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第7話「オーダーメイド!」

少しいつもより投稿が遅くなりましたが、これからは週一のペースで更新することになります。

忙しくなってきたので(⌒-⌒; )

 りぼんおねえさんは奥の採寸室で私の体の細かな場所まで寸法を測り、さらさらと質の良い紙に筆を走らせる。達筆すぎて私には読めない字だった。

 採寸を終えたりぼんおねえさんは、おにい様がぼーっと待っている店内に戻り、カウンターに向かい合うように座った。

 りぼんおねえさんが質の良い大きな紙を広げ、筆を持つ。彼女は言った。

「じゃあ、デザインを決めていきましょ」

「うん!」

 私は大きく頷いて返事をする。するとりぼんおねえさんは不敵な笑みを浮かべて、言った。

「まず、頭防具…………ホントはお金を貰うところだけど、余っている素材で良ければタダで作るわよ」

 彼女が喋りながら指をさした方向に目を向ければ、そこには大小様々な布や革の切れ端や鉱石が無造作に置かれていた。大きさ的に他の部位の装備にまわせそうもないし、頭防具にするには魔力を込めたアクセサリー程度のものにしなければならなさそうだ。

 でも、それで十分だった。

「できればつくってほしい!……でも、ここでは魔力を込めることはできるの?」

 私はりぼんおねえさんの目を見つめる。りぼんおねえさんは首を小さく縦に振った。

「込めることはできるけれど、実用的な効果が発現することはほとんど無いと思うわ。余った素材だし、頭防具に付与できる効果は魔力を使うほど便利になるケースが多いから、魔力が少ないあたしだとねぇ」

 私はその言葉を聞いて、むーんと苦い表情になってしまう。かわいいアクセサリーは是非とも正式装備として迎えたいが、邪魔になることも多いだろう。効果に期待出来ないのなら、いっそ無い方が……。

 悩む私に、りぼんおねえさんは少し言いにくそうに顔を歪めて告げた。

「……もしあなたが魔力に自信があるなら、あなたに付与の方法を教えることもできるわ」

 それは「客にやらせるなんて」という想いがあった故の表情だった。魔力は使えば疲労する。この世界の一般常識だ。

 しかしその提案を聞いた私はしめた!と思った。私はエルフの良い特性ばかりを持つクオーターエルフ。魔力だっておにい様に負けないくらいあるはずだし、適度に手を抜けば必要以上に疲れることもないだろう。

 私はそう思い至った瞬間、満面の笑みを浮かべた。驚き目を見開くりぼんおねえさんに、私は言う。

「私はクオーターエルフなの!魔力には自信があるよ。だから私にやらせてほしい!!」


 そのまま話し合いは進む。

 余った素材で良ければと色々な装備品を勧められたので、邪魔にならなさそうで有用なものだけ作ってもらうことにした。

 上は白とくすんだ桃色の革鎧。流石にショッキングピンクとかにしたら魔物に見つかりやすくて不便だろうし、そこは妥協した。動きやすさを重視してノースリーブにしてもらったけれど、セットとして取り外し自由のスリーブと二の腕の半ばほどまでの長さの指ぬきの手袋をつけてもらえることになった。

 下はホットパンツで、上に合うように配色されたものになる予定。これまた露出が気になるとかって言われてニーハイソックスをつけてもらえることになったので、なんだかんだ得しまくっている。手袋もソックスも魔蜘蛛の糸で編んでくれるそうなので、防御力もしっかり備わっているらしい。

 靴は短いブーツだが、左右長さが違い、デザインも微妙に違うというこだわりよう。

「いつ完成するのかなぁ、今から楽しみ!」

 私はにこにこしながらりぼんおねえさんが描いたラフを見る。それは丁寧とはいえないが見た者にしっかり伝わるようなラフ画だった。絵心があって羨ましい。

 最後にりぼんおねえさんは私に「好きな動物はいるのぉ?」と聞いてきたので、私は迷わずうさぎだと答えた。


 店を出た頃には、日が傾いていた。夕食は家で食べるつもりなので、寄り道せずに帰らなければならない。

 私とおにい様は少し早歩きで馬を預かってくれる施設に向かった。約束の時間は過ぎているので、御者さんもいるはず……なのだが。

 施設に着いても御者さんは見当たらなくて、気になって施設の従業員の方に聞いてみれば「少し前に数人と出て行った」とのことだった。確かに馬舎の中に私達を引いてくれた馬たちは見つからなかったが、従者は御者さん以外連れて来ていない。

「おにい様……」

 私は嫌な予感がして、小さな声でおにい様(スラント)を呼んだ。当然彼も違和感を覚えていて、安心させようとしたのか私の手をぎゅっと握ってきた。

 おにい様は従業員に尋ねる。

「どっちの方向に向かって行ったか覚えているか?」

 話しかけられた従業員は思い出すためか目を瞑り、それからはっきりとした口調で答えた。

「あちらの、いつも使っている門の方に行きましたぞ。もしかして……スラント様の指示ではなかったのですかな」

 従業員が指し示すのはここに来る時通った正門。おそらく王都の外に逃げたのだろう。だが、だからと言って諦めるようなおにい様ではない。

 門に向かって走り出すおにい様。すると従業員が彼を呼び止めた。

「待ってください、あの馬はとても良い馬です。脚で追うより私どもの持つ優秀な馬を使う方が良いでしょう」

 従業員……そう思っていたが、その男は誰に許可を請うこともなく馬舎から一頭の馬を連れてきた。

「こちらの馬はお譲りします。代金は、これからも()()馬宿をご利用くださることとさせていただきます」

 綺麗な笑顔で告げた従業員……いや、この施設のオーナーは、馬の手綱をおにい様に握らせて立ち去った。感謝は次の利用時に改めて伝えよう。今は一刻も早く馬車を追いかけなければ!




 譲り受けた黒毛で白いたてがみの馬は、オーナーの言葉通りにとても良い馬だった。私はおにい様の腰に手を回して後ろに乗っているが、乗り心地が良かった。相当なスピードを出しているのに、おにい様の乗馬術も相まって一度も振り落とされそうにならない。

 門を過ぎたあと、おにい様はたくさんの轍が残る道を一瞥するとすぐにエルヘイムの馬車をの車輪跡を見つけてそれを追った。二人乗り程度の小さな馬車は珍しいし、道から外れている怪しい轍はそれだけだった。

 草を踏みつけて跡を残して、馬車は進んでいるようだ。痕跡は森の中に続いていて、馬車が小さかったからこそ進めたであろうその森の小道に、私たちは突入した。

 しばらく続く道。分岐もいくつかあった。途中から暗くて見えなくなったので、おにい様が魔法で馬車の通った道を調べながら進んだ。

「おにい様……暗いね」

 舌を噛まないようにと気をつけながら囁いた。おにい様は真剣な表情で頷いた。

 そして目的地は見えた。それは魔物の住む森の中だというのにしっかりとした作りでそこそこな大きさの小屋。その脇にエルヘイム領の馬車が置かれていた。馬は繋がれたまま。

「セルカは待ってて」

 おにい様は馬から私を下ろすと腕を前へ伸ばし、ついていこうとした私を制して小屋に向かった。私は彼の真剣な表情を見て逆らう気になれず、足を止めた。

 私はまだ魔法の詠唱を知らないから、魔法は使えないし武器もまだ持ってないから足手まといだろうし。

 でも、一人でいると少し不安になる。何たって、ここは太陽の輝きも木の葉に遮られる森の中。加えて日が落ちかけているこの時間帯は、見えそうで見えない木々の間から闇が這い出してくるようで、不気味だ。誰彼時(たそがれどき)とはよく言ったものだ。

「おにい……様……」

 私はえもいえぬ不安に俯いて、小さく呟いた。


 小屋に入ればまず、御者が両手両足を拘束され床に転がっているのが目に入った。何かを言おうと口を懸命に開閉するが、敵の魔法によって音が消されているのか言葉は紡がれない。

 スラントは充分に周りを警戒しながら御者に近づき縄を解く。余程強く縛られたのだろう、手首には赤く縄の痕が残っていた。

「大丈夫か」

 問いかけると、御者は震えながら頷く。

 ここまで誰にも襲われることはなかったが、小屋の中にはいくつかの気配があった。物置のように大小様々な物品が置かれたこの小屋では、入り口付近でしか剣を振ることができない。

 スラントはまだ腰が抜けている様子の御者を外に放り投げて、逃げるように促した。そして、扉を閉めた。

 同時に一斉に襲いかかってくる人間は、それぞれ得物を持ち慣れた様子で武器を振るう。暗闇を利用したつもりだろうが、スラントの目はすでに暗視の魔法によって視界を確保していた。

「………………っ」

 狭い場所に適した武器を選んだのか、相手はナイフを装備している者がほとんどだった。

 故に肉薄されなければ無力化も容易であろう。

 スラントは即座に無詠唱で剛力と堅牢という強化魔法を使い、それによって強化された肉体をもって複数人の相手から繰り出される攻撃の数々をさばく。

 武器の扱いに慣れている様子ではあったが相手の斬撃や刺突はそこまで威力も高くなく、少し余裕がある。スラントは隙を見て反撃し、致命傷になりにくい手足を優先的に斬りつけていった。

 でも、何のためにわざわざ腕が立つ者が多いと知れているエルヘイム領の馬車を狙ったのか……?


 立ち尽くしている私は、突然小屋から人がとびだしてきたのを見て驚愕のあまり声を上げた。

「ひゃ!?」

 一瞬敵が逃げ出したかと思って身構えるが、よく目を凝らせば、それは御者であることに気付くことができた。どうやらひとまず彼は無事なようだ。動かずに蹲っている彼に近付こうとすると、突然冷たい風が吹きつける。嫌な風だ。

「……だ、大丈夫?」

 私は竦んだ足をなんとか動かし、御者に近付いた。彼の手首には痛々しい痕がついていて、これをおそらくこの小屋の中にいる輩がつけたのだと思うと、怒りが湧く。腰が抜けたのか立てない御者さんに手を貸して、私は言った。

「御者さん、何があったの?」

 しかし彼は口をパクパクと動かすだけで喋らない。どうやら魔法をかけられているようだが、生憎私にはまだどうすることもできなかった。おにい様を待つしかない。

 私は立ち上がった御者さんから手を離し、少しだけ小屋から離れる。近くにいると巻き込まれるかも知れないし……。

 そう思った矢先、後ろから強い力で肩を掴まれた。あまりの怖さに声も出せずに息を詰まらせて振り返る。そこには御者さんが立っていた。

「驚かさないでよぉ……」

 詰めた息を吐きながら私は言うが、御者さんは肩を掴んだままの状態で手に力を込める。あまりの力の強さに痛みを感じ、私は表情を歪めた。御者さんは無表情で、その様子はいつもの御者さんと思えない。

 恐怖心に支配されかける私だが、すぐに持ち直す。あの時ほど怖いことはない。御者さんは知っている人だし、錯乱しているだけだろう。

 そう思って心を落ち着かせた時だった。

 目の前の御者さんは突然瞳に敵意を宿らせる。

 異変を感じ取った私は強引に肩から手を外して、御者さんから距離をとった。幼女の見た目の通りの力だと油断していた御者さんの手は呆気なく離れた。彼は私を落ち着かせようとするでもなく、ただフラフラと上半身を左右に揺らしながらこちらに近付いてくる。彼はぼそりと呟いた。

「本当に、貴方が大怪我を負って意識を失った時は焦りましたよ。えぇ、それはもう、息が止まりそうなほどに」

 何を言ったかと思えば、私が記憶を取り戻したきっかけとなった事故の話をしているようだった。彼は続ける。

「傷も残らずに生還してくださり、本当に()()しています」

 彼は普段とそう変わらない笑みを浮かべる。だが私にとっては不気味な笑みとしか捉えられない。そして、今の御者さんの言葉に感じるこの違和感は、何なんだろう。

「シルリア様も、グラス様も、スラントぼっちゃんも、本当に本当に喜んでいました」

 彼の顔の皺が濃くなりさらに表情が歪む。先ほどは暗がりで見えていなかったが、彼は爪に何かを仕込んでいた。そこで私は違和感の正体に気が付いた。

 何故、彼は私が生還したことに「感謝」したのか。私が生還することは良いことであるかもしれないが、それは直接的には御者さんに関係しないこと。仮に仲の良かったスラント……おにい様の歓喜する様を見て言った感謝だとしても、普通は治療師さんに言うべきである。言うまでもなく、爪仕込んである武器のようなものは主人の娘である私に向けるようなものでもない。

「容姿に優れた家系の、銀の氏族のエルフの容姿を色濃く受け継いだ、眉目秀麗な娘。需要であふれているのです」

 笑顔で言い放つ御者さんに視線で射られて、私の心臓は早鐘のようにうち始める。後退りするが、私一人では夜の森なんて抜けられない。御者さんはそれを理解してか、焦らすようにゆっくりと近付いてくる。

「長らく潜入するのは疲れましたよ。……安心してください。すぐに意識を手放すことになります。痛みなんて感じませんよ」

 御者さんは爪同士をかちあわせて音を鳴らす。逃げたら痛い思いをさせるぞ、とでも言いたいような、警告音に聞こえた。

 御者さんが手の届く位置にまで来た。私に手を伸ばしている。どうしても逃げる決心がつかない。ここで叫べばおにい様に聞こえるだろうが、もしそれに気を取られたおにい様が怪我を負ってしまえば……。

 私は頭の中に色んなことが渦巻いてぐちゃぐちゃにかき混ぜられていくような感覚を味わった。あの(ストーカー)のような、歪んだ表情が私を見つめている。

 私は限界だった。それ故に、伸ばされた手を振り払おうとして右腕を振り、叫んだ。

「嫌……っ!!私に、近付かないでーーーッ!!!」

 その途端吹っ飛ぶ御者さん。

 呆然とする私の目の前で、巨大な手がふりふり、私の意識があるか確かめるように振られた。黒い空間から手首から先を出している状態のその手は、緑色にキラキラ輝き、獣のような鋭い爪をたたえていた。

 ふわりと光の粒子を残して消えたその手は、奇跡のような。

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