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M02-04

 七割ほど水没したコンクリート製の五階建ての学校の屋上に3機の『バイオメタルドール』が立っていた。裏手の小高い山には調査船を建造するドックが見える。前方には駅舎と思われる建物と周辺の商業ビルが海面に顔を出している。数羽のカモメが飛び交い、陽光を受けて水面がきらめいていた。いつ『カイラギ』が襲ってきてもおかしくない状況であるにもかかわらず、のどかで平和な雰囲気がただよっていた。

 水面はどこまでも澄んで、海中に沈んだ都市の中を魚の群れが飛んでいるかのように泳いでいた。軍の内部では『カイラギ』が出現して以来、海が浄化されていることが知れ渡っていた。『カイラギ』が資源として人間が出した廃棄物や汚染物質を回収したためと推測された。敵対する『カイラギ』がもたらした効果であるため、戦闘意欲に支障をきたすと判断され、海を見ることのできない一般人には公表されていなかった。

 園部志穂そのべしほの指示に従って久我透哉くがとうやのBMD-T07が海に飛び込む。36個の目が360度の視界を彼の脳にとどけた。

「T07。海中の索敵をおこなってください」

「T07、了解。視界クリア。海面のキラメキが気になりますが、地上にいるのと変わらないくらい遠くまで見渡せます。有視界では『カイラギ』の姿はありません。音波による探査をおこないます」

「T07。気をつけてください。ビルや廃屋のかげに隠れていることもあります」

「T07、了解です」

久我透哉は学校を背にして、グラウンドに向かって探査用の音波を放った。『カイラギ』の隠れる場所のないところを選ぶことで不意打ちを避けるためだった。

ポーン。ポーン。ポーン。

索敵の音波が海の中をこだまする。BMD-T07の頭部ゴーグルに内蔵されたAIが即座にそれを解析して視覚化する。

「T07より指令車へ。2キロメートルほど先に3体の『カイラギ』を確認できましたが、訓練には支障ありません」

「指令車よりT07へ。了解しました。索敵をオートに切り替えて、常に索敵をおこなうようにしてください」

「T07、了解」

久我透哉と園部志穂がマニュアル通りに事を運んでいると、神崎彩菜かんざきあやなの声が割り込んできた。

「安全ってことね。それじゃあ、いくよ」

神崎彩菜のBMD-A01は学校の屋上から、子供が温泉でも飛び込むかのようなスタイルでジャンプした。彼女のBMD-A01の脚部は大きなヒレに取り換えてあった。陸上用の補助脚を格納して、脚を閉じた姿はまるで巨大な人魚だった。

 彼女は尾びれとなった脚を使って海中を踊るように泳いだ。

「いい感じ。空を飛んでいるみたい」

久我透哉はやんちゃ娘らしいなと苦笑いしながらも、その泳ぎの美しさに見とれた。

「指揮車よりA01へ。勝手な行動はつつしんでください」

「わかりましたよ」

園部志穂は神崎彩菜には手こずらされそうだと思った。脚を失ってからの彼女の行動や思考は時々幼稚化することがある。気丈にふるまっていても、彼女はまだ中学生なのだ。『カイラギ』に家族を奪われて、あまえることすら許されない環境で彼女の心が無意識に行動させていると理解した。

「指揮車よりA01へ。背中の呼吸器官を利用してどこまで水中でスピードがだせるか試してください」

「まってました」

BMD-A01は海水を吹き出しながら一気に加速する。グラウンドの中を回遊する姿はまるで資料映像で見たシャチのようであった。

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