G02-04
「G05より本部へ。二体の解体型『カイラギ』を確認。これより排除します」
本庄卓也の『バイオメタルドール』BMD-G05を目指して、腕をだらりと下げた二体の『カイラギ』がゆっくりと向かってくる。BMD-G05は背中の日本刀を抜いてかまえた。
生体金属でできた『カイラギ』の鉤爪がBMD-G05を襲う。彼は日本刀を振って応戦した。受け損ねた鉤爪がBMD-G05の外殻を削り取る。背中の神経接続が熱を持った痛みを本庄卓也の脳に伝える。
「まだまだ」
本庄卓也は一声吠えると、激しく日本刀を振り回した。気迫に押されて『カイラギ』達が一歩退いた時だった。BMD-G05の攻撃に気を取られている一体の『カイラギ』の首元に『ウェアーバイク』に乗った山下愛のBMD-G08が背後から襲いかかった。『カイラギ』の首筋に短刀をねじ込むと、赤い血しぶきが噴きあがる。仲間がやられたことで動揺して逃げ出そうとするもう一体の『カイラギ』の首をBMD-G05の日本刀が後ろからはねた。首を失った二体の『カイラギ』は血しぶきをまき散らしながらドサリと音を立てて倒れた。
「やったね。私たち『カイラギ』をやっつけたよ」
ヘッドセットから山下愛のはずんだ声が聞こえてくる。
「ああ。俺たちだって、だてに生き延びてきたわけじゃないんだ」
本庄卓也が山下愛にそう答えて、本部に報告を入れようとした時のことだった。オペレーターの甲高い声が響いてくる。
「本部より。G05、G08へ。倉庫周辺に複数の『カイラギ』反応出現。1、2、3、4、5。いえ、6体、7体、8体。取り囲まれてます。至急、現場より離脱してください」
「逃げるぞ。メグ」
BMD-G05は前方に転がっている『ウェアーバイク』に足を入れて走り出す。BMD-G08がそれを追う。倉庫の屋根の端まであと一歩のところで、のぼってきた『カイラギ』達と鉢合わせした。BMD-G05はバランスを失いながらも反転した。二人が倉庫の中央まで戻った時には、8体の解体型の『カイラギ』が倉庫の屋根にのぼりきって彼らを取り囲んでいた。
「ちっ。やるしかないか」
二機のBMDは『ウェアーバイク』を捨て、背中合わせで倉庫の屋根に立った。二機は日本刀をかまえて態勢を整える。山下愛のBMD-G08の呼吸器官の震えが背中を合わせる本庄卓也のBMD-G05に伝わっくる。
「あのさ」
ヘッドセットから山下愛の小さな声が響いてくる。本庄卓也は自分の震えを押さえるのに精いっぱいだった。
「なんだ」
「あのね」
「だから、なんだ」
「栞がね」
山下愛の声は消え入りそうだった。
「飯野がどうした」
本庄卓也はイライラしはじめる。
「卓也くんを守ってほしいって」
山下愛はオドオドしている。
「なにいってんだ。おまえ」
本庄卓也は声をはりあげた。
「だから。栞が卓也くんが好きだって。告白するまで死なせないでって」
先ほどまで震えていた山下愛の声が怒りに満ちている。一瞬、本庄卓也の脳裏に飯野栞の笑顔が浮かんだ。彼女はクラスの中でも男子に人気ナンバーワンの美少女だった。
「あの、飯野栞がか。俺のことを」
本庄卓也は自分の顔が耳まで赤くなっていくのを感じた。震えが止まり、気持ちが高まっていく。
「もう。鈍いんだから。だから卓也はここでは死ねないの」
「そうだな。やるっきゃないよな」
「そうそう。やるっきゃないの」
山下愛は本庄卓也の言葉に合わせて言った。
8体の『カイラギ』がゆっくりと距離をつめながらにじり寄ってくる。本庄卓也はやつらに向かって吠えた。
「うりゃあ」




