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第70話「お師匠様!!」

 ドリームシープを目にして、文字通り一目惚れした。美しい色彩の毛がもふもふで、またその身体に秘める魔力は洗練されてはいないが磨けば光る原石のごとし。これは、仲間になってほしい!!

 黄色い妖精さんに頼んだら「溢れるほどいるからいいよ〜」と気楽に返事してくれたが、そこは気になるのでちゃんと牧場主のもとを訪れてそれこそ「娘さんを僕にください!」という勢いで聞いてみたが、すんなりと許可された。

 従魔選びをしていると話すと牧場主に「選べるだけいるのだから相性がいい個体を選べ」と言われてドリームシープが招集されて、私は天国のような光景にうっとりした。

「まずは見た目での選別がいい。相性以前に好きになれない見た目や性格のやつと仲良くするのは無理だろう」

 牧場主のエルフ爺が笛を鳴らすと、ドリームシープは一斉に魔力の光を帯びて柔らかい光に包まれた。それが収まるとそこにいたのは羊じゃなくて角の生えた……羊の獣人!?

「え、えぇ!?」

 私が驚いて声を上げれば、牧場主が説明してくれる。

「ドリームシープは人化の固有技能を種族特性として持つ特殊な種族。魔力は濃いが使えるのは幻惑や睡眠の魔法だ。攻撃魔法は少なくて、魔力での身体強化を用いた格闘……というか羊姿での突進を得意とする」

 私より少し歳下くらいの見た目の彼ら彼女らが牧場主のエルフ爺を取り囲む様子はなんだか保育園ちっく。大変そうだなぁと考えていると、幼児たちの興味が私に向いてきた。

「あれー?角がないよ」

「耳は長いからお仲間さん?」

「宝石あるからお仲間さん?」

「おじちゃんと同じ耳ー!」

 わらわら集まる巻き毛ふわふわの子供たちに、思わず顔がゆるむ。最後の君は良い目をしているぞ、と頭を撫でるとドリームシープは気持ち良さそうに目を細めるが、私ももふもふで心地良かった。

 とりあえずひとりひとりと触れ合うことにして、広い草原で遊んでみる。体力は有り余っているのでそう疲れないはずだが、幼児の相手は理屈では説明できない疲労があるのだ……。私はそう時間が経たないうちに力尽きた。

 園長……じゃなくて牧場主にシープたちを任せて木陰でひと休みしていると、あまり私に構って攻撃をしてこなかった大人しい個体が数匹集まって、恥ずかしそうに野花での工作を提案してきた。

 この子達なら疲れないだろうし、仲良くなりやすそう……そう思いながら返事をして、みんなで花かんむりを作ったり花言葉を教えてもらったりしながらゆるやかに時間を過ごした。

 最終的に、結局触れ合った感覚で選んだのは先程の大人しい五体のシープ。その中から相性審査で選ばれたのは……

「よろしく、ご主人様」

 どこかライライに雰囲気の似た長い巻き毛の男の子だった。巻き毛で幼い印象が似てる、などと言ったら怒られそう。

 でも青のイメージの強いライライと対照的に、シープは桃色や黄色のあたたかい色彩で、巻き毛は腰まであって長い。幼い者特有の性別のわかりにくい()()()()()のせいか、女の子にも見える。

 彼の髪の毛は毛先だけが桃色に染まる金髪、瞳は桃色で羊姿の名残りなのか目の下の涙模様と瞳の形が特徴的だった。なんにせよ彼はかわいい。

「無理に契約する必要はないよ。一緒に来たかったら、でいいの」

 私が微笑みかけると彼は拳を握りしめた。

「……うん、おれが行きたいから行くの、ご主人様」

 やる気に満ちている彼を見て満足気に笑みを浮かべた私は、ついに従魔契約の一大イベント「名付け」が始まることを意識した。色々考えていたけど……。

「では、アルト。私と一緒に強くなろう!」

 綺麗で僅かに男の子らしさをはらむ優しい声の男の子に、私は手を差し伸べた。手を取った彼の名はアルト。新たな仲間と出会った私は、そのまま卵探しをして、ちょうど手の大きさの卵を買った。迷宮産卵専門店の売り物だったのだが、その美しい艶消しの黒に惚れた……運命を感じた!今日はとてもいい日だ。


 そうしてはじまった師匠探し。最初はドリームシープの牧場主に教わろうとしたが、エルフ爺は「戦闘用の従魔なら、自分にはつとまらん」と心底困ったように眉尻を下げたので流石にやめた。

 なのでまた一から探さなければならないのだが、これに至っては一流の教える者もそう多くないので運に頼らず堅実に、有名な者共を頼ることにした。

 とはいえ強き者はドラゴンなどを従魔として従えていてあまり参考になりそうな感じもしなかった。今日一日は著名なテイマーを訪ねるが、それで丁度いい師が見つからなければ仁に隠居している方を探してもらうか妥協するしかないが……そううまくいくかなぁ。

 結局その日は面会と面接に費やし、希望とともに強いテイマーへの憧れが磨り減っていくように感じられた。


 翌日。

「仁、誰かオススメの……隠居してたり有名じゃなかったりするテイマーはいないの?」

 見上げて問えば、彼は少しの逡巡の末に口を開く。

「フォレストキング・ディアーという魔物を従えて、ほんの一時期話題になった人はどう?」

「それって草食動物っぽい!いいかも」

 仁の言葉にぴょんぴょん跳ねながら歓喜し、なんとなくぽいことを言って決定する。彼の意見は大抵良いものだから、とりあえず聞き入れてみた方がいいのだ。間違っている情報でも今後の役に多少は立つだろうし。

 得意になった仁はそれこそ見た目相応のコドモに戻ったように、それはそれは無邪気に私に説明した。その人の経歴や一時期話題になった理由、そして今の大体の所在地。あまり本人が触れられたいと思わないような部分の話はしてくれないようで、ちゃんと考えてはいるみたい。

 何はともあれ良い情報が手に入ったのだから行ってみるしかない。早速テイマーの住処の最寄り教会を通して転移し、樹海へと飛び込んだ。朝にブラッシングしまくったのでやる気に満ちているアルトの背に乗り、いざ行かん。

 そこは全ての木々が巨大な樹海だった。アズマがある大陸の最東端にある、海岸と内陸を隔てる大陸最大の山の抱える大森林である。最寄りの教会が東の果てだという村だった。

 一応アズマの領土ではあるはずだが、エルヘイム家が現れる以前の魔の森同様に「手のつけられない魔境」として畏れられている。東の果ての村はそんな森のすぐ横にあるにも関わらず自衛ができているので、きっと強者揃いなのだろう……。

 ともかくそんな森に踏み込んだのだが、森の様子がいささか不自然だった。こんな場所に全く魔力を隠さずに突っ込んだのなら直ぐにでも凶暴な魔物に襲われそうなものだが、むしろ静かなのだ。

 たまに乗り心地を聞いてくるアルトの声以外には囁くような木々の葉の擦れる音がするだけで、獣の咆哮や殺気すらも感じられない。これは一体……。

 不思議に思ったが、ふと思い出す。『エルヘイム家が現れる以前の魔の森同様』に魔境だったのなら……エルヘイム家のように森を治めるチカラのある者がいたのなら。それは、かのテイマーなのでは?

 そう考えたら、もう試すしかない。慢心とも取れるかもしれないが、私はここの魔物に遅れをとることはないし、闇雲に探しても存在を既に気取られていて逃げられ続けていたらいつ会えるかもわからない。だから、天使の声の拡声効果に期待して叫んだ。

「テイマーの師を探しに来ましたぁぁあ!!」

「う、ううるせっ」

 すると真後ろから高い声がした。あれ、と思ってアルトから降りて振り向けば、そこに人影はない。

「下、下!」

 声に従って下を見れば、そこにはたしかに……小さい人間が立っていた。

「小人族!?もしかしてあなたが!」

「君のセリフが間違ってなければ、この俺様がテイマーの師に成りうる存在だな」

 偉そうに胸を張る(かわいい)このしょ……青年こそ、私の探していたであろうフォレストキング・ディアーの(あるじ)。尊敬の眼差しで見ていると、突然彼の後ろに大木のような存在感を感じて顔を上げた。

 そこにはとにかく巨大な体躯をもつ、大樹の角が美しい鹿の魔物がいた。見てわかる、これこそが彼の名を広めるに至った理由である従魔、フォレストキング・ディアーだ。

 感動のあまり言葉を失っていたが、要件を思い出して慌てて名乗る。アルトがぽわんと人型になったと思えば、続けて名乗りを上げた。

 それを見た師匠(仮)は感心したように数度頷くと、挨拶を返す。

「俺様はタルドル、こっちのフォレストキング・ディアーはクラッシュだ。師匠になってやらんこともない」

 こうして知り合った私たちは、まず師弟関係になれるような「同系統のテイマー」なのかや弟子になれるほどの才能などを確認するためと言われてタルドルの家について行った。

 森の一際大きな幹をもつ木の洞から地下へと続く階段を下ると、タルドルの住居が現れた。ここではクラッシュは子鹿程のサイズに変化して普通に生活しているようだった。

 座るように促されて腰を下ろせば、タルドルからの質問攻めが始まる。

「セルカよ、アルトとはいつから従魔契約を結んでいる?」

「えっと、昨日」

「ほう、……そ、それは意外だ。ではテイマー歴は?」

「それも昨日」

「それなら才能は十分か。卵は持っているか?」

「持ってるよ」

「見せろ……ほほう、良い選択だ。好きな魔物のタイプは?」

「もふもふ!」

「……目指すものは?」

「最強!」

 全てになるべく遅れないように返答していくと、段々とタルドルの表情が変わっていった。それも機嫌が良さそうな方へと。なんだなんだと思えば、普通の人間の膝くらいまでしかない身長である彼は専用の椅子から立ち上がり、私に詰め寄りながら言った。

「気持ちはよぉくわかったぞ!実は俺様はテイマースキルが多い代わりに従魔枠がいつまで経っても1だった。もふもふが手に入らなかったのだ。才能もやる気も十分なので条件はただ一つ!俺様にもふらせろ!」

 あまりの剣幕に一瞬怯えたが、彼の思想は私と似たようなものだった。もふもふ大好き同士、仲良くなれそう。

 私は彼の提示した条件を二つ返事で受け入れると、師弟関係になった。でも私とアルトは本当に相性がいいらしく、アルトがとても聞き分けのいい子だということもあってか、躾などの必要はない。これから生まれる謎の卵のために一応知識として教えると言ってくれたが、ほかは大体戦闘技術を叩き込むみたい。

 クラッシュが直接アルトに教えてくれるみたいなので、その間に私は師匠からテイマーとしての心得を教わる予定だ。

 今日はとりあえずこのまま帰されて、彼は明日からの授業などのために準備をするという。楽しみだ、とても。不安だった忘れられた理由も……きっと師匠が忘れられていったのは……従魔枠の問題だったのかな、と考えながら帰路についた。

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