表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/212

第66話「ちょ、ちょっと不味いですね」

寝てて予約忘れてましたm(*_ _)mすみません

 話を終えると私たちはマジムの案内に従って進み、そのまま迷うことも罠にかかることも無く神殿の表……通常の人が入れる大広間に戻ってきた。のだが。

「なっなんだね君たちは!!」

 そこにいたのは神殿の管理や供物について権限を与えられている者、つまり神官たちだった。一応近辺に魔物が出現するということもあってか、そこそこの人数だ。

 彼らは突然に現れた私たちに警戒心を顕に鋭い視線を向けた。

 使い魔契約を通してマジムの「やってしまった」という気持ちがひしひしと伝わり、索敵をしていなかったのだとわかった。

 かくいう私もマジムの案内だということと神殿内だということで油断して人の有無の確認を怠ったので、彼を叱ることはできない。

 護衛に雇ったのか冒険者まで連れ添っている老齢の神官は魔法の心得もあるのか、その手に持った錫杖をシャランと鳴らし、警告するように緻密な魔力操作を繰り返す。

「立ち入りは禁止していないが、どこから現れたのだね」

 その声とともに若い神官二人と冒険者二人も武器を抜き、臨戦態勢になった。いいのかな、貴方が武器を向けているのは……。

 ちらりとこの神殿の主を見れば、呆れてものも言えないようだった。神官ならば自らの仕える神の気配くらい感じ取れないものかと。短気な神なら神罰が下りそう。

「無言を貫くならば、国に差し出すのみ」

 とうとう魔法を発動させた老神官に、マジムは表情ひとつ動かさず防御もとらずに魔法を受けた。流石大地神の神官といったところか、老爺が使ったのは地面属性魔法。効果はない。

 念の為にリリアが私たち方向に飛び散る土塊を防げば、あとに残るのは土と石ころで汚された神殿の床だ。

 それを合図に冒険者が突っ込んできて、私たちは余裕綽々対応する。これでもSランクギルドだ、神殿の護衛はたかだか個人BランクのAランククランに指名依頼が入る程度、敵ではない。

 だがしかし、今回は勝手が違ったようだ。正当防衛というていでいないといけないので、私たちは相手方に怪我をさせてはいけない。

 それを心に留めながら、回避、防御、受け流し。明らかに手加減されている現状に冒険者は怯み始め、次第に魔力の切れた若い神官たちは後ろに下がって祈り始めた。

 ここで転機が訪れる。

「……む?」

 気持ちの悪い魔力を感知して振り向けば、冒険者の片割れが何やら眼鏡のようなものを付けていた。そこから伸びる、まるであのストーカーのような、じっとりと舐めつけるような視線。

「…………ぁ」

 一瞬死の恐怖を感じ、それからそれを振り払うように魔力で視線を遮れば、感覚が戻る。僅かに荒くなった呼吸をおさめて冒険者を睨みつけるとライライの声がした。

「不味いっのですっっ」

 眼鏡冒険者の視線はマジムに向いていて、私はそれを追った。ライライがスライムアーマーを延ばし視界を遮ろうとするが、速度が足りない。

 何が不味いのか分からずに、しかし鑑定の技能持ちである彼の焦りようから眼鏡が悪いものなのだと確信した。

 冒険者の口が微かに動いた。


 ガ、イ、ア


 その言葉は鋭敏化された聴覚がしっかりと聞き取り、確かに不味かったのだと気付く。眼鏡のようなものは鑑定技能の付与された魔道具だった……そう今頃わかっても、時は戻せないわけで。

「神官長!彼は……あの御方が!!」

 慌てて叫びだした男を見て、老神官は手を止めた。老爺は投げて寄越された眼鏡を見事受け取ると、装着する。

「なんと……!」

 面倒事が舞い降りた。




 この珍妙な面子で誤魔化せるとも思えず素直に連れていかれた私たちは、半ば拘束されるように神官達を統括する主神宮(しゅしんぐう)という建物の内部で何かを待たされていた。

 自国どころか主要でない国々にさえ広がる主神教と主神宮。それに属する者に目をつけられることになるとすると、とても動きにくい。無意識にため息が漏れた。

 鑑定技能の眼鏡では詳しいことは見えないようで、ただ種族など簡単な情報がわかるらしい。もしかの眼鏡にもっと詳しく調べることの出来る機能がついていれば、神を使い魔に置くなど無礼だなんだと騒がれそうだ。

 その点、神の連行・拘束についてはどうお考えでしょうか……なんて心の中で呟けば、タイミング良く先程の神官長と他にもう一人、位の高そうな男性が現れた。

「本当に、下界に姿をあらわしてくださったのですね」

 男性はマジムの全身を眺めると、呟いた。何も魔道具を付けていない様子からすると、彼は鑑定技能持ち。何故隠さないのかとマジムを見れば、彼は苦い表情だった。

 それを見てか口元を歪めた男性は、もったいぶってゆっくりと口を開いた。

「固有技能ですよ。神羅万象の瞳、という選ばれし者にしか発現しない……天使シリーズと並ぶ選ばれし者の証です。もっとも、神なら知っていることでしょう」

 ご満悦、といった表情で自慢する彼は、些か神と対話するには向かないように思えて、改めて神官長の行動に疑問を持った。訝しげに見ていると、男の視線が私に向いた。

「……で、お前」

 びくりと肩を震わせ、同時に()()訪れた恐怖。視線に身体中を舐め付けられているような感覚。まさかこれが鑑定される感覚なのかと思い魔力で抵抗するが、数秒後には抑え込まれていた。

 全身を見られ奥の奥まで見透かされるような、とても気持ち良いとは思えない感覚が通り抜ける。思わず顔を顰めるが、私の能力を視た彼もまた憎々しげに顔を歪めた。

 ……って、待って。『天使シリーズ』?

 私が言葉の中身に疑問を持ったとき、既に遅く

「お前は何者だ?」

 不意に肩を強く掴まれた私は動けず、息を呑む。ライライに似た吸い込まれるような瞳が私を捕らえ、意識が混濁して……。

「現人神様、それ以上は人格に傷が残ります」

 意識が戻ったとき、私は体にうまく力が入らなくてその場で倒れた。神官長が止めてくれたというのはわかったが、何をされたかもわからず、恐怖と息苦しさと体の痺れが残る。いつもなら受け止めてくれるトーマやマジムも動けないので、私はそのまま床に倒れ込んだ。

 倒れた私に再び近付きしゃがみこんだ、現人神様と呼ばれた男性は、私に手を伸ばした後に「大丈夫です、この女は守られています」と告げてそのまま私を肩に担いだ。

「医務室の奥の個室へ」

 そう言って私を神官長に投げ寄こした現人神様は、神官長の隣をふらふら歩く。誰も動けず、私はただ仲間の視線を感じるだけだった。




「防音結界、不可侵領域……っと。安心して、これでもうわたしたちだけの空間ができた」

 ベッドに寝そべる私に、現人神が語りかける。

「お前、面白いね」

 顔を覗き込む。

「大地神を使い魔にするとか、天使シリーズ持ちとか、何よりその歳での進化。どんな若作り年増だろうと思ったけど、まさかそんなに若いなんてねぇ」

 現人神はその場で頭を数度振ると、姿が変化した。現人神、その名の通りなら彼は神族で、私たちとは敵対する存在であるはずだ。息を飲んで変化を見守ると、彼は次第に黒髪黒目……顔も少し変わる。

 それは馴染んだ造形で思わず声を上げるが、それを聴いて彼は嬉しそうに笑顔になった。

「わたしは神谷仁(かみやじん)。君と同じ転移者だ」

「…………ぇ?」

 呆ける。()()()ではなく()()()だと彼は述べた。フレイズ様に直接聞いてはいないけれど、彼の言葉に嘘偽りがないのなら、彼は日本から転移してきたのだろう。

 問題はどこで私が日本に関する者だとわかったか、なのだが、聞くまでもなく彼は語り始めた。

「覚えていないクチなのかな。わたしたちはある日突然この世界に放り出された。全員、神を名乗る美しい()()に導かれ、強大な力を持っていた」


 神谷仁を含む日本人数名は、女神フレイズに導かれてこの地へと降り立った。使命はただひとつ、地球の発展が目覚ましくその知識をもって発展の遅れた魔法世界を変えるということだった。

 もちろん了承、女神は時代を少しずつずらしながら、彼らを御使いや勇者として送り込んだ。

 創造の能力者は品種改良され味と栽培しやすさが格別になった動植物を、魔法の極みを知った者はラノベや化学知識と交えた新たな魔法を、圧倒的なカリスマを手にした者は人々の心の拠り所を、その他建築や食文化を含む様々な情報を手に現れた。

 のちに現人神と総称される彼らは、早死して文化等を伝えられないことを危惧した女神に過保護なまでに能力を授けられた。

 天使シリーズの魔法の極意。補助魔法から攻撃魔法まで。

 女神の賜うもの。内容は持つ本人にしか知れない。

 神呪シリーズの特殊魔法。持つ本人にしか知れないが、仁は神羅万象の瞳を持っている。


「……つまり、天使の声をもつ君は転移者だ。何があって姿を捨て、記憶を失ったかは知らないが、同じ現人神として歓迎しよう」


 瞳を輝かせて告げる仁に、私は肝が冷えるのを感じる。彼はどうやらその情報に間違いはないと確信しているようで、私が転移者でなく転生者だと言ってどうにかなるとも思えない。

 問題は、私にはこの世界に家族がいるということだ。現人神はどこからともなく現れる人の姿をした神の分身と信じられる。では私は?それには当てはまらないのではないか?

 痺れが解けてきて、唇が動いた。

「ぁ、あの」

 とりあえず、日本人ならまだ話しやすいとポジティブに考えて話しかける。どうにかならなくとも、話すだけ話してみようと思った。

「私は転移者じゃない。殺されて、転生したの」

 告げると、彼は目を見開いて、考え込んだ。彼の瞳には全てを見透かされているようで、嘘なんてつけない。彼もそれをわかっているのか、私の言葉をしっかりと受け止めてくれたようだ。私は続けようとする。

「えっと、つまり」

「……現人神になるには厳しいんだね」

 渋い顔が私の言葉を遮った。その通りだとこくこく頷けば、彼は唸る。勧誘する気満々だったのだ、難しいといわれれば当然いい気はしない。

 それからもあーだこーだと話し合った。カリスマ性を手に入れた仁が主神教を築いたために八百万の神の考え方が根付き、それができたおかげで人々の心が救われたのはわかったし、それはいいけど……私は祀られるより強さを求めるから!!!




『……チッ。遂に逢ったか。我が手駒をひとつ手篭めにしたことは褒めようが……このまま進ませるわけにはいかないのだよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ