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第59話「末恐ろしいですなぁ」

少し短いです。

「では、始めるのね」

 私のクランの年長者であるバウとギルド受付嬢の二名が審判員をつとめる中、試験は始まろうとしていた。初戦は自称最弱であるアンネ。アンネローズである。

 彼女はベルの役に立つことを目標に毒の耐性や補助系統の魔法や剣舞中心に研鑽してきたそうだが、それ故に単体の戦闘能力には一番自信がないそうだ。その割に先の戦いでは活躍していたが……私はドキドキしながら彼女を見つめた。

 アーム支部長は、剣を構え呼吸を整えるアンネを前にして一切動かずに彼女の一挙一動を観察する。自称最弱、そう聞いても油断することなく、出方を伺っていた。

 アンネはその間に出来る限りの抵抗として補助魔法を自身に重ねがけし、そして動き出す。


「っっ!!」


 鋭く息を吐き、最大速度で突撃。愚直に突っ込むわけではなく、フェイントを交えつつ剣を振るう。そのままヒットアンドアウェイで何度か攻撃を仕掛けるが、流石にギルド支部長の防御は突破できない。初撃こそ見た目にそぐわない筋力に驚いた様子だったが、その後は軽くいなされる。

 このままではいけない、と考えたアンネは一度距離をとると自身に炎属性の補助魔法を掛けた。

 彼女の補助魔法は優秀だが、何より固有技能「憧憬の火炎舞」で効果が1.6倍になるという驚異の性能をもつ。アンネ自身は炎魔法を使うことは出来ないが、剣舞は別だ。

 鞘を取り出したアンネは、盗賊と闘った場面を思い出してから全身に魔力を巡らせる。炎華の剣舞、本来はものを持つのは片手のみだが、あのときの剣舞は……。


 剣が炎を散らし、アンネはそれを操っているかのように見事に舞ってみせた。もちろんそれはただの見世物の舞ではなく攻撃手段の剣舞だが、アーム支部長は思わずその姿に見とれていた。

 初撃、流れるように繰り出された一閃はアームの鼻先を掠めた。ハッとして集中を取り戻すアームだが、何故か度々魅了されたように思考が逸らされる。それに伴いアンネの攻撃への対処が遅れているようだ。

「これは……」

 少し狼狽えて呟くアーム支部長。様子見として反撃はしないが、彼は初めての感覚ににやりと口の端を上げた。

 少し続いたその攻防だが、やはり呆気なく終わる。早くもアンネの剣舞に慣れたアーム支部長が彼女の剣と鞘を掴んで動きを封じたのだ。間をあけて「では、終わるのね」とバウの声がして、二人は緊張を解く。


「君の剣術は自己流だが、剣舞は師に教わったのですかね。剣術に関してはCランク、しかし補助魔法の強力さを加えるとBが妥当ですな」

 アーム支部長は分析の結果をにこやかに告げ、アンネは嬉しそうに数度頷いた。彼女は元々のランクがDなので、飛び級したということ。それはそれは嬉しいだろう。

 飛び級は支部長に直接頼まなければ出来ないので、失敗して恥をかくリスクを犯してする者は比較的少数。この機会を逃さず手にした、その価値を彼女はわかっている。


 そのままいくつかのアドバイスをしたアーム支部長は、休憩も挟まずに次の戦いを望んだ。


「先程の戦いを見て……ライライの方が弱いと思ったのですが」

 ライライは眉尻を僅かに下げて言った。まあ、たしかに。アンネの攻撃は派手で華やかなので、虫を操って自分はそこまで動かない戦法をとる彼は自身と比較して自信がなくなってしまったのだろう。

 でも、私は彼は強いと思っている。そもそも女性は虫が苦手な人が多いし、男性でもライライほどの従魔の数だと苦手意識は持つだろう。何千もの虫の大軍……それは存在するだけでも視覚的にダメージを与える武器なのだ。

 彼はその強みを意識していない。かわいいうちの子、くらいにしか思っていないはずだ。操虫師という職業が忌避されていることから虫は好かれないとわかってはいるだろうが。


 そうして始まった模擬戦。

 結果はもちろんアーム支部長の勝利だが、彼は虫が苦手な人間だったようで顔色は優れない。焦ったライライが初めにほぼ全ての虫を召喚したため、そこは地獄絵図になっていた。

 まぁ、その数と正確な操作、指示、それから身体にスライムを纏って闘う技術からランクBとなったので、ライライは満足気であった。

 その後も順にバウ、リリア、ベル、トーマといった風に模擬戦が終わった。バウはそのままランクB、リリアは剛竜王の影響が強くA、トーマもA、そして私は……。




 アーム支部長の指示でギルド受付嬢とリリアが手を組んで半透明の防壁を張っている。剛竜王の鱗を思い起こさせる七色の輝きに受付嬢は見とれていた。

 そんな中バウの号令で始まった模擬戦だが、私の目標はSランクである。元よりベルがAランクなら自分はその上を行けると思っていたので、そのつもりだった。そうはいってもベルがAランクの下位か上位かで大分変わってくるが……。

 私は女神の天弓を構え、無造作に五発、魔力の矢を放った。四発目まではゆっくり射ったため全て見切られ避けられるが、それを見越して全力で射出した五発目に、アーム支部長は思わずと言ったふうに笑みを漏らした。

「見くびっていましたよ」という声が聞こえそうなくらいに、彼の気配がガラッと変わった。氷の魔力を込めたその矢を手刀で打ち落とした彼の手が凍りついた。

 その一瞬の隙を逃さず、私は魔法と同時に女神の短剣を持って距離を詰める。武器を持たないアームだが、彼は何らかの技能(スキル)を発動させて対応し、私は感心しながら攻撃を続ける。

 植物操作や氷魔法など動きを阻害する魔法を織り交ぜる、それは私の近接戦闘に必要不可欠だ。体格差や筋力の限界、幼女の姿は可愛らしく色んなお洒落が可能だが弱点が多い。それを補うのが魔法。

 しかし攻防を繰り広げるうちにアーム支部長は私の動きに慣れたのか余裕を持って対処をするようになる。苦しく思った私は距離を取り、手加減して追撃をしないアームの優しさを有難く思いながら息を吐いた。


「ハァ」


 魔力で防壁内を満たした私は、そのまま魔法を構築する。詠唱の代わりのため息は冷気を纏う。地面は凍りつき気温は下がり、私に有利な世界に変わる。防壁に囲われた比較的狭い空間だからこその威力、効果だ。

 氷の矢がアームに降り注ぎ、戦法が魔法主体に切り替わる。やむを得ずこちらに攻撃を仕掛けようとするアームだが、やはり氷の上では私が有利。まして魔法の使えないアームにはとても都合が悪い戦場だろう。

 そうして不毛な鬼ごっこが繰り広げられ、私は魔法で滑るように移動する。魔法で攻撃をしてもアームは粉砕するし、いま私には彼の攻撃は届かない。

 そう思われたが、アームは体術系の技能(スキル)を用いてか身体を僅かに赤く染め、熱を放出し始めた。溶け始めた彼の周囲の氷を見て、もはや魔法だろと突っ込みたくなる。

 私は溶けきる前に対策をしようと考えるが、何をしても粉々に散らされる未来しか見えない。意を決して、口を開いた。

『私はもっと強くなれる』

 魔力を帯びた声が鼓膜を揺らし、私は体の内側がぽかぽか暖かくなるのを感じた。力が漲り短剣を握る手がりきむ。天使の声の効果は相変わらず凄まじい。

 異変を察知してか身構えるアーム支部長に向かって、駆け出した。一歩目には地面属性魔法クエイクを込めて地割れを引き起こし、二歩めで斜めに跳び地割れを回避、その流れにのってアームに肉薄する。

 私は出せる限りの速度で短剣を振り抜いて……

「あっ、ぐ」

 アーム支部長に手首を掴まれ動きを止められると、地面にへたりこんだ。ああ、無理だこれ。

 私は心の中で呟いて、それから「今は」と付け足した。強くなって絶対に勝つという気持ちが沸き起こった。

「セルカ、君は……末恐ろしいですなぁ」

 私を見下ろす筋肉ダルマのアーム支部長は、魔王のような迫力とともに、優しい笑みを見せた。

読んでくださってありがとうございます。

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