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A01-01

 旧新宿副都心を横断するように建設されたオリンピック記念道路に神崎彩菜かんざきあやなの搭乗する『バイオメタルドール』BMD-A01は立っていた。昼間だと言うのに辺りはうす暗く、ぶあつい雲に覆われた空から激しく雨が降り注いでいる。高架の下では海が荒れ狂い、時折、波しぶきが道路までおそってきていた。

 雷光らいこうに照らしだされた神崎彩菜のBMD-A01の姿は、まるで巨大な忍者そのものだった。身長6メートルを超える巨人が高速道路の欄干を蹴ってビルからビルへと飛び移つる。右手に持った1メートル弱の短刀で、高層ビルにはりついている『カイラギ』の首をかっていた。

 放置されて時間がたち、塩水にさらされたビルの外壁はもろく、BMD-A01が蹴る度にパラパラと崩れ落ち、波間に消えていった。ほんの少しでも着地点がずれれば、壁を突き破って廃ビルの中に飛び込んでしまうだろう。その正確で俊敏な動きは、関節の動きに制約された旧世代のロボット兵器とは大きく異なり、複雑で動物的だった。

 女性オペレーター、園部志穂そのべしほの興奮した声が響いてくる。

「A01。状況を報告してください」

「解体専門の雑魚ばっかり。いったい何匹いるの」

BMD-A01は高層ビルの上層部に向けて、左腕に取りつけられたアンカーを射出しながら叫んだ。ヒュルルルルと音をなしてワイヤーがそれに続く。神崎彩菜はアンカーがビルの外壁に突き刺さると同時に、着地点を確かめもせずに巻きあげスイッチを入れた。

 BMD-A01の巨大な体は弧を描いて宙を舞った。BMD-A01は高層ビルにぶつかる直前に体の向きを反転し、両脚で衝撃を吸収しながら側壁に着地した。そのままビルを横切るように壁を走りぬけながら短刀を腰に戻して、背中に背負った3メートルを超える巨大な日本刀を引き抜いた。刃先が壁にはりつている『カイラギ』の首をはねる。首から赤い血しぶきがはじけ飛ぶ。BMD-A01はそのままの勢いを利用して、アンカーを爆破して宙に舞い、隣接するビルの屋上に降り立った。

「解体屋13体を撃破。『サースティーウイルス』の放出反応なし。『フェイクスキン』溶解ようかいまで、残り時間37分。帰投します」

 彼女が報告を入れた直後に、目の前の高層ビルが崩壊を始めた。けたたましい音を発しながら下層階から順に潰れていく。荘厳そうごんな光景が目の前で展開していたが、それを眺めている余裕はなかった。BMD-A01はビルの屋上から屋上へと飛び跳ねながら退避した。500メートルほど離れて振り向くと、ビルの上層部が海に飲み込まれているところだった。巨大な水しぶきが巻きあがり、彼女のBMD-A01に滝となって降り注いだ。

「A01。大丈夫ですか」

園部志穂の声がヘッドセットから響いてくる。神崎彩菜はディスプレーの時間を確認しながら言った。

「問題ありません。崩壊地点を迂回して戻るので時間に余裕はありませんが。回収ポイントを前進できませんか」

「ドローンより、崩壊に巻き込まれた『カイラギ』の『サースティーウイルス』放出を確認。回収ポイントは現状位置、固定です」

園部志穂の回答に神崎彩菜は顔をしかめた。

「はいはい。了解しました。A01、これより迂回路にて帰投します」

BMD-A01は再びビルの上を飛び跳ねるように走り出した。

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