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G02-03

 山下愛やましためぐはBMD-G08に乗り込んだ。体重を左右に振りながら『ウェアーバイク』を操って、本庄卓也ほんじょうたくやのBMD-G05の後を追う。道路の状態は思ったよりも良くて比較的平坦な道が続いた。

 ここ数回の出動は『カイラギ』との激しい戦闘で、各部隊で多数の戦死者が出していると聞いていた。今朝のテレビの占いは『大凶』だった。いつも明るく振る舞っていたが、毎回、出撃して『バイオメタルドール』の中で一人になると、今日死ぬかもしれないと言う強い不安に襲われる。明日の朝が確実におとずれると言うありきたりの日常が彼女たちにはなかった。山下愛は前を走る本庄卓也ほんじょうたくやのBMD-G05の後姿を見つめてつぶやいた。

「なんであんなのがいいんだろう。ガサツで意地悪なのに」


 彼女は昨日のことを思い出していた。午前中の授業を終えるとクラスメイトの飯野栞いいのしおりがお弁当を一緒に食べないかと誘ってきた。二人は校庭の木陰でお弁当を広げた。

 海面の上昇で平野を失い『カイラギ』の出現で海を奪われた食生活は非常に貧しいものだった。祖先が何百年にもわたって手入れをし、守ってきた肥よくな田畑のほとんどがあっけなく海に水没した。漁業は壊滅し、交易を閉ざされたことでバラエティ豊かな輸入食料はスーパーから消え失せた。

 弁当箱を開けるとイモや雑穀と合わせてかさを増したご飯の上に小さな川魚を干したものがのっかっていた。色合いの乏しいお弁当は、一昔前の女子中学生ならゴミ箱に放り投げてしまうくらいの粗末なものだった。

「食べる」

飯野栞が赤く熟したかわいいプチトマトを差し出した。

「すごい。トマトじゃん。どうしたの」

「へへ。学校の裏山で見つけたんだ。昔、鳥が運んだ種が野生化して自生したものみたい。内緒だよ」

「へえー。生き物って強いんだね」

「ワイルドトマトって言うらしいよ」

二人はプチトマトを口にふくんでお互いの顔を見つめてにんまりとした。

「あまーい」

「うん。あまいね」

それだけで、二人は幸せな気分になった。飯野栞が急に真面目な顔をして告げた。

「メグは本庄くんと幼馴染だよね」

「そうだけど」

「あのね。私、明日の出動から戻れたら、本庄くんに告白しようと思うの」

山下愛はあわてて声をあげる。

「えっ。なに。本庄くんて卓也のこと。うっそ。顔はまあ悪くはないけど、ガサツだし、意地悪だよ。あいつ」

「そう。良かった。メグにその気がなくって。私、本気だよ」

「そうなんだ。栞はかわいいし、うん。きっとうまくいくよ。私が保証する」

いつも通り明るく答えながらも山下愛の心は沈んでいく。

「ありがとう。メグはさ。明日の出撃。本庄くんと一緒だよね。彼が無茶しないように守ってあげて欲しいの」

「大丈夫。大丈夫。ああ見えて、あいつタフだから。殺しても死なないよ」

「そう。私、明日の出動。生きて帰れるかな」

「なに言ってんのよ。告白する勇気があるんだから簡単に死ぬわけないじゃん。いつもみたいにバーッていって『カイラギ』の首取って帰ってきなよ」

「うん。メグに話せてよかった」

その後、二人は黙って弁当を食べた。


「G08。遅れているぞ」

ヘッドセットから前をいく本庄卓也の声が響いてきて、山下愛はわれにかえった。

「G05。先行しすぎよ」

「本部より、G05、G08へ。前方、倉庫の陰に解体型『カイラギ』2体。排除してください」

「G05。了解」

「G08。了解です」

二機の『バイオメタルドール』は『ウェアーバイク』で欄干を飛び越えて、巨大な倉庫の屋根へと飛んだ。

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