくる。生徒たちもそのことを理解していた。ここはそう言うところだった。
「それでは三時間目の授業をはじめます」
彼女が気を取り直してそう宣言した時だった。
ウゥー。ウゥー。ウゥー。
街中の警報器が一斉になりだした。
「こちらは国防軍八王子支部広報車です。戦闘より離脱した『カイラギ』が1体、市街地に迷い込みました。市民の皆さんは至急『サースティーウイルス』対策用の防護マスクを装着し、指定された避難所へ移動してください。これは訓練ではありません。繰り返します」
教室中がざわめきはじめる。
「落ち着いてください。訓練通りに避難を開始します」
麻宮五鈴は恐怖のあまり震えをとめるのが精いっぱいで、生徒に向かってそう告げるのがやっとだった。
「とうとう攻めてきた」
「うっそー。『カイラギ』は海からはなれられないんじゃないの」
「なんだよ。聞いてねえよ」
「やば。ばあちゃん大丈夫かな」
日頃、戦闘で『バイオメタルドール』にのっている生徒たちは、麻宮五鈴よりよほど冷静で逃げ惑うことなく、避難の準備をはじめた。
教室の引き戸が引かれ、軍の制服に身を包んだ女性兵士が駆け込んできた。
「佐々木未来、飯野栞はいますか。防衛待機班に出動命令がおりました。至急プール前まで集合してください」
二人が女性兵士の前に立つと、教室中から応援の声が飛んだ。
「佐々木さん。頑張ってね」
「ありがとう。みんなのぶんも頑張るね」
「飯野。本庄と山下のかたきを頼む」
「うん。ゆるせない」
生徒たちに見送られて教室を出ていった。防衛待機として柊木中学校のプールには生徒ののる『バイオメタルドール』が4機保管されていた。学校の教師として麻宮五鈴はプールに沈んでいる『バイオメタルドール』をなんどか見たことがあった。その度にここから出撃していく生徒がいないことを祈った。
生徒たちがプールに面した窓辺に集まる。プールの中から4機の『バイオメタルドール』が立ち上がった。他のクラスの生徒たちも窓辺に集まっているのだろう。学校中に歓声が沸き起こった。
6メートルを超える巨人が次々とプールからあがった。日本刀や短刀、やりなどの武器のチェックをおこなっている。刃が日の光を受けてギラリと光る。麻宮五鈴は中学生があんな兵器で殺し合う、この世界は間違っていると思った。急に宮本修の笑顔が目の前に浮かんでくる。
「修くん。この世界はいったいどうなっているの。帰ってきてほしい」
彼女は心の中でそうつぶやいた。