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K03-02

 山村光一やまむらこういち三村美麻みむらみまの食べっぷりに驚いていた。冗談かと思ったが、彼女はパスタ三人前とピザ三枚、ローストビーフを四人前にケーキをホールで頼んだ。そのほとんどを彼女が食べた。山村光一は財布の心配をしながらそれを見つめていたため、あまり食べられなかった。

「どうしたの山村さん食べないの」

「あっ。いや。いただきます」

彼女にうながされて、取り皿に自分の分をほんの少し盛り足すのが精いっぱいだった。三村美麻がおいしそうに料理を口に運ぶ姿はあまりに幸せそうで、山村光一の心はそれだけで満たされた。

『カイラギ』が出現して以来、米も小麦も高級品だった。海の幸が失われて庶民の主食は山間地でも育つイモ類がほとんどだった。山村光一や三村美麻など、幼年期を贅沢三昧で過ごした世代にとっては、おいしいものを知っているからこそつらいものがあった。

「山村さん。ありがとう。ここのお金は私が払います。驚いたでしょう。普段はこんなんじゃないから心配しないで。私、一度でいいからお腹いっぱいおいしいものを食べてみたかった。たくさん食べて、なんだかふっ切れた気がします」

「約束なので僕が払います。こんなに気持ちよく食べる人は初めてです。なんか、うれしくなりました」

山村光一は笑顔を見て三村美麻は安心した。

「れいのお話は陣野じんの教授からうかがっております」

三村美麻はいつもの真面目な顔に戻っている。

「そうですか。危険なことになるかもしれませんが」

山村光一はまわりに目配せしながら声をひそめた。

「大丈夫ですよ。ここには盗聴器も聞き耳をたてる人もいません。そういうことのない店を選びました。一応これでもプロですので」

三村美麻はカバンを開き、中の盗聴器発見器をチラリと見せた。山村光一は映画館を出た後、彼女が真っすぐにこの店に向かわずあちらこち見て回ったのは店選びを迷っているのかと思っていたが、今その理由を知った。

「陣野教授の推測通り、軍の上層部は『カイラギ』が現れることを知っていたと思います。そうなるように警察に情報をリークし、野島のじま刑事さん達を陣野教授の研究所に踏み込ませた。アメリカ軍の書いたシナリオに従って」

「ア、アメリカ軍ですか」

山村光一はショックのあまり声をつまらせてしまう。

「アメリカ軍が陣野教授の研究をかなり以前からマークしていたのは間違いない。日本は『スパイ天国』と言われるくらい情報防衛にあまいから」

「太平洋・大西洋をふくむすべての艦隊を失うことを前提にですか」

「おそらく」

「なんのために、そんなことをする必要があるのですか」

「それがわからない。でも、だれかがそのシナリオをかいたはず。私はその人物を探します。山村さんは野島刑事と陣野教授の情報を探っていた人物を探してください」

「わかりました。やります」

山村光一は不謹慎だとは思ったが、ワクワクしている自分をおさえられなかった。その後、二人は次の行動について30分ほど打ち合わせをした。三村美麻はレストランを出て別れ際に山村光一に告げた。

「私も神崎彩菜かんざきあやなみたいなヒロインになれるかしら」

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