M02-01
第一研究特殊部隊、通称『一特』の部隊は新東海道を通り、水没した旧横浜市街が望める高台へと向かっていた。新東海道と言っても現在の政府には高架の道路をつくる資材も資金もなく、舗装されていない道路は、木炭車が時折り通るだけのさびしいものだった。山道を抜けると目の前に青い海が広がる。海から突き出た高層ビルの残骸に太陽の光が反射して、キラキラと輝いていた。
陣野真由、園部志穂、神崎彩菜、久我透哉、陣野修をのせた指揮車の後ろに『バイオメタルドール』を1機と整備兵をそれぞれのせた3台のトレーラーが続く。
オペレーターの園部志穂が陣野真由にたずねた。
「陣野教授。『カイラギ』はなんのために海中から資源を集めているのですか」
「彼らの外殻は特殊な生体合金でできている。体をつくることが目的の一つであることは間違いないわ。しかし、それだけでは説明がつかない点がいくつかあるわ。一つは彼らが集めている量が非常に多い点。もう一つは、放射性元素など、生体を維持するには害になるようなものまで集めている点。そしてなにより、彼らは単体ではなく組織化されて活動していると思われる。なにかをつくっていると考えるのが妥当ね」
「街や都市でしょうか。このまま彼らの勢力が広がっていくなら、私たち人類は戦いあうだけではなく、彼らとの共存を考えるべきではないのでしょうか」
「そうね。コミュニケーションがはかれるならだけど」
陣野真由は振り向いて後ろに座る陣野修をちらりと見た。陣野修は無言で窓の外を見つめている。
陣野真由は一度、陣野修の体を徹底的に調べたことがあった。身体的な特徴から遺伝子の構造、運動能力から知能指数まで、筑波生物研究所名誉教授としての立場をフルに使って、最新の機材と国内屈指のスタッフをそろえた。しかし、医師や生物学者は陣野修は推定年齢14歳の健康な人間の男の子と認定しただけだった。大脳生理学者や発達心理学者は彼の計算能力や記憶力、学習能力の高さに驚嘆した。運動生理学者は瞬発力や反射神経など運動機能が常人をはるかにしのいでいるとレポートにつづった。しかし、学者たちが集まって出した結論は自閉症患者にみられるサヴァン症候群の一種であり、あくまで人間の域を超えたものではなかった。
しかし、陣野真由はそうではないと思っていた。園部志穂をオペレーターにむかえたことで、陣野修は少しづつではあるが文字を使ったコミュニケーションがとれるようになってきていた。神崎彩菜や久我透哉などの仲間ができたことも回復への良い材料だと医師は告げた。本当にそうなのだろうか。彼女は自問した。言葉を交わすだけなら今どきのAIでも十分に可能だ。事実、陣野修がモニターに打ち込む言葉は単語の連なりでしかない。陣野修は遺伝的には宮本修である。肉体だけみれば明らかに人間だったが、思考が人間とは異なるのではないか。人間と機械とを隔てるものはなんなのか。陣野真由は思考の迷路から抜け出せずにいた。
「もうすぐ目的地に到着します」
ドライバーの声が陣野真由の思考を中断させた。