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第63話「冒険はこれから!」

 神に立ち向かうと決意を示した私たち……だけど、それで何か行動の指針が変わるかといえば、そうでもない。だって、幼女守護団は私を筆頭に、強さを求めていたのだから。

 でも最優先なのは鰻の入手に決まっている。私にとっては旅の第一目標でもあるのだから、そこだけは変えられない。うなぎの蒲焼山椒付きを食すまでは、絶対に死ねないのだ。

「とりあえず、うなぎの確保かなぁ」

 私は誰にも聞かれていない前提で呟いた。静かな空間ではあるが殆ど口の中にとどめるような、押し殺したような声量で告げられたその声は、普通なら聞こえないはずだ。そう思ったのもつかの間、こちらを凝視するマジムと目が合った。

 聞こえていただろうかと思えば、彼は「くっ……羨ましいですね……」と小さく声を漏らし、すぐに視線を外した。うなぎはちゃんと皆に分けてあげるから安心しなさい。

 それから少しの間、不審者さんのお店で商品を見回った。しかしこの場所のお店には仲間たちの運命の武器防具などはなかったようで、結局何も買わずに解散、宿へ帰宅となる。

 だが私は不審者さんに呼び止められてその場に留まった。心配してかトーマも残ってくれたが、私は不審者さんの言葉に耳を疑った。

「セルカお嬢さん、僕の店のひとつにねぇ、あるんだよ。鰻」

 興奮と驚愕から溢れそうになる声を呑み込んで、私は彼を見つめた。嘘じゃない、よね?嘘だったら罰を与えるよ??

 期待にきらめく私の瞳。不審者さんは少し気圧されたようだったけれど、軽く頭を下げて闇に溶け込んだ。きっとこの空間を通じて繋がる出入口を通って鰻を取りに行ったのだろう。

 そうして戻ってきた彼の腕には薄く冷気を発する木箱が抱えられ、それの中身は言われなくてもわかってしまった。流れからして、完全に!

「お嬢さん、サービスだよぉ?今回だけ無料だよ」

「ありがとう!」

 受け取るとすぐに異空間収納にしまって、私は満足げに微笑んだ。でもこれってつまり、これからの指針がほぼひとつに絞られたということでもある。

 トーマを振り仰ぐと、素直に喜んでいいのか真面目に決意を改めるべきなのか迷うような……微妙な表情を浮かべて私を見ていた。宿のご飯で鰻の美味さに触れ、鰻の確保は嬉しい。だがこれから問題になるのは神との対立。

 とりあえず他のみんなの後を追って、宿に戻った。でも対立するといってもどうやって?私はそれが疑問だったのだが、それが解決したのは翌日の遅い朝、グダグダと荷物をまとめた後のことだった。


「では、このまま僕達は大地神の神殿へ向かいます」

 マジムが世間話と同じようなノリで口にしたのだ。神殿はそこまで特別視とか保護とかされている訳では無いが、魔物の多い地の奥深くにひっそりと佇んでいるという。

 そこに、しかもマジム自身の神殿へ向かうことにどのような意味があるのか私にはさっぱりだった。行くのは別にいいんだよ、一応進んでいる方向とほとんどズレていないし、レベルアップに関して悪いことはない。魔物もドンと来い。

「僕は改めて力の使い方を学び、クラン全体としてはやはり修行。様々な魔法を応用した仕掛けが立ち塞がる神々の神殿は訓練にうってつけです」

 返答を待つ気もないマジムは言葉を続けた。

「ライライさんはそこで良い魔物がいれば引き入れることもできますしね」

 神妙そうな顔で頷くライライには、異論は無さそうだ。特に他の人も嫌がる素振りはないし、いいかな。

 そうして私たちは商業国サーズの中心部の荒野にポッカリと空いた穴……大地神の神殿へと出発した。




 マジムは地図無しでもその神殿の場所がはっきりとわかるそうで、彼の指示に従えば二日後の夜には巨大な縦穴が視界に入った。大き過ぎて穴というより大地を切り裂く崖のように見える。

 そろりそろりと近寄ってふちから底を覗くが、あまりに深い穴の底は黒く闇に染められてその規模は明らかでない。

 流石に移動で疲れていて、この暗闇の中さらに暗い場所へ踏み込んで生きて帰れる自信もなく、私たちは野営道具を広げることになる。

 移動疲れと途中に遭遇した魔物との数度の戦闘のみで魔力も余裕があり、魔法を使いながら野営の準備を進める。見通しの良い荒野にそのまま焚き火やテントを張るのは目立つため、まずはじめに穴を掘った。

 大地神の魔法によって、ほどなくして私たちのいる地面のみが三メートル凹んだ状態になり、その上に布を張って土をかけてカモフラージュ。外から見たわけではないが、闇に紛れて地面との区別がつかないのではないかと思う。

 それから少しずつ中の環境を整え、リリアの結界魔法や不審者さんの闇魔法なども使用して外に音も光も漏れないようになる。そのまま換気用のあれこれも設置し、火を焚いた。

 揺らめく炎を囲んだ幼女守護団は、私が作っておいたチョシーをそれぞれ好きな味を選んで食べる。

「流石、セルカ。意外性のあるアレンジでも、やっぱり美味しいね」

 ベルが大真面目に告げるが、アレンジ途中で失敗したことはあるしそれは処分した。

 チョシーはアズマに広まる郷土料理のようなものだが、味付けがほとんど一つだけ。スパイスによる酸味辛味のバランスが多少違うくらいなのだ。

 私はチョシーを肉とチーズのスパイス炒めを芋の生地に包んで揚げたもの……というより、芋の生地に食材を包んで揚げたものだと解釈したから色々と手を加えたのだが。

 トーマはカレーに近い香辛料ベースのチョシーを美味しそうに食べて頷く。

「これはいいな。食べたことない味だけど……気に入った」

 リリアなんかはチョシーに抱きつくようにして食べている。折角の可愛らしい服が油に汚れててらてら光っていた。

 みんな美味しそうに食べていて良かった。気温は下がってきたけれど温かいチョシーのおかげで身体もあたたまり、私はだんだん眠くなっていた。

 ついに耐えきれなくなってしまい、こてんと体が傾いた。頭が隣にいたトーマの肩に当たるが、瞼が重くて…………。




 ふと何か変な感覚がして目を覚ますと、ちゃんと柔らかいシートの上に移動させられていたようだ。毛布もかけられている。起き上がり周りを見ると火の番をしているバウと、彼と話している不審者さんが目に入った。

「ふふ、そうなのね。ボクは嘘はついてな……あれ」

 真っ先に私が目覚めたことに気が付いたバウは話を中断して「おはよう、ね」と微笑みかける。挨拶を返して立ち上がり、二人の間に正座した。

「寝ちゃった。あのあと何か問題はなかった?」

 バウに聞くと、首が横に振られる。それならいいが、と私は今度は不審者さんを見た。

「銅貨とかは駄目でも火は平気なんだ」

 小さく呟く。不審者さんは悪魔のくせに寒さでも感じているのか、手のひらを炎にかざしていた。フードの中が照らされて、包帯まみれの顔がみえた。

 時刻は午前三時に相当する頃。まだ日は昇っていないと思う。私はそのまま二人の会話に混ざって、皆が起きるのを待った。




 さて、朝になったのだが、ここでひとつ問題が発生してしまった。私だけなら夜空妖蝶で運べるが、他の飛行型の虫をどれだけかき集めてもこの穴を下るには足りないようなのだ。私は夜空妖蝶がいるから大丈夫だろうなどと根拠の無い自信があったのだが、そう上手くはいかない。地面魔法で穴に変化を与えることも出来ない。

 どうしようかと唸る私だが、なかなか思い浮かぶはずもない。風魔法は得意だが飛行などはもっと上級だろうし、着地直前に風のクッションを起こす……なんてのも、暗い中底がどこにあるかもわからない状況でぶっつけ本番だと、失敗が怖い。

 うーん、と項垂れるとマジムが言葉を発した。

「時間がかかると思いますが、僕ならこの穴に干渉ができます。まだ使い方がイマイチわからないので階段を作るくらいしかできませんけど、どうですか?」

 名案だと思っている……そんな気持ちが使い魔契約を通して流れ込み、私は少し笑ってしまう。でも、たしかに名案だ。彼は一応この場所の支配者でもあり、もっといえばこの大地の支配者である。

 天変地異のような変化を起こすのは良くないらしいが、小さな干渉をして利用後は元に戻すなら良いだろう。

「それがいいね!ありがとうマジム」

 私は彼に頼むことにした。

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