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バイオメタルドール  作者: 坂井ひいろ


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K02-02

 木造二階建ての古びたアパートの和室。柊木ひいらぎ中学校2年B組担任の麻宮五鈴あさみやいすずは中学生時代の卒業アルバムをめくっていた。彼女が中学二年生の時にクラスの男の子が、夏休みに父親と海に出かけて溺れた。父親がそれを助けにいって、結局二人とも溺死してしまった。父親の遺体は見つからなかったが、彼女の同級生だった男の子の遺体は数時間後に発見された。

 祖父母のいない彼女にとって、身近な人の死と向き合う初めての体験だった。クラスメイトと葬儀に参列した彼女は、男の子の遺体の前で泣き崩れた。その男の子は彼女がはじめて恋をした相手だった。

「どうして、今まで気づかなかったのだろうか」

麻宮五鈴はアルバムの中でほほ笑む男の子の写真を見てがく然とした。

 彼女の記憶が鮮明になっていく。いつも彼女に笑顔で接してくれた彼。告白した時の心臓の高鳴り。はじめての遊園地でのデート。クラスメイトのいない場所で、手をつないで歩くだけで幸せだった。二人でソフトクリームを食べ、ジェットコースターに乗った。大観覧車で沈みゆく夕日を眺めた。帰りに神社によってお守りを買った。

 宮本修みやもとしゅう、それが彼の名前だった。そしてアルバムの中でほほ笑む男の子の顔は陣野修じんのしゅう、そのものだった。


 麻宮五鈴の教え子である陣野修は言葉が話せなかった。感情表現に乏しい子で、笑った顔を見たことがなかった。陣野修じんのしゅうが彼女のクラスに転校してきたとき、彼の顔を見て違和感とも不安とも思える心のざわつきを感じたことを思い出した。

「どうして、今まで気づかなかったのだろうか」

彼女は同じ言葉をもう一度口にした。


 昼間、八王子警察署の刑事、山村光一やまむらこういちが学校にたずねてきた。山村刑事は陣野修の日常について質問した。彼女は数学の難問の一つである『リーマン予想』を解いてしまったエピソードを語たり、陣野修は数学の天才だと話した。陣野修をパイロットにしておくのは、彼になにかあったら人類にとっての大損失だと力説した。

 彼女がたずねられるままに、陣野修についてひととおり話した後だった。山村刑事が彼女の顔を見すえて言った。

「つかぬことをおうかがいますが、麻宮さんが中学生の頃、クラスに宮本修くんと言う名の同級生がいませんでしたか。麻宮さんが中学二年生の時に海の事故でなくなったのですが。宮本修くんの母親は、陣野真由じんのまゆと言いまして、筑波生物研究所で名誉教授をしています。修くんが亡くなった時に、父親もなくなりまして、彼女は『宮本』の姓から旧姓の『陣野』に戻しています。陣野修は陣野真由の養子でして、名前が同じ『修』なのは亡くなった息子さんのお名前を彼につけたのではないかと思っているのですが」


 宮本修の名前を聞いた麻宮五鈴は急にめまいとき気をもよおし、山村刑事との話はそこで終わっていた。彼女はアパートに帰って、アルバムをみることで消え去った記憶を確認したのだった。彼女は電話の受話器を取り、ダイヤルを回した。

 かつては当たり前だったスマートフォンは資源不足で基地局の維持ができなくなり、民間では数年前から旧式のダイヤル式有線電話に戻っていた。ダイヤルが戻るわずかな時間がもどかしい。ようやく、電話のコールが鳴りだした。

「はい。八王子警察署、刑事課です」

「山村刑事さんはいらっしゃいますか」

「わたしが山村です」

「麻宮です。麻宮五鈴です。昼間お話しました」

「あっ。はい。麻宮さんですね。お体は大丈夫でしたか」

「ええ。あの時は失礼しました。もう、すっかり大丈夫です」

「そうですか。なにか思い出されましたか」

「はい。『陣野修』は『宮本修』です。間違いありません」

「は。えっ。宮本修は十年前に亡くなったはずで」

「はい。私は葬儀にも出ました。ですが、『陣野修』は『宮本修』です。それを示す証拠があります」

「証拠ですか」

「ここに『宮本修』の髪の毛があります。これを遺伝子鑑定すればわかります」

麻宮五鈴はアルバムの中にはさまれていたお守り袋を開き、中から『宮本修』の髪の毛をつまみだした。

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