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第67話「勝手なことするな!」

少し短いです。

 結局私は身元がハッキリしているので現人神と紹介するのは難しい、という理由から自由の身になることを約束された。代わりにたまにでいいから教会に遊びに来て欲しいとも言われたが、フレイズ様を信仰しているので祈りには行くつもりだし、そのついでで良いだろう。

 話し合いも終えて痺れも取れたので医務室の奥から出ると、そこには医務室に見舞いに来たのにセルカに会わせてもらえなくてひたすら待っていたと思われる幼女守護団のメンバーがいた。

「もう大丈夫なのか?」

 真っ先に私の手を取り訊いてきたのはトーマで、仁への警戒を隠そうともしていなかった。神官長はそれに狼狽える様子を見せるが、仁が気にしていないのを見ると安心したのか優しい笑みを貼り付けた。

 熱がないかなど執拗に確認されるがままにしている私は仁に目配せし、適当に場を収めてくれと丸投げした。すると彼はすぐに口を開いた。

「セルカちゃんはわたしの固有技能に影響されたみたいだから、ちゃんと対策したら治ったよ」

 申し訳ないなんてほとんど思っていないだろうに、そのような表情を作っていた。纏う神力のせいか輝く彼は希薄な存在に見えた。

「あと、目で視てわかったのだが、セルカちゃんはわたしの探していた存在みたいだ」

 彼の黒い瞳がキラリと光ったような気がした。打ち合わせにないぞそんな設定、と固まっていると、彼は鳶色の髪を揺らして笑ってみせた。

「神の面識者、お前の魂からは主神様の気配が感じられる」

 その言葉に驚いて彼を見れば、変わっていないはずの笑みが黒い笑みに変わって見えた。


 果てしなく丁寧に扱われ実家に居た頃を思い出した。仁のへたな紹介のせいで私の扱いは神官長を越して仁……現人神に近い扱いとなっていた。

 待遇が良いに越したことはないのだが、嫌でも教会関係者から注目を浴びる。神羅万象の眼を疑うことは信仰対象を疑うことでもあるので誰も『それは勘違いでは』などと言わないため、あっという間に『神の面識者・セルカ』が広まった。

 家族にハイエルフとなったことすら教えていないし使い魔のこともほとんど話していないというのに、私が今から手紙を出しても神の面識者の噂話の方が早く届くだろう。

 心労をかけてしまうだろうかと僅かに不安に思っているが、それを顔に出すことはしなかった。万が一待遇に不満があるだなんて思われたら……恐ろしい。これ以上良く扱われても逆に疲れそう。

 私は神殿攻略で疲れていたのを良いことにゆったりと休んだ。三日もかけて疲れをとった。

 なので当初の予定よりかなり遅れた出発となるのだが、それでも仁は引き留めようとする。私は勉強ばかりしていてそこまでゲームやアニメに詳しくはないのだが、彼は私が死ぬより前に転移したようでひっきりなしに尋ねてくる。あの作品はどうなっただの、あのゲームの続編はどうだっただのと。

 もちろん詳しくは知らないので分からないところは答えないが、彼はライトな層だったらしくそこまで深い情報を求められなかったのが幸いし、有名な作品ばかりだったので多少の説明はできた。

 それが切っ掛けで仁がまとわりつくようになったのだが……今日こそはと出発の準備を整える私に彼は泣きついてきた。

「時間は気にすることないんだよ。神力さえあればわたしと同じことができるはずだから!セルカちゃん、お願い!施設使わせるから……ギリギリまで滞在してよ、最近は転移者もいなくて寂しいんだ」

 と、わざわざ日本語で。日本語は神の言葉なのでそれを理解し会話するせいで神の面識者説の信憑性が高まっているということをセルカは知らなかった。

 しかし今回の言葉には気になる「施設」という単語が出てきたものだから、思わず私は準備の手を止めた。それを見た仁は施設についての話題を掘り下げる。

「教会に遊びに来てほしいって言ったでしょ、わたしは一人しかいないのに変だとは思わなかった?実は教会には、いつでも現人神が顕現できるようにと神力でしか起動出来ない神具・転移門があるんだよ」

「……つまり、マジムがいれば教会から世界中行き放題って言いたいの?」

 私は俄然興味が湧いてきて顔を上げた。ニヤリと笑う仁と目が合った。


 ……結局滞在を伸ばしてしまった。馬車は教会のない場所に行く時までお蔵入りとなってしまったが、蟻馬を作るライライの労力が減るのだから良いのだと自分を納得させた。

 はっきりいって快適な教会生活、仁とは日本語で話せるので色んなことを話せるし、彼が私用目的で作ったリバーシやトランプのおかげで楽しみも増えた。平民のリリアやライライあたりは快適な生活がむしろ慣れなくて気持ち悪いと言っていた気もするが、慣れれば良いわけだ、うん……。

 言い訳じみたことを思い、広場を借りての訓練や教会に隣接された孤児院での交流会などを着々とこなす。数日同じように過ごせば慣れるもので、当たり前のことのように時間になったら孤児院に行く。

 教えるのは得意ではないが知識は溜め込んでいる私は、見た目からも馴染みやすいのか誰よりも先に人気者になった。

 孤児院には現人神様もよく行くらしく私が行っても緊張した様子はなく、世話をしている大人達も柔らかな表情を見せてくれた。大人達が仁に対しては信仰対象に向けるような視線が感じられたが……私に向ける視線はどことなく孤児たちに向けるものに似ている気がするのは気のせいではないだろう。

 行く度に授業のお礼だのなんだかんだと理由をつけられて手作りのお菓子を貰い、断れないしいざ食べてみるとめちゃくちゃ美味しいしで餌付けされてる感が半端ない。

 呼び方も気軽にセルカちゃんなどと呼ばれ始め、それからはもう一気に仲良くなった。


 それから数日、予定より一日早く出発することになった私たち。各所の教会施設に伝令も伝わって、あとは使い方の説明さえ受ければすぐに目的地へ向かえるといったところ。

 仁は渋っていたが使い方の手順を覚えるために予定を早めた。しかし私が頼み込めば、嫌われたくないとボヤきながら応えてくれる。少し申し訳なく思ったけれど、こちらにもこちらの都合があるのだ、長く滞在したのだから勘弁して欲しい。

 ついて行くと、仁は教会の奥のステンドグラスに神力を流し込む。すると彼の体はステンドグラスの向こうに消え、しかしただ屋外に行った訳では無いとわかる。倣って魔力を流せば、なんだ、神力じゃなくてもできるじゃない。

 私だけで超えたので取り残されてしまったマジムは呆然として私を見た。転移?した先は白い空間に無限に続くような魔法陣が描かれている場所で、なんか少し気持ち悪い。遅れてきた皆は、感心しているようだった。

「セルカちゃん、お前、神力が使えるの?」

 仁が聞いてくるが、私はぶんぶんと首を横に振った。使えてたら私も神様ってことになるでしょう!?それに私が魔力で対応していたのは彼自身が目にしていたはず。

「……そう」

 彼は不服そうにしていたが、それ以上聞いてくることはなかった。教会関係者が仁だけになり神官のいない状況に気付くと、不審者(アルステラ)さんも出てくる。

 流石に敵と勘違いはされず、仁は不審者さんに挨拶すると、改めてその場で転移陣の使い方を説明してくれた。


 要は、場所をイメージして僅かに神力を込めるだけ。私はそう覚えると仁に向き直る。

「じゃあ、一度仁に連れて行って貰わなきゃいけないのかな?」

「いや、例えば『アズマの王都の教会』とかって言葉でイメージしても大丈夫だよ」

 頷く。神力を得るのは難しいが、それさえクリアすれば行使は簡単そうだ。ただ神力が必要なのでマジムがいないと使えないのは不便だなぁ。

 とりあえず試しに一度、とマジムが一歩前に進み出る。すると仁は少し考え込む仕草をして、それからマジムを止めた。

「待って」

「……なんですか?」

「一度、セルカちゃんに試してほしい」

 その言葉に驚いて彼を見れば、その美しい瞳が私を射抜いた。私の知らない私まで全て見透かされるような気持ちになり、身がすくんで動けない。彼はそのまま近付いて肩に手を置き、()()を込めるようにと促した。

 従い、魔力を場に流す。身体中に浮き上がった魔鉱石類が魔力に反応して煌めき、特段に大きな額の石が強く熱を持った。そして場所は変わり……。

「……ここは、」

「「「神の面識者様がいらっしゃった!!」」」

 半ばひれ伏すような体勢になった神官達に迎えられた私は、目が点になる。神力所持者、つまり神様専用の道具が神具、なんだよね。あ、あれ……?わ、私……神様じゃないよね?

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