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はじめに。

 西暦2091年から2093年のわずか3年間で地球の全体の平均気温は6℃も上昇した。温室効果ガスによる地球温暖化が原因なのか、太陽活動の活発化がもたらした自然現象が原因なのかは判別できなかった。気温の上昇により地球上の氷河はすべてとけ、海水の膨張などで地球の海水面は人類の予測に反して60メートル以上も上昇した。世界中で激しい嵐がまきおこり、たびたびおそいくる大津波に人類の約7パーセントが海にさらわれた。急激な気象変動にほんろうされ、対策もままならないまま、海に隣接した各国の主要都市はことごとく水面下に没して放置された。海流は大きく乱れ、海の生態系は崩壊した。

 西暦2094年以降、気象は徐々に安定してきていた。しかし、地球の表面温度はさがることなく、膨張した海水はもとにもどることはなかった。都市を追われた人々は、内陸部に新しい港と都市の再建を目指して活動をはじめた。人類はようやく平穏な日常を取り戻しはじめた。

 西暦2097年7月26日、海から突如として現れた人型巨大生物『カイラギ』によって、世界各国の海軍部隊は一夜にして壊滅した。人類の攻撃は有効で彼らを傷つけ、死滅させることができた。しかし、死とともに彼らが放つ『サースティーウイルス』は自爆よりたちが悪かった。閉鎖された環境で戦う船舶のクルーはウイルス感染によって自らの身を海に投じた。翌朝には、彼らとの戦闘が海上から陸へと移った。新しく築いたばかりの都市は瞬く間に戦場と化した。『カイラギ』達の死骸が街のあちらこちらに散乱し、避難の猶予を与えられなかった人々は次々と『サースティーウイルス』に空気感染した。

 『サースティーウイルス』に感染した者はみな同じように高熱を発し、のどの渇きを訴えてやがて意識を失った。彼らは夜になると一斉に目覚めて人間とは思えないような怪力で、心配する周囲の人々を振り払って海へと向かった。水没した都市へと続く街道は、ゾンビ映画のように集まってくる感染者の列で満たされた。彼らは無言で歩き海の中へと消えた。

 『カイラギ』が宇宙からの侵略者なのか、どこかの国の生物兵器の暴走なのか、環境破壊が生み出した突然変異なのかは謎であった。彼らの細胞には地球上の生物と同じDNAが存在していたが、進化の系統図のいずれにも該当しなかった。硬質化した魚のうろこの様な皮膚をもつことから『カイラギ』と名づけられた。身長は6から7メートルと巨大だったが、体形は人間にそっくりだった。2本の長い腕、5本の指を持つ手、そして二足歩行で歩く脚。見た目はまるで甲冑を身にまとった日本の武士のようだった。しかし、内部の構造は人間と大きく異なり、頭部には人間と同じ位置に目と鼻はあったが口がなかった。のどや肺も存在せず、代わりに背中に二枚貝の様なものが二つ、悪魔の羽のようについていた。

 各国政府は、言語学者、生物学者、コンピューター技師や音楽家などありとあらゆる専門家を集めてチームを編成し、彼らとコミュニケーションを図ろうと模索した。さまざまなミッションが実行されたが、そのいずれも失敗に終わった。わかったことはただ一つ、彼らが人類の敵であると言うことだった。

 西暦2099年現在、海という生存圏と経済圏を失った人類の生活レベルは19世紀の暮らしまで後退した。船での貿易手段を失ったことで、近代的な生活を支えていた物資やエネルギーの流通は閉ざされた。膨大な水を必要とする火力発電所や原子力発電所は放棄された。海岸沿いの巨大コンビナートは廃虚と化した。海底ケーブルは寸断され地球規模のネットワークは過去のものとなった。生産設備も情報も失った各国の経済活動は破綻し、金融恐慌で莫大な富と財産が単なる紙切れとなった。

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