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第81話「結果を報告するのです」

いつもの半分くらいの文量です

 皆散って、ライライは羽根のように軽く思える新しい身体で駆けた。向かう先はもちろん道場、ライライを鍛えてくれた師範代へ、本選出場を決めたことを報告しに来ていた。

 師範代は祭りごとには興味がないしきっとまだ大会の結果は知らないだろうと思って、勝てたことを報告したら喜ぶかなあ、と考える彼の表情には喜色が滲み出ていた。

 道場が開かれる時間丁度に門をくぐり抜けたライライはゆっくり足を止め、深呼吸して息を整えてから建物内に足を踏み入れる。勝ったことに浮かれて基本的なことにボロが出ないように……心を落ち着かせた。

 のだが、極力音を立てないようにと気をつけて開けた引き戸の先には仁王立ちの師範代が待ち構えていて、予想していなかった状況に思わずフリーズした。

「本選出場おめでとうございます」

 固まるライライの肩に手を置いた師範代は、青い目を細めて僅かに口元を柔らげると、それから直ぐに表情を引き締める。

 もし師範代が予選を見ていたらこのまま改善点などを伝えられるのか、と身構えるライライだったが、師範代はそんな彼の気持ちも知らずに建物の奥に消えていった。

 知らず知らずのうちに深く息を吐いたライライは、服の奥に隠した人間らしからぬ色彩を思い浮かべ「師範代は気付いているのでしょうか」と呟く。

 そんな彼を押しのけるようにして毎朝一番に道場に来る少年が通り抜けると、その背を追うようにしてノロノロと動き始めた。高揚感を失うと、一時治まっていたムズムズした嫌な感覚が這い上がってきて、ライライの足取りは更に重くなった。


 師範代が待つ格技場、道場の中心部では泊まり込みの弟子と先程通り過ぎた少年とが既に訓練を始めていた。珍しく早く来た「グール」が大会に出たことを知っている者は、彼のぱっとしない顔色を見て負けたのだと予測し、囃し立てる。

 師範代はそれを無感情に見届けるが、きっと訓練中にこんな態度をとっているのだから後で叱られるのだろうと平坦な気持ちで思った。イラつきはしなかった。

 無言で訓練に参加すれば、明らかに動きの変わっているライライに気付く者は気付き、そのうえで怪訝な目を向ける。微妙な居心地の悪さに更に表情は暗くなるが、腰に巻き付けるようにして触手を出せば楽になった。そういう仕様なのだろうと彼は納得した。

 するとその時、一番身体の大きな弟子がライライの前に立ち投げ飛ばした。

「っ」

 背が床につく前に体を捻って強引に体勢を立て直すと、ライライの服を掴んだままの男は歪んだ笑みを浮かべた。

「なんだよ、ずっと騙してたのか」

 男はライライの服の袖を握り締めていたために、ライライの変色した肌が露出してしまっていた。騙していたとは心外な、と思っていると、腕の様子を見た一部の弟子が躊躇いがちに触れてきた。

 動かないでいると、師範代が近付いてくる。

「手を離してやりなさい。彼は騙してなどいません」

 優しい声色で、彼は告げた。彼は手で周りを押し避けるようにしてライライから引き剥がすと、彼の肩に触れた。

「勝つための手段ですね」

 確認するように、念を押すように……そのような口調で、ライライは押し殺した声で肯定した。

「……勝つためには、仕方なかったのです」

 だがそこでいい顔をしないのが性格の悪い男だ。嫌な顔をした弟子の数人は「どうして最初は人だったと思ったのだか」と師範代を疑うかのような発言をしてみせた。それにはライライも嫌ぁな表情に変わるが、師範代は返答しない。

「魔物族か?」

「デミヒューマの可能性もあんじゃね」

 魔物族は魔人族の差別用語だが、この国では差別が悪い風潮とされていないのか誰も変な顔はしない。そのうえライライの種族を確定する発言がないため大会を見に行った者もいなかったようだ。

 師範代はそのまま立ち去ると、関係ないとばかりに傍観者たちは訓練を再開し、逆に突っかかってきていた男達はライライを取り囲む。悲しいことに……流石に慣れない体でこの人数は勝てる自信がなかった。

「亜人、俺らに勝ったら同じ弟子でいてやるよ」

 身体の大きな男が見下ろしながら言って、襲い掛かる。大男の振り下ろした腕は直線的な動きだったため避けるが、他方から脚がくる。それをギリギリで避けるも今度は横っ腹に拳がめり込んだ。

 あ、亜人も差別用語だ……そんなことをぼんやり思いながら、ライライは応戦した。結局負けるとしても戦えば、師範代に呆れられることはないと思いたかった。

 修行よりデミヒューマと化した時の方が正直伸びがあったし、幼少から通っていたというわけでもなく思い入れは少ないが、師範代の美しい筋肉を想うと尊敬の気持ちが湧き上がる。


 最終的に、負けたのはライライだった。それで師範代が彼を出禁にすることはなかったが、ライライはデミヒューマ特有の治癒能力の高さで治まった鼻血の跡を拭きながらその場を去った。

 理由はただ一つ、このまま居座ってもかっこ悪いから!!

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