K02-01
「野島さん。われわれの力だけで軍の秘密を暴くなんて無理ですよ」
山村光一は前方を見つめたまま、公園のベンチの横に座る野島源三に言った。木陰をわたる風が頬に触れてここちいい。日曜日ののんびりとした午後だった。
少し離れたところにスケート用のハーフパイプがあり、陣野修、神崎彩菜、久我透哉がインラインスケートを使って戦闘練習をしていた。彼らが『バイオメタルドール』のパイロットだと知らなければ、中学生が集まって遊んでいるようにしか見えないだろう。野島源三も彼らを見つめたまま話す。
「なあ、山村。おまえ、『バイオメタルドール』がなんのために旧都心まで出向いて行って戦っているか知っているか」
「それは『カイラギ』が内陸まで攻めてきて『サースティーウイルス』をまき散らすのを防ぐためです」
「じゃあ、『バイオメタルドール』をのせた大型トレーラーの後をぞろぞろとくっついてついていくタンクローリーの列はなんだ」
「人類の文明が作り出し、海に沈んだ大量のガレキ、都市鉱山から海水に溶け込む希少金属などバクテリアを使ってあつめているんじゃないですか」
「ああ。そうだ。かつては世界中の資源が都市に集まり、今とは比べ物にならないようなぜいたくな暮らしをしてた」
「そうですね。あれからまだ、十年もたってないんですよね」
山村光一はハーフパイプを飛び交う少年少女を目で追って続ける。
「そのころ、僕はまだ生意気盛りの高校生でした」
「おまえの話はいい」
野島源三は山村光一が話を逸らすのを制して続けた。
「じゃあ、『カイラギ』はそこでなにをしているんだ」
「解体型の『カイラギ』がビルなどの建造物を破壊し、戦闘型の『カイラギ』がそれを守っているんじゃないんですか」
「なんのために」
「人間と同じで資源をあつめているんですよ」
「なんのために。『カイラギ』に資源が必要か」
「そりゃあ、海はもうやつらのものだから、海底に巨大都市でも築くつもりじゃないんですか」
「なあ、山村。俺は思うんだが、『カイラギ』はもうこれ以上、人類を攻めようとは思っていないんじゃないか。やつらが欲しいのは資源で、人類なんてどうでもいいんじゃないか」
「そう言われると、やつら内陸にはあがってこないですね」
「そうだろ。やつらの資源を横取りしているのが人間なんじゃないか。『バイオメタルドール』を使って」
「もともとは人間が集めた資源ですが」
「やつらの体つきをみると素人の俺でも水生生物には見えない。大きさこそ違うが、体形はほとんど人間そのものだ。両生類的な特徴はあるが、あれはどう見たって泳ぎが得意な生物とは思えない」
「カニとかエビが進化したのかと勝手に思ってましたが。ほら、恐竜が絶滅しなかったら人間みたいな体つきになるって。恐竜博でみたような気がします」
「俺はな。山村、あれは軍が作った生物兵器じゃないかと思っているんだ」
「『カイラギ』がですか」
「ああ。『カイラギ』と戦うためにやつらの遺伝子情報を使って『バイオメタルドール』を作ったのではなく『バイオメタルドール』を作る過程で生まれたのが『カイラギ』だと思っている。地球上のどんな生物の進化の系統図にも当てはまらない生物が、突然、現れるなんてありえんだろ」
「アニメの世界じゃないですか。野島さんて、顔に似合わずオタクなんですね」
山村光一は驚きを顔に浮かべながら、隣に座る野島源三を見た。
「バカ。顔は関係ない。それにこれは現実だ」
野島源三は少し顔を赤くした。
「そんなの探ってたら、僕たち軍に消されるんじゃないですが」
「そうかもな。山村、おまえ、おりるか」
「いえ、やらせていただきます」
山村光一は子供のように瞳を輝かせて答えた。