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G02-07

 星名泉ほしないずみの『バイオメタルドール』BMD-K19は旧高速道にずらりと並んだタンクローリーのダクトを順番に海中に投下した。投下されたダクトは海水をくみ上げる。セパレーターが海水と稀少資源を食べて丸々と太った『単細胞生物』をこし分けてタンクにためる。

『カイラギ』の背中の貝のような呼吸器官からのびるロートは、『サースティーウイルス』を吐き出すだけでなく、資源回収や食料源として『単細胞生物』を海にまき散らした。この『単細胞生物』もまた『カイラギ』の細胞小器官オルガネラであり『カイラギ』の体の一部と言えた。『カイラギ』には歯も口もなく、胃も腸もなかった。自分が作り出した『単細胞生物』に海中の栄養源や資源を集めさせ、海水を吸い込んで呼吸するときに一緒に取り込んだ。人間や他の動物のように生物の命を捕食する必要はなく、食性はある意味、植物と同じで自己完結していた。

 複雑な臓器を持たない『カイラギ』は成長の速度も速く、治癒の能力も高かった。致命傷をおわせるには、頭部を切り落とすか背中の呼吸器官をもぎ取るしかなかった。

 星名泉のBMD-K19がタンクローリーのダクトを投下し終えて一息つこうとした時だった。本庄卓也ほんじょうたくやのBMD-G05と山下愛やましためぐのBMD-G08が2体の『カイラギ』と交戦状態に入った。ヘッドセットが彼女に戦況を伝えてくる。星名泉は先輩たちが生きて戻ることを祈った。

「先輩。頑張ってください」

彼女はヘッドセットを通して二人を応援した。二人が2体の『カイラギ』を倒したときはうれしさのあまり『バイオメタルドール』に乗っているのも忘れて飛び跳ねて喜んでしまった。身長6メートルもの巨体がすぐそこで飛び跳ねる光景に慌てたオペレーターは、8体の『カイラギ』が二人に接近するのを見落としてしまった。

 星名泉はすぐさま二人の加勢かせいに向かうことを本部に進言したが却下された。

「戦闘経験の乏しいあなたがいっても足手まといになるだけです。回収部隊の護衛に集中してください」

星名泉はくちびるをかんで耐えるしかなかった。

「本部より、K19。戦闘型タイプと思われる『カイラギ』反応を確認。前方より真っすぐ、回収部隊に接近中です」

ヘッドセットから響いてくるオペレーターの声が緊張で震えている。

「ダクトを海中に廃棄。撤退します」

指揮車がけたたましくサイレンを鳴らし、作業員たちがあわただしく駆け回る。

「だめです。二人の帰る場所がなくなっちゃう」

星名泉が大声で叫んだが混乱する司令部にはとどかなかった。

 戦闘型の『カイラギ』が剣を抜いて指揮車に迫ってくる。戦闘態勢はおろか、退避態勢すら整わないまま、急襲を受けた指揮車はまるで、紙切れでも引き裂かれるかのように切り刻まれた。戦闘型の『カイラギ』を初めて目にした星名泉は恐怖のあまり動けなくなった。『カイラギ』は鬼のような形相で後ろに続く搬送用トレーラーを切り刻みにかかり、拳銃で応戦する整備兵をなぎ払った。『カイラギ』の分厚い外殻に銃弾はすべてはじき返され、かすり傷一つ負わせることができなかった。腕、脚、首、胴体。もはやどれがだれのものかも判別がつかない。切り刻まれた死体があちらこちらに転がり、正に地獄と化した。星名泉は彼女を見送ってくれた整備兵の無残な姿を見つけてしまう。

「こんなのダメです。こんなの」

BMD-K19は長刀をつえにして弱々しく立ち上がった。

戦闘型の『カイラギ』は振り向いてBMD-K19をにらみつけるようなそぶりをしてから、背を向けてタンクローリーに向かって飛び跳ねた。逃げ惑う作業員を切り刻み、タンクを破壊して回っている。

 そこには、すでに星名泉の意志はなかった。戦闘訓練をたたき込まれた彼女の体がBMD-K19を動かし、日本刀をかざして『カイラギ』にむかっていく。後ろから切りかかろうとする日本刀が振り下ろされる前に、振り向きざまに横腹に向けて『カイラギ』の剣が飛び出してきた。『カイラギ』の剣はBMD-K19と中に乗る星名泉の体を真っ二つに割った。BMD-K19の上半身と下半身は別々の方向に崩れ落ちた。

 たった1体の『カイラギ』によって部隊は全滅し、後には収容されることのないおびただしい数の死体が残るだけだった。

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