K03-03
「野島さん。三村美麻にあってきました」
野島源三は山村光一のにやついた顔を見て、わかりやすいやつだと思った。山村が配属されてきた時は、正義感の強すぎる男は刑事には向かないなと正直思った。最近では武骨で真面目な性格も警察には必要なんだと思えるようになっていた。
「三村美麻とのデートはたのしかったか」
「なにいってるんですか」
「非番に出かけたのだからなにをやってもかまわんぞ」
山村光一も野島源三のあつかいにはなれてきていた。むやみに否定しても言葉巧みに聞き出されるのがおちだった。
「わかりました。たのしかったです」
「おっ。ずいぶんと素直だな。やっとその気になったか。結婚式にはよばなくてもいいぞ」
「よびませんよ。野島さんなんか」
「よばないと言うことは結婚式はやると言うことだな」
野島源三がいつまでもからかうので山村光一はキレそうになった。
「もう、その話はこんどにしましょう。お願いですから三村さんに余計なことを吹き込まないでくださいよ」
「わかった。で、三村美麻は陣野真由の話を受けたか」
野島源三は急に真顔になって尋ねた。
「はい。アメリカ軍の書いたシナリオだと」
「そうか」
山村光一の答えを聞いて、野島源三は拳を強く握った。
「われわれ警察はそのシナリオにおどらされていたと言うことか」
「野島さんの方はなにかわかりましたか。キャリア仲間とお会いになったんですよね」
「ああ。陣野真由の事件を洗い直してみた。警視庁に再生医療の研究者をリストアップし、監視するように依頼したのは厚生労働省の役人だった。厚生労働省と文部科学省の合同会議の記録も確認させてもらった。厚生労働省の役人も文部科学省の役人もできるだけこうした事件にはかかわりたくないと思っている。彼らは自分が担当の時に問題を起こせば、今後のキャリアに傷がつくからな。なにもなかったように隠ぺいするか、次の担当に先送りするのが彼らの出世のセオリーだ」
「そんなものですか。官僚が仕事をしないことで出世するなるなんてへんな国ですね」
山村光一は素直に感想を述べた。
「キャリアなんてそんなもんだ。ところがこの件に関しては隠ぺいどころか積極的に関与してくる役人がいた。だれだと思う」
野島源三は声をひそめて言った。
「桐生雅史だ」
「国防副大臣ですか」
「ああ。厚生労働省の事務次官から政治家に転身。初当選で副大臣なんておかしいだろ。しかも、畑違いの国防省だぞ」
「そうですね」
二人は次の調査ターゲットを桐生雅史に決めた。