第69話「なかまさがし」★
挿絵あります(*^^*)
奥に進むと、そこには久しぶりに見るドアくらいの大きさの黒い石板があった。ここに置いてある板も王都と同様に、光を吸い込むような漆黒の一枚岩だった。
流石に使い方はわかるので説明は省いてもらい、そのままバウから順に適正職業を見ていく。浮かぶ文字の羅列は上位職ばかりで、レベルと経験値の差は凄いなと感心した。
「……じゃあ、ボクはこれにするね」
バウはある職業を発見するや否やそれを指差した。「観測者」。それは狩人などを代表するオールマイティで伸びにくい職業から派生することの多い派生型上位職。育て上げた観察眼が技能へと昇華される……狩人のビギナーの憧れだ。
きっとバウも狩人選択時に観測者の職業を得るという目的をもっていたのだろう、彼の目の色の変わりようはそれまでにハッキリしていたのだった。
そのままリリアは種族固有の特別 (らしい)職業である「種子」、ライライは「拳闘士」、ベルは炎魔法特化のの上位職「白焱魔術師」、アンネローズは近接攻撃能力を更に伸ばすために「剣士」……マジムと不審者さんは種族的に職業を選べないため、据え置き。
そして一番選ばなければならない数が多いトーマは。
「……うお、すげぇ数だな」
石板を埋め尽くすほどの数の職業が浮かび上がり、彼はそれを端から読み始めた。見たところ従者としてのスキルのおかげと思われる職業や剣に関するもの、はたまた暗殺者なんてものまである。
それらの豊かな選択肢は、足音を消す従者のスキル、剣士としての純粋な力、鬼人族としては優秀過ぎる冷静さ、そしてエルヘイム家での執事教育の賜物と言えるだろう。
もちろん彼は剣に関する職業メインで構成するようで、いくつかチェックしていた。しばらく黙り考え込んだトーマだったが、彼は何度か受付嬢に質問を投げかけた後に意志を固めたようだ。
「魔剣士、守護剣士、魔法剣士」
彼が選んだのは魔剣や神剣などといった類の剣を扱うことに長けている「魔剣士」、護る剣術に特化した「守護剣士」、魔法と剣技を織り交ぜたトリッキーな戦法を得意とする「魔法剣士」。
意外なことに全ての枠を剣士職で埋めたようだ。しかしだからといってバランスが悪いということはなく、魔剣イヴァに合わせ、現在の特攻的な戦法に守りと遊撃・撹乱を加えると考えると、むしろバランスは良い。
感心して見つめていると、なにやら避けてほしいと訴えられたと感じたのか、彼は石板の前から移動して私に前へ進むように促した。
無言で従うと、私はそっと冷たい石板に指先を触れた。
漆黒に白い光の文字が輝く。そこには私が初めてこの板を使用したときに最後まで悩みに悩んで泣く泣く諦めた職業がキラキラ光っていた。
「ビーストテイマー!これで!」
興奮気味に告げると、ライライが微妙に嫌そうな顔をした。だけど心配しないで、私は虫じゃなくてもふもふがほしいだけだから!決してライライの獲物を横取りするわけではないんだよ。
明るく弾む声を聞いた受付嬢は愛想笑いを少し崩しながら、メモをとった。石板の前で決意表明した時点で職業がその身に宿り、受付嬢の仕事はそれをギルドカードに反映させることだ。私は「お願いします」と礼をして、早速技能が増えていないかを確認した。
従魔枠:2
調教
増えているのはこのふたつだった。大体のテイマーの最初の従魔枠は一つだけのことが多いので、私は才能があるのだろうか。ライライの五という数を聞いたあとではあまり実感が湧かなかった。
調教は無くても平気らしいが、よく指示を聞く従魔に育て上げるためには早めに発現すると便利だという。これは素直に喜んだ。
……でも技能欄に可視化されるのは才能とその人自身のちからだから、私には調教の才能があるの……?
皆もそれぞれ目当ての技能を見つけたり、楽しそう。狭く暗い部屋で喜び合う様子は少し不気味かも。受付嬢はというと、「用が終わったら各自出てカウンターで待っててください」とだけ告げるとサッと消えた。
恐らくすぐにギルドカードに反映させるための作業に行ったのだろう。有難い。
そのあとはしっかりと職業欄に反映された文字を見て感心し、なんだか達成感すらおぼえる。その足でそのまま、地図を頼りに闘技大会受付を目指すことになった。
腕輪のウィンドウをみんなに見えるように可視化して浮かべると、ここらでは見ないものなのかチラチラと視線を感じる。
私たちがここ、武力に長けた国ノウスに来た目的はたったひとつ、強くなるためだ。どこかの門下生になるとか講習を受けるのもいいが、とりあえずは定期的に行われる闘技大会への参加、他との比較ができたらいいなと思う。
まだ日にちはあるのでその間は学びたい師を探すなり自己流で訓練するなり、そこはみんなのやりたいようにやらせる。私は今回は……魔法以外の体術系か従魔の獲得・テイマースキルの訓練をしたい。
どの部門で出場するか悩むけど、説明を聞いてみて重複可ならやりたいようにやって、ダメなら選ぶつもりだった。
考えながら歩いているうちに到着し、私たちは受付から説明を受けた。ひとり三競技まで、と確認出来たので、私は近距離、魔法、従魔の部門を選んだ。トーマは近距離と魔法、アンネは近距離、バウは遠距離魔法以外、ベルとリリアは魔法、ライライは従魔。それぞれ自身の得意分野でどれだけやれるか試したいみたい。
トーマは半分魔法職でもある魔法剣士を選んでいるのでその感覚に慣れるためなのか、それともベルには及ばないが既にそこそこ練度を高めている炎魔法を試したいのか。
ハイエルフと妖精族の参加は珍しいらしいので今回の宣伝はそれを使うか、なんて話していた受け付けには微笑みを返し、今日のところは全員ですることもなくなったので、自由行動となった。
私はまず……従魔の確保とテイマーの師匠探しをすることに決めた。
従魔は奴隷などと同様に特殊な檻や拘束具に繋がれた状態で販売されている個体と、どこからか冒険者が拾ってきた卵を買うことで手に入る運要素の高い個体と、迷宮や森などでその場で打ち負かしてテイムするなどといった方法で手に入る。
私の場合資金には余裕があるので販売されている生体か卵を購入する可能性が高い。今から野生の魔物を手に入れるったって、時間はかかるし転移で捜しまわるにしても教会付近の魔物の種類も強さもたかが知れている。
せっかく大会に出場するのだから、とりあえずは教会の転移頼りに様々な街の市場で従魔を探し、気になるものがあれば卵を購入する。
生体と仲良くなって鍛えてその子と大会に出場し、卵は間に合えば出場、間に合わなければ子狼に変化したマジムに頑張ってもらい、そこそこの成績で退場する。ちょっとせこいような気もしなくもないけど、棄権するよりはいいだろう。
そう決めた私は、商業のサーズから故郷であるアズマまで、教会を通した転移で店を見回った。アズマの王都へ行く際には家族にバレて驚かれないようにと仁の気配弱化結界に包まれながら、他は堂々と歩いた。
これから順次訪れる予定である迷宮の街々も訪ね、そこでは宝箱から手に入ったという卵やら何やら見たことのないようなスライムの幼体なんかが見られて面白かった。
でも私が求めているのは最低限でも毛の生えている魔物。弱くても鍛え直すから強さは二の次、だけどどうしてももふもふがほしいのだ。バウの尻尾とかは触ると嫌がられるだろうし、生きたもふもふに飢えているのだ。
それからも幼竜やミスリルゴーレムの要石なんかが掘り出し物、目玉商品枠で売られていたけれども、ときめかない。
もふもふは、いないの!?
私は焦りを感じつつ、仁に言われるがままに転移し続けた。名も知らぬ小国から砂漠のオアシスまで、身体強化ほぼMAXで駆けた。狼や熊はいたけれど、狼はバウと一応マジムがいるし熊は大抵手入れしても剛毛!!!
欲しているのはそうじゃない!!!
もふもふ従魔を求めて奔走。従魔のお店のある街はそこそこ大きかったり重要な街なのでそろそろネタ切れが近いぞ、と仁が脅す中、私はリリアのような妖精族の隠れ里へお邪魔した。
神官は美丈夫エルフのようで、私が現れた瞬間「若い、ハイエルフ様……!!」と驚きながらも神の間から現れたことを思い出して平伏し、私は苦笑い。
教会にしてはこぢんまりとしたその建物を出ると、そこは少ないエルフと、数え切れない妖精族で溢れていた。小さな家はとてもメルヘンな装飾を施されていてうっとりした。
淡いパステルカラーで彩られたその街に感動していると、珍しい気配に妖精たちが集まってくる。口々に「珍しいお客さん〜」「特別な妖精の匂いがする!」などと言っていた。リリアのことかな。
かわいい妖精族に顔を綻ばせていると、ひとりの妖精が案内に名乗り出た。時間に余裕はないけどここで癒されるのもいいな、と思った私はだらしない表情でついて行く。
「ここは〜花畑〜」
「この場所は〜魔法の毛糸の工場〜」
「ここが毛糸の〜」
黄色い妖精さんはのほほんとした口調で笑顔で説明する。ここの妖精の服はみんな魔法の光を宿していたけれど、それは魔法の毛糸で作られているから、らしい。
そしてここで私は運命の出会いをしてしまった。
「!!!!」
そこにいたのは魔法の毛糸のもとである魔物……。
「ここが毛糸の魔物、ドリームシープの牧場〜」
間延びした口調で告げられたその魔物の名前を、思わずうわ言のように呟いた。ドリームシープ。強い魔力を感じるし、綺麗だし可愛いし、なによりもっふもふ!!
立ち止まってぷるぷる震えだした私を見て妖精さんは慌てるけど、そんなことお構い無しに彼女にずずいっと近寄った。
「一匹譲ってくれませんか!?!?」
少し引いたような妖精さんの笑顔が目の前にあった。




