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第80話「そんなことってある?」

 控え室に戻ってきたライライを見る目は様々だった。魔物を取り込んだ瞬間を見ていたので、乗っ取られていないかと警戒する者やピンピンしている彼の様子に度肝を抜かれている者、逆に一瞥をくれただけで直ぐに興味を失った者……。

 かくいう私は赤の瞳をすっと細めて彼を見ていた。デミヒューマ……何をどうしてそうなったのかはわからないし、実際にデミヒューマになったのか、それとも寄生されている状態なだけなのか、見極める必要がある。

 まず私と目が合った彼は慌て始め、青い髪を揺らしてこちらに駆けてきた。目の前で止まると腰を直角に折って「ごめんなさいセルカ!」と謝ったのだった。

 ムッとしながらもそれを聞き届けると、彼は弁解のつもりか明らかにしょんぼりとした声色で話し始めた。

「セルカは道場での様子を覚えていると思うのです……あれはクリーチャーさんに助けて貰って出来ていた動きで、ライライが強くなったわけではなかったのです」

「うん、ちょっとクリーチャー見えてたし、それはわかってるよ」

「そ、それで、この大会では魔道具での強化は認められていても従魔との共闘では近接部門に参加出来ないと聞いたのです」

 話しているライライの口元を見れば、その中にある歯は全て尖った……牙というべきものになっていた。そんなところまで変わっていたら、魔物と分離するとかは出来なさそう……。

「どうしてもつ、強くなりたくて。大丈夫なのですよ?あくまでライライをベースに指定した魔物の合成なのです」

 ライライはどうにか説明を試みているようだが、正直今の言葉を聞いた私は逆に落ち着かない。ライライ馬鹿なんじゃないの!?テイマー系の高位スキルである魔物の合成を持っていたこと以上に、それで人間である自分と自身の従魔を合成しようと思うその思考回路はかなり危険が危ない!!!

 でも、見た感じライライの意識はちゃんとしている。説明の言葉に偽りはないのだろう。頭を上げたライライはその光のない瞳に珍しく涙をたたえていた。

 それを見てそこまで思い詰めさせてしまっていたかとたじろげば、私の肩に手を置いてアンネが口を開いた。

「まぁ、焦る気持ちはわからなくもないわ」

 彼女を見上げれば、額には僅かに脂汗が浮かんでいて憔悴しているようにも見えたが、言葉は普通なので大人しく言葉を聞く。

「正直わたしは焦って……必要以上にライライを焚き付けていた自覚はあるもの。えと、わ、わたしのせい?」

「え?いや、普通にライライが強くなりたかっただけなのですよ、安心してください」

 視線を彷徨わせて不安気なアンネに、ライライは必死になって言葉を重ねる。対抗意識くらいはあったのだろうけれど、そこから罪悪感を感じさせてしまうのは本望じゃないのだろうし、ここは二人に話させておくか。

 流石にこのままここで二人を放置したら周りの参加者たちの視線が痛い。今も既にかなり目立っていて居心地が悪いのに、集まっている視線が段々増えている。

 私は問答する二人の背を押して廊下に出させると、ゆっくり会話しておいで、と送り出した。その際にアンネの物騒な発言が聞こえた気がするが……ここは触れないでおこう。

 元の席に戻ると、トーマがいつものように後ろに控えて指で髪を梳く。

「セルカ様、今、わたしも人間辞めるべきなの?とか聞こえたよな?」

 トーマはアンネの呟きをしっかり聞き取っていたようで私に確認してくるが、本当に言っていたかどうかは申し訳ないけれどわからない。曖昧に首を捻るとそれ以上聞いてはこなかった。




 そのまま無事に予選大会は終わり、一週間後の本戦への出場が決まった。今回の大会の途中経過の時点で本戦常連の猛者が数名脱落するという異例の事態に会場は沸いていた。注目されたのはやはり幼女守護団。

 ライライを筆頭にトーマ、ベル、と特に本戦でも上位だという相手を打ち負かしたことはもちろん、派手な戦いで観客を魅せた。リーダーは三部門参加で、全て本戦へ勝ち上がった。従魔部門では幻獣とかなり打ち解けた様子で勝利を収め、また近接部門で目立ったライライは失神級の大量の虫を従えた。

 流石にそこでは男女問わず悲鳴が上がり対戦相手も腰を抜かしていたが、ともかく目立ったことに変わりはない。

 会場を出た私達は多くの視線を集めながらも、まずそれぞれの修行の地を訪れるのだった。


「師匠!」

 私は大森林の中で声を上げる。ざわりと揺れた葉の影に、まるで初めからそこにいたかのように森の王フォレストキング・ディアーが立っていた。その背には当然のように師匠・タルドルが座っていた。

「予選大会があったそうだな。どうだ、この俺様の弟子に相応しい結果は得られたか?」

 彼は偉そうに告げながらも視線は私の隣のアルトに注がれていた。大会の日程も教えたから、それが終わってすぐのこの時間にアルトがぴんぴんしていることから結果はわかりそう。

 良い結果を疑わない彼に私は笑顔を見せる。

「初戦敗退」

「んなッ!?」

「嘘です。本戦出場決定!」

 反応が可愛くてくつくつと笑うと、師匠は怒るに怒れないといったような絶妙な表情で固まると、その後にクラッシュと一緒になって褒めてくれた。クラッシュの褒め方は森の恵み(大量の果実類)をドサドサと渡しながら轟音というに相応しい鳴き声を上げることで、あまりの迫力にアルトは腰を抜かした。

 師匠は慣れていて腰を抜かすことは無かったが、体が小さく軽いせいで音の圧に押されてふらついていた。クラッシュ、加減しよう?

 気を取り直した師匠は言葉で褒めることをやめ、アルトを獣形態に戻すと彼の毛に埋まるようにして抱きつき、撫で回す。アルトへのご褒美というより、師匠へのご褒美に見える。

 幸せそうな師匠を見て私は良い気分だが、アルトは不機嫌そうな視線を私に向けていた。師匠の、フォレストキング・ディアー以外には全く好かれない魔力はアルトには不快なのだ。やはり師匠へのご褒美だったようだ。これは後でちゃんとご褒美をあげないとね。


「頑張ったねアルト!」

 まだ誰も帰っていない宿屋の女子部屋、そこの一番大きいソファの上で、私は腕を広げてアルトを受け止めた。獣人の姿に変化しながら飛びついてきた彼は、全身に纏った魔力を浴びるようにして食らう。

「ありがとうご主様、おれ、正直このために頑張った」

 指を噛んできたり髪を食べてきたり、たしかにそこら辺には多く魔力があるけれど……目敏い。魔力を別のところに多く流すと、今度はそっちに手を伸ばしてくる。

 くすくすと自然と笑みが零れ、空いた手でアルトの頭を撫でた。

「もっと頑張ったらたくさん練った魔力をあげちゃうかもよ?」

 笑いながら言うと、アルトは突然動きを止めた。そして「ほんとに?ほんとに!!??」と詰め寄り、私が頷くと

「ご主人様だーいすき!!!」

 抱きついてきた。

 そんなに魔力が好きか。優しく頭を撫でると、アルトは蕩けそうな笑顔を浮かべる。そんな幸せな空気の中、それを崩す事態が発生する。

 異空間収納に、異常。

 魔力が変な風に動き、本来中に存在してはいけないものが生まれようと……って、それ、もしかして!!

 従魔契約のパスを通じて私の焦りと緊張感を感じ取ったアルトが素早く体を離すと、私は急いで卵を取り出した。艶消しの黒、真っ黒の卵は明らかに買った当初と様子が違った。

 無数に走る亀裂から僅かに光を漏らし、震える卵。アルトも真剣な面持ちでそれの動きを見て、それから一瞬だけ名残惜しそうに私の体を見てから羊に戻った。静かになり、そんな中で一欠片の殻が手のひらにことりと落ちる。それを皮切りに、一気に殻が破られた。

 出てきたのは……毛玉。

 一目見て思い浮かんだ言葉は、ケセランパサラン。実際どのような生き物かはわからないけれど、こんなイメージだった。毛の塊。もふもふふわふわ。黒くてふわふわで、手触りは猫に近い。

 私がこの子を選んだ直感は間違っていなかった。目は見えないけれど目が合う感覚がして、ケセランパサラン(仮)は手の上でぴょこぴょこと飛び跳ねると、顔に飛びついてきた。

「わっ、」

 驚いて身を縮こませると、ケセランパサラン(仮)は髪の毛の中に潜り込んだ。もそもそもそもそもそもそもそもそ……私は擽ったいしどうすればいいのかわからずに困ってしまって、動けない。

 魔力の気配でかろうじて居場所はわかるが、落ち着きがなくずっと動いている。そこは巣じゃないよ……。

 ……とりあえず、仲間が増えました。

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