K02-05
「『サースティーウイルス』は人間が『カイラギ』になるためのスイッチみたいなもの。人間の遺伝子の中に最初から組み込まれていたものが、細胞小器官として表に現れただけ。『カイラギ』の背中の呼吸器官はウイルスを増殖して放出する器官でもあるわ」
陣野真由は一息ついて、白衣のポケットからタバコを取り出した。野島源三はポケットからライターを取り出して、彼女がくわえたタバコに火をつけた。ついでに自分も一本取り出して火をつける。陣野真由はタバコを深く吸って、白い煙をゆっくりとはき出してから続けた。
「細胞の中の『サースティーウイルス』を活性化させることで、人間はもともと『カイラギ』を作り出す能力を持っていたのよ。世界中にある『鬼』や『悪魔』の伝説は、たまたま運悪く活性化した『サースティーウイルス』で人間が『カイラギ』になったものだと思う。『カイラギ』には人間の戦闘能力を何倍にも高める兵器としての役割と、パイロットを蘇生する能力があった」
「教授は宮本修くんの遺伝子を使って『カイラギ』を作り出し、彼の遺体を入れて蘇生するつもりだったのですね」
「ええ、その通り。あなた達が踏み込んでこなければ」
陣野真由は両手で頭を抱え込んだ。
「あなた達が踏みこむ直前に、私は修の細胞から培養した『カイラギ』の胚、簡単に言うと分化したばかりの細胞の塊を用水路に捨てたわ。修の遺体はその後、焼かれて私の研究はそこで終わるはずだった」
「しかし、『カイラギ』が現れて状況が一変したと言うことですか」
「そう。後になって『カイラギ』の胚は汚泥の中で何日も死なずに生き続け、増殖できることがわかった」
野島源三はポケットから携帯灰皿を取り出してタバコをもみ消し、陣野真由に差し出した。彼女はその中に吸い殻を入れた。
「陣野修はあなたがつくった『カイラギ』の中で育ったクローンと言うことですか」
「はい」
横で話を聞いていた山村光一の顔が青ざめていく。
「それじぁあ。『カイラギ』の中には『サースティーウイルス』に感染して海に消えた人間がのっていると言うことですか。子供たちは『バイオメタルドール』で人間と戦っているのですか」
「海に消えた人間の多くが大人だった。大人が『カイラギ』の体内に入ると侵食されて、やがて一体化してままう。『バイオメタルドール』と基本的には同じこと。人間の形をしたものが中にのっていないのがせめてもの救い。ただ、子供がのった場合は、『フェイクスキン』なしでも侵食されない例外が存在すると言うこと」
「陣野修がそうだと」
野島源三の質問に陣野真由はうなずいた。
「ええ」
山村光一の顔がさらに青ざめる。
「『サースティーウイルス』に感染して海に消えた人間は、世界中で何千万人、場合によっては数億人いると言われてる。それだけの数の『カイラギ』が世界中の海にいると言うことですか」
山村光一は机に手をつき弱々しい声で言った。
「我々人類は『カイラギ』に勝てるのですか」




