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第82話「あなたは……!」

遅れました

 本選までは一週間、そんな日頃になって、ようやく落ち着いて訓練できそうな様子になったケセランパサラン(仮)を連れて師匠の元を訪れることができた。それまでは孵化に立ち会ったアルト以外の魔物をとびきり恐れ、フォレストキング・ディアーの気配なんか森に近付いた時点で震えが止まらないくらいに怖がっていた。

 師匠は初めて目にするモフモフの塊に鼻息荒くしていたが、まだ人に慣れない赤ちゃんなのでお触り禁止令を下すと、彼は一気に表情を暗くしてその日一日はローテンションな授業だった。

 授業内容はケセランパサラン(仮)の能力を開示してもらって、それを見て成長バランスを考え、将来どんなタイプになるのかの考察、魔法の習熟度の確認……だったのだが、生まれたばかりで寄り添って教える親がいなかったせいか、技能のわりに何も出来ない。

 結果、私が毎日教えこむことになり、翌日からの授業時間を削ることに。少し残念で、でも楽しみな気持ちもあって、私は複雑な笑みを浮かべたのだった。


 翌朝、もう既に誰もいなくなった宿の一室で、私はケセランパサラン(仮)を起こす。つつくと目を覚ましたのか、ふわふわと飛びながら指にじゃれついてきて可愛い。

 すっかり目が覚めたケセランパサラン(仮)を連れて、私は師匠の元へと急いだ。


 師匠の元、といっても、私は今日は授業を受けない。ただ森の一角にある木の生えない広めのスペースを借りて、そこで従魔に魔法を教えるのだ。

 ケセランパサラン(仮)はまだ名付けの儀式もしていないので、それらもここで済ませるつもりである。

「出ておいで」

 髪に埋まっていたもふもふを呼び出すと、それは少し絡まりながらもどうにか顔を出す。そのままもそもそと動きながら肩と腕を伝って手のひらにちょこんと乗った。小刻みに震えながら手のひらの上で転がっている。

 そんなケセランパサラン(仮)に、私は魔力を含んだ声で語りかける。

「あなたに名前をつけてあげる」

 私の魔力に反応してか、かれも魔力を放出する。下手で見様見真似、気合いでどうにかしているような技術だが、その必死さが可愛くて笑みが零れた。

「……あなたの名前は、くろ助!」

 名前を告げると、気に入ったのか気に入っていないのかよく分からないがぶるぶると激しく震え始める。でもそのまま名前を受け入れたようで魔力が定着し、嬉しそうに飛び跳ね始めた。

 正直、この子を見た瞬間に前世のアニメ映画に出てきた似たような生き物を思い出して、それにかなり引っ張られた名前だと思うが、ピッタリだと思う。だってそっくりだもん。

 ステータスを見れば、名前がしっかり反映されていた。くろ助。種族は魔人族、レベルは三のオス、魔法型に成長しそうな、充実した魔法技能。

「アルトはあなたの……そうね、お兄さんみたいなものかな?」

 横から覗き込むアルトを改めて紹介すると、くろ助はアルトに向かって飛んでいき、顔にダイブした。私のサラサラの髪の毛と反対にもふもふの毛をもつアルトの頭にもぐったくろ助は安心したようにその場で落ち着く。

 アルトは複雑な面持ちだが、弟分ができたことを喜んでいるのが契約のパスから伝わってきて、私はくすりと笑う。

「クロスケ、おれが人化の魔法を教えて、はやくご主人様と話せるようにしてあげるね」

 アルトがそう告げると、くろ助の魔力が爆発的に高まった。アルトの言葉でやる気MAXになったみたい。やる気を出させるのが上手いな、と思いながら、私は今日の訓練の内容を考える。

 まず、魔力操作は絶対に最初に覚えさせる。魔法系の種族のはずだから、エルフの血には適わなくともかなりの適正はあるはずで、感覚的にできる部分もあるだろう。

 それでも中途半端にやると、魔物は危ない。魔物は人間やエルフと違う魔力構造で、感情に直結している。しっかり自身の魔力を掌握してもらわないと、感情に流されて自滅しかねない。

 くろ助は結構頭脳型の魔物の気がするので感情に流されにくいかもしれないが、ここは手を抜きたくなかった。

「反復練習がいちばん。生まれたばかりのくろ助ならきっと、すぐに上手になれるよ!」

 私が両拳を握り締めて激励して、それから授業を始める。まずは私が魔力を流して感覚を覚えさせて、一人で出来るようになってもらうことを繰り返す……おじい様との訓練を思い出して。


「クロスケ、おれが教える人化の魔法は、固有技能として持つことが多いんだ。おまえも()()()()将来発現すると思うけど、おれがそれを早める手助けをする。わかった?」

 アルトが珍しく長く喋るとくろ助が返答したのかそのまま会話が続いていく。私にはふんわりと意思しか伝わってこないが、従魔である同士、何らかの繋がりから会話ができるのだろうか。少し羨ましく思いながら、ふたりの様子を眺める。

 私が執り行う訓練の合間にある休憩時間にくろ助が自主的にアルトに聞きに行ったのがことの始まりだった。魔力操作は難しいけど、理論とやり方とコツを教えてもらってモチベーションを上げたい、とくろ助が強請った(アルト談)ので、普通に休ませてあげるために授業を削って時間を作ってあげた。

 そうしたところ、知能はかなり高いのだろう、くろ助はアルトとの会話を成り立たせるだけでなく、アルトが話すちょっと難しい人化魔法の原理を理解しているらしく、ちょいちょい質問や確認を交えながら説明を受けているようなのだ。

 アルトの一人芝居……のわけもなく、私は勉強になるなぁと思いながらふたりの質疑応答を聞き、そして自分なりにまとめていく。腕輪のメモ機能にひたすらまとめ、学院長がアクセスすることを考えながら「人に伝える文」を書いた。

 そうしていると、ぴこん、と音がしてウィンドウ上部の左端に「閲覧中」の表示が現れる。あ、いま見てる……と思い一瞬手が止まるが、直ぐにメモや補足、自分なりの考えを書く手を進めた。

 知能の高いタイプの魔物は夜空妖蝶やらと見てきたが、この内容のほとんどをアルトが話していると教えたらどんな反応をするだろうか、と学院長の若々しい顔を思い浮かべると、イヤーカフスのことが頭に浮かぶ。

 結局ほとんど使ってないなと思いながら、尖った長い耳についたカフスを撫でて、アルトたちの勉強風景をじっと見た。

 言葉で説明できそうなのはここまで。学院長の閲覧表示が消えるまで、私はぼーっと座っていた。あたたかい従魔との繋がりが、使い魔との繋がりが心地よくて、気付いたら七割くらい眠ってしまっていたことはアルトたちには秘密だ。





 そんなこんなで一週間はすぐに過ぎた。私は従魔の訓練時間が足りなかったが、他のみんなはできる限りのことはしてきたみたい。控え室に向かえば、前回より圧倒的に少ない人数しかいなくて、あの予選でここまで絞られるのかと目を細めた。

 順番は前回と違って、近距離部門が魔法より先にある。なので私がいるのは近距離部門がなのだが、そこにいる者はそれぞれ個性豊かで、ライライのように一見華奢に見える者や見るからに力の強そうな大男、この国の軍人さんもいる。

 軍人さんは全身ごついアーマーに包まれ、その質は街のそこら中にいる軍人たちよりも上等で、たしか部隊長クラスの証のはず。アルトでもふった軍人さんと同じ……

 ある日のことを思い返していると、鎧の奥の瞳と目が合い、激しい既視感に襲われた。

「あ、あの」

 くぐもった声が投げかけられて、それにも聞き覚えがあった私は思わず「え、はい」と返事をした。声の主は頭部の武装を取り外して、少し汗の滲む健康的な肌を外気に晒した。

「君も参加していたんだね」

 爽やかな笑顔で告げた彼は、正真正銘、街で出会ったもふもふ好きの部隊長さん。動物や魔物にとって激マズな魔力の持ち主。傍に控えていたアルトが縮こまり、くろ助が髪の奥に潜ったのを感じながら私は頷いた。

 彼は国軍第四隊部隊長、私が次の試合で勝てば闘うことになる、シード権の持ち主であった。

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